第205話 洞窟の奥へ


 火に当て、乾かした服を着直す。


「どうする? まだ寝るには早いが」

「どうしようか。さっきちょっと仮眠したからね。正直まだ眠いけど」

「私も眠い。でも今寝たら夜寝られなくなるよね」

「マーモット達は先に寝かしちゃったけどな」

「ライライは全然寝てないから、今日はもう寝ようか。洞窟の魔物避けは……置いといた方がいいかな?」

「明日もし洞窟の奥に行くなら置かない方がいいんじゃないか? マーモ達が通れなくなっちまう」

「洞窟の水場を乗っ取るのは盾と出来ればマーモット達の鎧を作ってからになるから数日後かなぁ」

「じゃ魔物避け置いて来る?」

「奥はますます臭そうだよね……」

「じゃ玄関の崩されたブロックを洞窟穴に積めばいいんじゃないか?」

「確かに……う~、どちらもしんどい」


 悩んだ末、結局ブロックを積む事にした。

 重い身体を引きずり、洞窟穴をある程度塞ぐ様にブロックを積み込んでいく。

 マーモット達も物音に起きるが、危険が迫ってるわけではないと分かると迷惑そうな顔だけして欠伸をしてそのまま丸まった。

 マーモはライライと共に火魔法で明り取りをしてくれている。


「クッ、こいつら。迷惑そうな顔してやがったぞ。確かに今手伝うことはないけどよ。ナンバーが鳥に運ばれたからまたナンバー2を決める序列戦が必要なんじゃないか? なっ? ユーナ」

「勘弁してぇ」


 ヨトの言にユーナは心底嫌そうな顔をする。


 そうこうしながら穴の半分ほどまで積み込むことが出来た。


「通る時は崩れた音がするだろうからこれくらいで良いでしょ」

「あ~疲れた。もう寝よう」

「了解。おやすみ」

「ナー」「ピー」「ピョー」


 それぞれの部屋に分かれるとセシルはワイバーンの敷布団に横になった。


「あー疲れた。……スンスン。うわ、くっさ」


 ワイバーンの敷布団に魚っさんの生臭い臭いと血の臭いが染み付いてしまっており、うなされながら寝る事になってしまった。




 結局、疲れからか誰も目覚める事無く翌日を迎える。

 セシルが疲れの抜けきれない身体で廊下に出るとユーナがトイレから出て来た所だった。


「おはよう」「ピー」「ピョー」


 ライアとラインも交互に発光を止めて笛魔法で挨拶をする。

 別部屋からもマーモカップルが出てくる。

 昨日は流石に生殖行為は控えたようで静かな夜だった。

「ナーナー」


「セシルさんライライちゃん、マーモちゃん達もおはよう」「「ナー ナー」」


 マーモット達はしっかり休んで元気そうだ。

 野外で生きていた時に比べると遥かに環境が良いのだろう。


「あんまり臭く感じなくなったね」

「たぶん臭いままだと思うよ……一晩臭い所で過ごして鼻が慣れたんじゃないかな」


 話しているとヨトも寝室から出てくる。


「おはよー。一度外に出るとまた臭く感じるんじゃねぇか?」

「そうだろうね。臭いところから離れたいのに逆に外に出たくなくなってくる不思議」

「とりあえず川に行って臭い付いてそうなの洗いに行こうよ。雨は止んでいるかな?」


 全員で外を遠目に見ると少し薄暗いが止んでいるように見える。


「止んでそうだね。とりあえず朝ごはん食べよう。っとその前にトイレ」


 セシルがトイレに行っている間にヨトとユーナは昨日火を通した内臓を持って外に向かう。

 天井に光取りのいくつかの穴とライライも身体を発光させているとは言え、やはり家の中は薄暗い。出来るだけ外で食事をしたい。


「(ヒッ)」

「!!?」


 外に向かったユーナが声にならない声を上げ、ヨトも引き攣った顔をする。


 セシルがトイレから出てくるとゆっくり後退りしてくるユーナ達がいた。


「ん? どうしたの?」

「(静かにっ)」


 ヨトが静かな声で注意する。


「(魔物が集まっている)」

「(えっ魔物って何?)」

「(色々いる。全部は見れていないがティタノボアにウルフやらラプター、デカい虫みたいなのも色々集まって争っていたぞ)」

「(うえっなんで!?)」

「(多分、アンキロドラゴンの死体の臭いで集まったは良いけど、硬くて食べられないから集まった奴らで争っているんだろう)」

「(まじ? でも、逆の発想でそいつら食料にすればよくない?)」

「(ちょっと数が多すぎるからセシルでも厳しいと思う。玄関のブロックも1/3は奥に持って行ってしまったから守る壁も少ない。とりあえず、必要な荷物持って洞窟の奥に避難した方が良いと思う)」

