第105話 シャグモンキ―
セシルは目覚めると、ふわぁ~と両手を上げあくびをする。
北向きに作られた入口の隙間から薄っすらと入ってくる朝日を頼りに、四つん這いに入口に行かう。
隙間から外を覗き込み、周りに魔物が居ない事を確認すると、入口を隠している木々や土をどかす。
寝床に柔らかい日が入ってくると、マーモ達も「ナァ~」ポヨンポヨンと起き出してきた。
「おはよ」と声を掛け荷物をモソモソと漁り、薬草を取り出すと、石ですり潰して大きい葉に包むと背負い籠の中に入れる。
「よし、と。今日は食料探しからするよ。早く家を作りたいけど、もう食材が残ってないからね」
「ナー」ぴょんぴょん
背負い籠を背負うと、ライムがセシルの肩によじよじと登ってくる。
最初の目的地は近い水場だ。水分補給と顔などを洗うためだ。水場に着くと、顔を洗ってから先程すり潰した虫刺されと虫よけの薬草を身体中に塗る。
全体的に腫れはだいぶ引いているようだが、掻きむしって出来た傷がヒリヒリと痛み、顔を顰める。
「虫よけの薬草は家の近くで栽培しないと、すぐ足りなくなりそうだね。果物もいつも同じ場所では獲れないだろうし、住む場所を決めると少しは楽になるかと思ったけど、意外と薬草や食べ物に困りそうだね」
「ナ~」
「とりあえず果物探しに行こう!」
☆
昨日は川下の方に移動していったが、今日は山を登って行く事にした。
「結構、傾斜がキツイね。ライムが大きくなったから結構重たい」
時折足を滑らせながら登って行く。
しばらく登ると、キーキー ウホウホ ギャーギャーと言う鳴き声が至る所から聞こえて来た。
周りを見渡すと、果物がなっている木が群生していたが、猿の魔物の縄張りだったようだ。
威嚇してきているので後退りし、距離を取る。
「なんてこったい。縄張りじゃないか……多分、シャグモンキーとかいう奴だと思うけど、どうしよう」
シャグモンキーは体毛が濃く、ほとんど木の上を移動する。
大きさは1メートルから1.5メートルほどで、ゴブリンとそれほど変わらない。
木の上の移動は素早く、縄張り意識も強い。攻撃的な性格でかなり厄介な魔物だ。
「あれだよね。猿系も食べちゃダメなんだったよね? はぁ~ただ厄介なだけの魔物と出会っちゃったな。動き速いから斥力魔法なんて当ててもすぐ逃げられるだろうし、数も多いからこっちがやられちゃうな。森を燃やすわけにはいかないし……どうにか果物取れないかな」
「うわっ!! 何か投げて来た!! クサッ!! うんこじゃん!! ちょっやばい! 逃げよう!!」
「ナー!」
セシル達は滑る様に山を下って逃げる。
「50匹くらい居そうだったね。ありゃダメだ。僕たちの天敵だよ! 逃げる以外にどうしたらいいか分からないもん……残念だけどちょっと離れた所に探しに行こうか」
「ナ~」ぽよんぽよん
シャグモンキーの縄張りを大きく迂回しながら山を登っていく。
半刻ほど歩き、ようやく良さそうな場所を見付ける事が出来た。
「やぁ~っと果物たくさんなってる場所見付けた! バナナかな? ……ここまで探してバナナかぁああ~」
野生のバナナは種が異常に多く、口に含むと口内が種いっぱいになり、あまり食べた気になれない。
贅沢は言っていられないが、種が多い上に甘さも無い野生のバナナは、出来るだけ避けたい気持ちになっていた。
シャグモンキ―を恨めしく思いながら、はぁ~と溜息を吐き、仕方なくバナナを採取する事にした。
果物事態はライムに木を登ってもらい、上から落としてもらう事で簡単に採取出来る。
背負い籠一杯にバナナを入れると、朝ごはんを食べていなかった為、その場でもバナナを食べる。
ぺっぺっと種を吐きながら、めんどくささと味の無さについつい渋い顔をしてしまう。
マーモは皮を剥いてあげると種ごとモシャモシャと食べ、ライムは皮ごと体に取り込むと消化を始めた。
「はぁ~何でも食べれるライムが羨ましいよ。何でも食べれるからどこでも生活できるのに、僕の為にこんな危険な山奥まで付いて来てくれてるのが、申し訳ない気持ちになるね」
ライムがセシルの肩に乗ると触手を伸ばして頭を撫でる。
「ふふっ、ライムは優しいね。じゃ朝ごはん食べたし出発しますか」
バナナで重くなった背負い籠をグッと持ち上げる。
「ぬぉっ!? 重たすぎる。欲張り過ぎたみたい……ごめん。ライム肩から降りてもらえる? 僕もそんなに早く歩けないから」
