第10話 初めての訓練

「たのもー」


 朝早く玄関を叩く音が聞こえる。

 ダラスだ。朝一なので大声ではない。以外に気遣いが出来るのである。


「おはようございます。よろしくお願いします」

 3人は準備をして待っていたので、すぐ家を出て挨拶をする。

 2匹も着いてくる。

 セシルは昨日の夜に、騎士様がセシルの剣と読み書きの勉強の為に来てくれたのだと聞かされ『魔法の結果が良かったからなのかな?』と何となく理解したが、1年以内に王都の学院の寮に1人で行くことになるとは理解していない。


「では早速始めるが、いきなり剣の素振りはせん。まずは使われずに眠ってしまっている筋肉を覚まさねばならん。農作業で剣を振る筋肉はある程度あるだろうが、柔軟性や走る筋肉など普段使ってないであろうからな。その辺りから覚まさせていく。」


「「はいっ」」


「良い返事だ、軽く柔軟した後ジョギングをする。その後しっかり柔軟だ」


 そうして軽い柔軟をして走り始める。マーモとライムも着いてくる。いつもマーモの後ろに乗って移動しているライムも今日はちゃんと降りてぴょんぴょん跳ねながら着いてくる。

 ジョギング程度ならなんとか着いて来られるようだ。

 一緒に走っているダラスが驚いたように聞く


「セシル、この魔物達はどこまで言っている事が分かる?」


「考えた事無かったです。今まで話が通じなかった事無いので、喋れないだけで全部分かっていると思っていました」


 ダラスがさらに驚愕の顔をする。


「そんな事があるのか!? たしかに移動用の従魔達もかなり賢いとは思っていたが……もしかしたらセシルと魔術的なパスで知識を共有出来ているのか?いや、ここまでの理解力は聞いた事無いが、他の従魔も実はそうなのだろうか?」


 うぬぬ。としばらく考え込んだ後、さらに質問を続ける。


「セシルは魔物の考えている事が分かるのか?」


「魔物じゃなくて、ライムとマーモと呼んで欲しいです」


 セシルの物言いにとロディとカーナが慌てて静止しようとするが、それをダラスが手を挙げて止める。


「すまん。ライムとマーモの考えている事は分かるのか?」


「はい。大体分かります。なんて言うか、ぽや~っと伝わってきます」


「ぽ、ぽや~?」


「はい。ぽや~っと」


「マーモの鳴き声の一つ一つの意味は分かるか?」


「それは分からないです」


「ふむ……まだ謎が多いな。この2匹も鍛えた方が良いのか?」


 セシルが2匹を見つめて何かを確認する。


「一緒に頑張るみたいです」


「分かった。まあ正直鍛え方もよく分からんが……考えてみよう」


 そんな話をしながら走っていると「思ったより楽だな」と走り始めに軽口を言っていたロディが、だんだんとキツくなってきたのか今では引き攣った顔になっている。

 カーナとセシルはもうギブアップ寸前だ。


「よーし! ジョギングはここまで。ストレッチするぞ。ロディとカーナの2人一組で、セシルは儂とやるぞ」


 はぁはぁと息を切らしながらストレッチをするロディとカーナにお叱りの言葉が飛ぶ


「おい!! 真面目にやれ! これも訓練だぞ! イチャイチャするな!」


「ちっちがっ! 走って息が切れているんですよ!!」

 2人はボッと顔を赤くして反論する。


「がははっ。そうか。それは失礼」


 分かって言っているな?と2人は苦々しい顔をしてストレッチを続ける。

 そんな中、1人の少年から悲鳴が上がる。


「ちょっ! たすけっ! ギブギブギブ」


「まだだ。深呼吸しろ」


「ヒッヒッ無理無理無理。いきっできなっ」


「なんだ情けない奴だな。おい!そこの2人ももっとしっかり押せ!変われっ」


ロディを押しているカーナが慌てて退くと、代わりにダラスがロディを押し始めた。


「ぎゃああああああ。無理無理ギブギブギブッ」


「なんだ親子揃って情けない。これぐらいやりなさい。カーナ、いいな?」


「はっはひぃ」


 ライムとマーモもストレッチらしきことをやっていた。

 ライムはこれ以上柔らかくならないと分かっているようで、マーモの上に乗っていた。ライムに乗られたマーモは前屈の姿勢でプルプルしながらナーと鳴いていた。お腹の肉が邪魔そうだ。


 こうして最初のトレーニングが終わった。

 ちなみにダラスは筋肉ダルマなのに意外に柔軟性があり、180度開脚や、地面に身体をべったりする柔軟性を見せ付け非常に気持ち悪かった。


「短い時間で明らかに楽な内容だったのにキツかったな」


「矛盾しているけどほんとその通りね。楽な内容なのに楽じゃなかったわ。セシルは大丈夫?」


「ちょっと大丈夫じゃないかも。主に股関節」


「あれは中々だったわね。ブチッと音がしてからが本番だって言っていたわよ」


 その言葉に3人と1匹がハァとため息を付き項垂れる。


「セシルはこれからお勉強ね。ゆっくり身体を休めるといいわ」


「ありがと。畑仕事手伝わなくてごめんね」


「気にしなくていいぞ! 雑草の除去もいつもライムとマーモがやってくれているからな、楽なもんだ。これもセシルのお陰だよ」


 セシルは自分も役に立てているのだと嬉しくなる。

 褒められたのはライムとマーモだが、それもセシルの力の1つだ。


「教えて下さるのは、あの凛とした女性の騎士様ね。どんな方なのかしら?」


「あぁ綺麗な方だったな~」


「あなた?」


 カーナがロディを睨む。


「ちッ違うぞ! これはただの感想であってだな」


 ロディが言い訳にならない言い訳をするので、空気を呼んだようにセシルが声を上げる。


「勉強頑張って来るねっ!」


「「頑張って」」

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