第106話 ライム&ライム
翌朝、セシルはスッキリと目覚めると、んーっと伸びをする。
外に魔物がいないか確認してから、借宿を隠している木などを少しズラし外の光を取り入れる。
借宿の位置的に、直接太陽の日が入って来る事は無いが、岩や木などの反射日でやんわりと明るくなる。
外の天気の良さに満足し、寝ているライムとマーモを振り返ると、何か多い事に気が付いた。
「ん”!?」
セシルは自分がまだ寝ぼけているのかと目を擦る。
日の光でマーモも起きたようで、のそのそと動き出した。
身体を起こし、キョロキョロと周りを見渡したマーモも、横を見て思わず飛び跳ね
「ナ”ーッ!!?」
と叫んでしまう。
そう、ライムが2匹いるのだ。
ライムも起きたようでのっそり動き出した。2匹とも。
「えっ!? えーっと……とりあえず、おはよう」
「ナー」ぴょんぴょん
ライム2匹はシンクロするように飛び跳ねる。
「ちょっとまって、理解が追い付かないんだけど、ライムが2匹になってる?」
ぴょんぴょん
「えーっと、ライムはどっち? ライムは手を挙げてー」
2匹が触手をぴょこんと出す。
「2匹ともライムか~。確かに昨日の大きさから半分になってるっぽいもんね。分裂したのかな? スライムは食べるもので種類が変わる事があるってどっかで見た気がするんだけど、増えるパターンは想像してなかったなぁ~」
「……えーっと、とりあえず呼び方を決めないとね。名前がライムのままが良い人ー?」
ライムがぴょこんと触手を出す。
2匹とも。
「いやそうよね。2匹とも本人だもんね。また2匹がくっついて1匹に戻る事は出来るの?」
ライム達がフルフルと顔を振る。
「あっそれは無理なんだ? もう別人格……別スライム格と言っていいのかな?」
ライム達が、ぽよんぽよんと動く。
「やっぱり別なんだ? 魔法は使える? 火やってみて」
ライムたちがそれぞれボッと小さい火を点ける。
「ちっちゃ。ありがと。火は消して良いよ。僕の出してる火よりさらに小っちゃいね。半分くらいかな?」
ん~と考える。
「あれぇ? そう言えば斥力と引力魔法の2種類の魔法が使えるから、2匹の従魔が出来るって話じゃなかったっけ? 違ったのかな? あっそうだ!! 視力魔法で自分の魔力は見れるんだった!! ライムとの魔力パスはどうなってるのかな?」
視力魔法でライムとの繋がりを見る。
視力魔法では自分の魔力しか見る事が出来ず、他人の魔力は全く分からない。
「おっ? あっ。そういう感じ?」
マーモに伸びてる魔力とライム達に伸びてる魔力が、腹部から二手に別れていたが、ライム達に伸びている魔力は身体から少し離れた所で、さらに2つに別れて送られていた。
マーモと繋がっている魔力の半分の細さになっている。
「身体から出てるのは2本のままなのか。でも、よく考えたら『斥力と引力が使えるから、2匹も従魔に出来る説』はおかしな話だよね。それぞれの魔力が繋がってるなら斥力魔法を使えるマーモと、引力が使えるライム。みたいに片方の魔法しか使えないはずなのに、2匹とも斥力と引力の魔法使いこなせるからね。不思議がいっぱいだね」
セシルは視力魔法で自分の魔力パスを見ながら、ライム達の魔法を考える。
「魔力パスは以前と同じ大きさなのに、途中で枝分かれしてるから、魔力が半分になって火の大きさも半分なのか。元々蝋燭の火よりちょっと大きいかなくらいの火力だったのに、さらに小っちゃくなるなんてね……ライム達ちょっとこっち来て」
ライム達がセシルに付いてくると、家の前の手ごろな石に斥力魔法を当てて削らせてみた。
すると、石にジジジと線が入って行く。