「(分かった)」


 ヨトは自分の意見が無条件で通った事にこっそり感動して、こっそり涙ぐむがバレない様にグッと我慢する。


「(よし、じゃ急ぐぞ)」


 ヨトの急な張り切りにユーナとセシルは違和感を感じるが今突っ込む事では無いとスルーし、昨日積んでしまったブロックをどかしつつ、ほとんど全部の荷物を行ったり来たりしながらも静かに運んだ。

 全員が穴を通ったのを確認して最後にセシルが穴を通る。


「とりあえずここなら入口が狭いから外から魔物入って来ても対応出来るでしょ。てことで、これからどうする?」

「どうしよ? 洞窟の奥に別の出口無いんだよね?」

「うん。多分どっかにあるんだろうけど今の所見つけてない」

「どうする?」

「どうしよ?」

「……」

「……」


 沈黙が続き、思わず「ふふっ」とユーナが笑うとヨトとセシルも「ぷっぶひひっ」と静かに笑いだしてしまう。

 緊張感が逆に笑いを我慢出来なくしてしまったのだ。


「ははっ、いやほんとどうしよう……予定狂ったなぁ。とりあえず洞窟の水場を制圧しに行くしかないか。その前にミツビオアルマジロの甲羅に紐だけ通して盾を作ろうか。皆も今のうちに内臓食べといて」


 セシルも魔法で甲羅に穴を開けつつも内臓を口に運ぶ。


「全員食べれた?」

「ナー」


マーモが指示して子供から食べさせたので漏れは無いようだ。


「でもこの人数だと少ししか食べられなかったね」

「洞窟の中でも食べられそうなやつ見付けたらそれも積極的に獲ろう」

「分かった」

「あ~あしばらく洞窟生活なのかなぁ? 洞窟の中は一度濡れたら乾かないのが嫌なんだよね」

「すごく寒いしな」

「寒くなったらマーモットの子を抱きしめようかな」

「おっそれいいな。てかセシルがウルフの毛皮の切れ端を繋ぎ合わせてくれるって言ってなかったか?」

「そう言えばそんな話したね。でも、残ってるの見ると出来てもユーナ一人分くらいじゃない?」

「一人分でもないよりマシだろ」

「それもそうだね。じゃ四隅に適当に穴だけ開けるから自分たちで紐通して」

「分かった。ユーナの服作るぞ」

「やったー!」


 それぞれ盾と服の作成が終わる。


「なんか思っていたのと違う」


 ユーナは服の出来栄えに、唇を尖らせ非常に不満そうな顔をする。

 つぎはぎの服は形もいびつで、服と服を繋ぐ紐も太めなのでボコボコしており着心地も悪く、ずっしりと重たい。

 良くも悪くも……この場合は悪くも大人でも余裕で着れそうなフリーサイズだ。


「仕方ないだろ。暗いし、材料も無いんだ。着られるだけありがたいと思え」

「じゃお兄ちゃんが着て良いよ」

「い、いや、それは違うだろ。ユーナが着るために作ったんだから」

「ほんとはお兄ちゃんもこれは着たくないんでしょ?」

「そんな事は無い」

「じゃ、寒くなるまでお兄ちゃん着てよ。寒くなったら返してもらう」

「どんだけぇ~」

「真面目な話、私には重たすぎると思わない?」

「それは……そうだよな。縄が重たいよなぁ」

「そもそも皮も重たいよね」

「とりあえず今日は我慢してそれ着なよ。帝国のおっさんがいっぱい日用品持ってくるって言っていたから、その時多めに服を買えば良いでしょ」

「そもそもおっさん達はここまで来る事出来るのか? 俺らも玄関まで戻れない状況なのに」

「セシルさん別の場所に出口作れる?」

「出来るか出来ないかで言えば出来るけど、全く方向が違うところに出口作るのなんて距離も分からないし数週間か、下手したら1ヵ月はかかるんじゃないかな」

「そんなにかかるのかぁ」

「僕なんて『賢者の卵のまま羽化しなかった不憫なやつ』だからこんなもんだよ」

「お兄ちゃんが余計な事言うから根に持ってんじゃん!」

「ごめんって、実際はお前の事すげぇ奴だと思っているからこその軽口だったんだぜ? 分かるだろ?」


 セシルは細めでジトッとヨトを見ると、ヨトは気まずそうに眼を逸らす。


「冗談冗談。とりあえず別の出口作るにしても水場は確保しとかないとだし、そろそろ行こう」

「荷物どうする?」

「見張りで誰か残る?」

「いや……見張った所で魔物来たら逃げるしかなさそうだし意味ないよね。大半は置いておくしかないかな」

「そうだね。分かった」


 それぞれ必要最低限の荷物を持って移動を開始する。

 つぎはぎの服は結局、ユーナが寒くなるまでヨトが着ていく事になったのだった。

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