第177話 太陽と時間
帝国代官ベナスの私兵2人と大森林の案内人役の冒険者5人は川辺で1泊し、現在は川で取った魚で朝食を食べていた。
「いやぁ~ありがてぇ。久しぶりにまともな食事が出来た」
「最近はキノコやら虫、野草ばっかりだったからな。ウルフ系でも襲ってくりゃ返り討ちにして腹に収めてやるが、ポストスクスがいると近寄っても来ねぇ。ポストスクスの存在は魔物避けとして頼もしいが、肉が欲しい時だけは恨めしいな」
「……迷宮での食糧問題があるな。捜索にどれくらい時間が掛るか分からんから、ここで少し魚を燻して保存食を補充していきたいんだがどう思う? 後の部隊が食料を持って来ているはずだが、いつ来るかハッキリ分からんしな」
「ああ、俺もそれが良いと思うぜ。なんなら今日は1日それに時間を充ててもいんじゃないか?」
冒険者の意見に兵士のスマフが考えを巡らせる。
このグループの指示は主にスマフが決める事になっているが、ディビジ大森林初心者の彼は冒険者の意見を重要視している。
(ここで1日ロスしても問題ないか?
自分たちの後は10名の後続部隊が追随してやって来ている。
それまでに迷宮の状況をある程度把握しておく必要があるが……後続はセシルとの交渉材料などを運んできている。ポストスクス1に馬6のみで移動してきた自分たちとは数日から遅ければ1週間ほど距離が開いているかもしれない)
「……そうだな。問題ないだろう。大森林に入ってから移動続きであったし、ここで休憩も兼ねて1日保存食を作ろう。周囲への警戒は怠るなよ」
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「ヒッ」
セシルは目覚めた瞬間、小さく悲鳴を上げた。
それもそのはず、目が覚めるとライアとラインの明滅する明かりの中、見覚えのない大量のマーモットがジーっとセシルを見ていたのだ。
マーモの姿は見えない。
あぁそう言えば野生のマーモット達と一緒に住むことになったのだと思い出す。
「おっおはよう」
通じる訳もないがとりあえず挨拶をする。
「マーモはまだ起きてないの?」
とりあえず起き上がりトイレに向かうと、ゾロゾロとマーモット達が付いて来た。
「……トイレ行くだけだから、待っていてくれないかなぁ」
セシルは言葉が通じない事にため息をつく。
数多の視線を感じながらもおしっこを終えると、マーモが寝ているだろう裏通路を覗く。
そこにはパートナーと共に幸せそうに寝ているマーモがいた。
「ここまで近付いて起きないなんて珍しいな。よっぽど疲れたのかな? 昨日の夜は煩かったもんなぁ」
しばらく見ていても起きる様子が無いので、起こす事にする。
「マーモ~起きる時間だよ~」
特に起きる時間を決めているわけではないが、洞窟内に薄っすらと入る光の具合からいつもより起きるのが遅い。
――――玄関前は外壁を作っている上に窓も無いため、以前は午前中の短い時間しか光が入る事が無かったが、現在は複数個所に岩山を突き抜けるように小さい穴が開けられており、ほんの少しだけ光が入るようになっている。
実はこの穴はヨトが思いつき、それはナイスアイデアだと早速穴が開けられることになったのだ。
いつもライアとラインの側にいて明かりがあるセシルと違って、ヨトとユーナは暗闇での移動を余儀なくされる事も多く死活問題だったのだ。
最初は通路のど真ん中から真上に1つ直径1cm程度の穴を開けた。
岩山は非常に高さがあり、穴を貫通させるにはそれなりに時間がかかる作業で、日常生活や隠し部屋の作成をしつつ穴を開けるのは3日に1本くらいしか出来ない。
初めて穴を開けた翌日はわざわざ昼に家まで戻ってきて真上に太陽が昇るのをジッと待つ事になった。
廊下に薄っすらと光が漏れて来た時には3人で喜び、セシルとユーナははヨトを称賛した。
褒められて調子に乗ったヨトは「角度を付けた穴を開ける事によって光が入る角度が変わり、家の中に居ても時間が分かり便利ではないか?」と賢い事を言い始めたので、3人ともその意見に沸き立った。
だが意気揚々と次の穴に取り掛かった翌日、強めの雨が降ったので家で過ごしていたら真上に開けた穴から雨漏りし始めたのである。
1センチ程度の穴ではそこまでドバドバと雨が流れてくるわけではないが、鬱陶しいくらいにはポタポタと落ちて来る。
イライラしたセシルとユーナがヨトを理不尽に糾弾する場面があったが、それどころではないだろ!とヨトが訴え、雨漏り位置から玄関先まで通路の真ん中を縦断するように溝を作る事になった。
この失敗から3人で話し合った結果、以降は通路の両端に細い側溝を作り、その上に角度を付けた穴を開ける事になった。通路の真ん中で無ければ水が落ちて来ても問題無いだろうという結論だ。
最初にど真ん中に開けてしまった穴は今のところ雨を防ぎようが無いので、ポタポタと落ちるのを我慢している。水分補給に使えるかもと溜めてみたが、泥混じりでとても飲めそうになかったのでそれも諦めるしかなかった。
通路の端でいろんな角度で20か所程度穴をあけ終わった後でユーナが「雨期大丈夫なのかな?」とボソッと言うと、セシルとヨトの肩が一瞬ビクッと反応したが問題を先送りにし聞かなかった事にした――――。
――――そんなこんなで光の入る角度でおおよその時間を把握したセシルがマーモを起こす。
セシルの声にマーモが目をシバシバさせながら「ナァ~~」ととぼけた鳴き声を出しながら顔を上げた。
それに釣られるように横に寝ていたメスも目をゆっくり開く。
「……ナッ!?」
メスは目を開けた瞬間、人間に見られている事に驚き飛び跳ね、狭い通路の壁にゴツンとぶつかってしまった。
「ぴぎゃっ」
「ナ~」
マーモがメスに近付き、打った所を舐めてあげる。
「ナァ」
「ナァ」
次第に甘い空気が2人に流れ始めるのを感じたセシルは慌てて手をパンパンと叩き、注意を引き付ける。
「すとーっぷ!! 今日ぐらいは2人に1日ゆっくりラブラブしてもらいたい気持ちもあるけど、マーモット達の通訳してもらいたいからごめんね。」
マーモの下半身はすでにお元気遊ばせしていたが「ナァ~」と情けない声を出して行為に取り掛かるのを辞めた。
「おはよぉ~」
「おはよ。何やってんだ?」
ヨトとユーナも起きてきたようだ。
2人も昨夜のマーモペアの嬌声で中々寝付けずまだ眠そうにしている。
「おはよう。マーモを起こしていただけだよ。もう日が昇っているから、準備出来たら水浴びと水の補充行くよ」
「分かった。川のちょっと深いところで水浴びと魚を食べて、その後家の近くの湧き水に移動して補給って感じかな?」
「うん。そうだね。そんな感じで。少しでも水運べそうな容器は全部持っていこう」
バタバタと準備を終えると、人数が多い分いつも以上に周囲を警戒しながら川に向かって出発するのであった。
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