「ほー。斥力魔法の削るスピードは変わらないけど、いつもより線が細い感じ? 問題ないね」
「えっと次は……ちょっと入口前で待ってて! 木の棒拾ってくるから、振ってみ……あっそうだ。ゴブリンの剣があった」
借宿の奥に四つん這いで進み、先日襲って来たゴブリンの錆びた剣を取ると、外に出てライムに渡す。
「よし! じゃこっちのライムから振ってみて!」
渡されたライムが剣を振る。
ブンッ
「おっ! 前と同じように振れるんだね。次はこっちのライムね」
ブンッ
「ちゃんと振れてるね。最近、剣の練習してなかったから、分裂する前のライムと、分裂した後のライムの力の差は分からないけど、王都にいた時の力はあるみたいだね。問題は名前……オスとかメスとか性別はあるの?」
2匹は共にふるふると身体を横に振る。
「ぬぬぬ……どっちがお兄ちゃんとかは?」
さっきと同じようにふるふると身体を横に振る。
「ぐぬぬ。1と2みたいにすると順番があるみたいで嫌だし、見た目も全く一緒なんだよなぁ。この際2人とも改名ね! ライ兄弟? 姉妹? の名前は『ライア』と『ライン』にしよう! えっとこっちのライムがライアで、こっちのライムがラインね! いい?」
ライム達はどうしようかとお互い目を合わせているようだった。目は無いが。
しばらく黙った後、それで納得したのか、上下にポヨンと動いた。
それを見てセシルはホッとする。
「良かった! ライア、ラインよろしくね! 2人を一緒に呼ぶ時はライライって呼ぶね」
セシルが両手を出すと、ライアとラインから触手がニュッと出て来てそれぞれの手に握手を交わす。
「ふふっ。2匹とも元がライムだから、改めて握手するのもおかしい気がするけどね。見分けがつかないから、それぞれ食事を変えたら見た目が変わったりしないかな? いや、でもライムも肉食するようになってから色変わったっけ? ……変わってないよね?」
マーモもライライも小首を傾げる。
「ずっと一緒に居ると、ちょっとした違いだと分からないよね。とりあえずライアは草か果物ばっかり食べて、ラインはお肉か魚ばっかり食べるのでも良い?」
ライライは上下にポヨンと動き、同意を示す。
「良かった! 草はどこでも手に入るけど、お肉は捕まえないとね! じゃ早速、魚捕りに行こう!」
「ナー」ぴょんぴょん
マーモとセシルにそれぞれ乗る。
分裂前の半分の重さになっているので、マーモは乗られても嫌がる素振りはない。
「えーっと、どっちだ? ライア手を挙げてー」
セシルに乗ったライアが触手をピョッと出す。
「僕の肩に乗った方がライアね。えっと草食で僕の肩に乗るのがライア、マーモの背に乗ってるのが肉食でラインね。今後も特別な理由がない限り、なるべく同じ方に乗る様にね! そうすると見分けがつくし」
それぞれがポヨンと返事をする。
「あっ……ウンチの処理はどっちだ? えっと僕もマーモもお肉食べる事あるから肉扱いで良いのかな? ……肉を手に入れるの難しい事もあるし、ウンチはライン担当ね!」
ポヨン
ラインの返事を確認すると改めて魚捕りに出発する。
しばらく歩くと、離れた所に豚の様な顔をした背の高い魔物が、ノッシノッシと歩いているのが見えた。
豚なのに二足歩行をしている。オークだ。
セシル達はサッと木の陰に隠れる。
「おぉぉ。初めて見た。おっきいね~」
オークは3匹で歩いている。2足歩行で2匹は手ぶらだが、1匹は木の棒を持っており、身長は2.5メートルはありそうだ。
隠れたまま様子を見ていると、オークたちが鼻をピクピクさせ始めた。
「あっヤバい!! こっち風上だ!!」
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