ライムがピョンッと肩から飛び降りて、ぴょんぴょんと跳ねながら進む。ダラスとのトレーニングで走る練習をしたからこそ出来る芸当だ。
荷物の重さにバランスを崩し、何度か転倒しながらも、どうにか借宿に辿り着くことが出来た。
下りなのに行きの2倍の時間がかかってしまった。
荷物を置くと、ワイバーンの翼に大の字に転がる。
「ぐぇえええ。疲れたぁ~。そうだ。鍋とお皿作らないと」
少し休憩し身体を起こすと、また美味しくもないバナナを1つ食べてから作業を開始する。
☆
「お皿と鍋を作りまーす!」
「ナー」ぴょんぴょん
借宿近くに倒れていた木を斥力魔法で輪切りにすると、ライムとマーモに大まかな削り作業をやってもらい、セシルが細かい部分を削って行く。
細かい削り作業は多少のコツが必要だったが、ずっと魔法のコントロールをしてきたセシルはすぐに慣れ、あっという間に鍋と皿を作る事が出来た。
鍋と言っても、セシルが持てそうな小さめの寸胴の形に取っ手の穴を開けただけだ。
「よーし!! 鍋さえあれば汁物作れるよ!」
「ナー」ぴょんぴょん
「えーっと、焚き木を集めて、鍋を……火の上に……火の上に?……鍋燃えるじゃん!! 木の鍋、燃えるじゃん!」
「ナー?」
「ここまで気付かないってヤバくない? いや、我ながら凄いよ。……凄い馬鹿だよ。えぇ~普通気付くよねぇ~。えぇ~? 嘘でしょ。流石に自分で自分に引いちゃったわぁ~。うーゎ。ジワジワ心にくる。このミスはキツイよ。疲れてるのかな~?」
セシルは精神的にドッと疲れてしまい、四つん這いになって凹む。
「ナーッゲヘッ」ぼよんぼよん
マーモの口角が吊り上がってる。
「2人とも笑ってんじゃん。マーモのその馬鹿にした顔は何!? マーモとライムも僕と一緒に作ったじゃんっ!! ……僕が指示したけどさっ!」
「ナーッゲヘッ」ぼよんぼよん
「ぶはっ! なんだよその顔! ちょっと! あーもうくそぅ」
あーあ!と溜息の様に口から出ると、その場でゴロンと仰向けに転がる。
寝心地の悪い地面だなと思いながらも、さわさわと風を感じながら空を見ていると天啓が降りて来た。
「……とんでもない事に気が付いたよ。発想の転換ってやつ? 木に火を当てるんじゃなくて、上から火を当てたら良いんだよ! 僕たちで4つの火を当て続けたら、そこまで時間かからないでしょ! 手伝ってね!」
「ナァ~」ぽよん
マーモが明らかに渋い顔をしている。
「ぶはっ! 嫌そうにしないでよ~! そうだよね。毎回そんな事してらんないもんね。あ~もう分かった! 石で作ればいいんでしょ! 石で作れば」
借宿の近くで鍋が作れそうな岩を見付けると、削る場所が分かる様に小さい石で傷を付けて目安を作り、その傷に沿って斥力魔法で削っていく。
石鍋は寸胴型ではなく、少し丸みを帯びたフライパンのような形にする事にした。
先程木鍋を作って火に当てる所を想定した際、鍋の底が平べったいと逆に安定しない事に気付いたのだ。
石鍋の下部は岩を斜めに傾けて、出来た隙間に木を挟むなどの工夫をしながら作業をする。
かなりの時間が掛かり、日も傾いてきたが、ようやくそれらしいのが出来上がった。
「よーし! じゃこれから火の所に運ぶよ!! せーのっ!」
ぐらんぐらん。
運ぼうとするが、鍋は揺れるだけだ。
「……せーのっ!」
ぐらんぐらん
「持てないじゃん!! 重たすぎて持てないじゃん!! ここまで気が付かないのヤバくない? 下を削る時に、鍋を斜めに傾けるのですら大変だったんだから、持てる訳ないよね……いやぁ半日かかってこれはキッツイわ~。我ながら凄いよ。……凄い馬鹿だよ。えぇ~普通気付くよねぇ~。嘘でしょ。1日に2回やらかしてるのは流石にドン引きよ。このミスはキツイよ。……ほんとキツイ」
「ナーッゲヘッ」ぼよんぼよん
「もう笑われてもツッ込む気力もないね。……明日もっと薄く削るかな? 削り過ぎて穴が空くのが怖いけど、そんな事言ってる場合じゃないよね。バナナ食べて寝よ!」
「ナー」ぴょんぴょん
「あれ? ライム、今日やたらいっぱい食べるね? ある程度は好きに食べて良いけど、取って来たバナナ全部食べちゃだめだよ」
ぽよん
「あれ? 元気もあまりなさそう? 大丈夫?」
ぽよん
「大丈夫ならいいんだけど」
少しライムの様子を不安に思いながらも、ご飯を食べ終わると何時ものように借宿の入り口を隠して眠りに付いた。
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