第45話 学院生活
ついに学院生活が始まる。
貴族にそれぞれ侍女や執事が付くと言っても、流石に授業中などは家事や書類仕事などそれぞれの仕事をしている為、子供達だけで授業を受ける事になる。
セシルは深呼吸して受験を受けた教室に入っていく。
セシルにとってこの教室は自分以外全員が貴族という四面楚歌状態だ。
中に入ると真っ先にマリーの赤茶色の髪が目に入って来た。
入学式の時、セシルがマリーに謝罪した際、荒ぶっておられたので緊張気味に挨拶する。
「マリー様、おはようございます」
「あらセシル。ごきげんよう。昨日の入学式では、はしたない姿をお見せしましたわ」
「僕が間違えたので……」
「間違えていたことは伝わっていたのね。私を珍獣を見る様な目で見てたから理解してないかと思いましたわ」
「そっそんな、少ししかそんな目で見てないです」
「すっ……少しは見てたのね」
『少し見とったんかい!』と大声でツッコみたかったが、グッと我慢して静かに答える。マリーも成長しているのだ。
次の言葉を探していると第二王子が取り巻きを連れて教室に入って来た。
「セシル、おはよう」
「クリスタ様っ、おはようございます」
クリスタの取り巻きをしていた子供たちが舌打ちをする。
「跪けよ平民が」と言う言葉が飛び出し、セシルが膝を付こうとしたので、クリスタが慌てて止める。
「学院ではそのような行動は不要だよ」
跪けと言った子供を見て注意する。
「2度とそのような事を言わないように(いやマジで)」
「ハッ失礼しました」
いきなり王との約束を破ってしまいそうになった事に冷汗が出る。
クリスタの取り巻きは中級貴族の伯爵や子爵が多く、クリスタの機嫌を取って好かれようとしているのだ。
これは入学前から親にクリスタに媚びを売って仲良くなるように。と耳にタコが出来るほど言われているので必死である。
さらに、この教室では自分たちが下の爵位になってしまう為、さらに下であるセシルは自尊心を満たすのに丁度良く、的にしやすい。
セシルはどうしたら良いか分からず、中途半端に中腰で停止した状態で様子を見ている。
「セシル、立って大丈夫だよ。私は君と友達になりたいと思っている。気軽にクリスタと呼んでおくれ」
「なっ!? クリスタ様! それはいくらなんでも!」
周りの貴族達が騒ぎ立てる。
「申し訳ございません。呼び捨てには出来ません。クリスタ様」
「当然だ! 本来、平民如きがクリスタ様と話す事すら許されんのだ」
「いやいや、学院では貴族も平民もないと言ってるであろう」
校則では校内で身分差を翳す事は禁止されている。
にもかかわらず教室や校舎を貴族と平民で分けているのは、教室に関しては勉強の進捗度の差の要因が大きいが、校舎に関しては貴族による身分差別で余りにも問題が頻発してしまう為に行われた措置である。
校舎や教室を分けてしまった事で、さらに特権階級意識が強くなってしまった事がこの学院の問題点である。
「いや、しかし!」
「席に着けー」
そこで先生が入ってきたため、話が終わってしまった。
クリスタとセシルは、別々の理由でこれからの学院生活を想像し溜息をつくのだった。
授業は最近発明された黒板が使われる。
本は高価な為、生徒それぞれに配る教科書のようなものはない。計算などは生徒全員に配られた小さい黒板で、書いては消してを繰り返し5年間同じものを使う事になっている。
最初の授業では、ごくごく簡単な計算や魔法の座学などが行われた。
この教室にいる貴族たちは、すでに理解している内容なのでボーッと外を見たり、自分の黒板にお絵描きをして時間を潰しているが、セシルには普通レベルの内容なので一生懸命授業を受ける。
その必死な姿もまた貴族達の嘲笑を買う要因となってしまう。
隣に座ってるマリーも必死に授業を受けているのだが『流石は侯爵令嬢様だ。努力家でいらっしゃる』と高評価だ。
マリーの成績が、セシルを除いたこのクラスで断トツで最下位だったと言う事を誰も知らない。
もちろんマリーも落ち着いて試験に望めばこのクラスでもトップクラスに成績が良いのだが、もう失敗は許されない為必死なのである。
授業最初の日なので、授業は午前中で終わりとなっている。
その為、座学も短時間で終わり、魔法の実践授業に移る。
「では校庭に集まりなさい」
校庭に向かって歩いているとマリーから声が掛かった
「セシル、授業は着いていけてるかしら?」
「はい、今日のやつは勉強してたので」
「分からなくなったら私に聞くと良いわ」
マリーは授業を受けて自信を取り戻しつつある。
大賢者の卵と仲良くなれ。という親からのミッションもある為、今までの印象を取り返そうと必死である。
「ありがとうございます」
「私にも遠慮なく聞くといい」
マリーと同じく仲良くなれミッションを受けているクリスタも乗っかってくる。
「ありがとうございます」
第二王子や、とても可愛く努力家(に見える)で侯爵家のマリーと話す平民はさらに悪目立ちしてしまう。
セシルは背後から舌打ちと、恨みったらしい視線が突き刺さるのを感じながら校庭に着いた。
「セシルはこちらに来なさい」
呼び出されて行くと、先生の横には灰色の髪を後ろでに縛って大人にしては少し背の低めでぽっちゃりした男の人が立っていた。
「こちらの方は宮廷魔術師のライオット様だ。これからセシル専属の魔法の先生となる。挨拶をせよ」
学生の間でどよめきが起こる。
魔術科の生徒の中で宮廷魔術師と言えば憧れの存在である。魔法に置いて一流なのだ。
貴族であっても実力が無ければ入る事が出来ない。
そんな憧れの人が上位貴族を差し置いて、いや
セシルは1日で一部の貴族達のヘイトを余すことなく集めていく。
もちろん大賢者に憧れている生徒などは素直に凄いと賞賛の声を送っているが、悪い言葉や態度の方が目立ち、誉め言葉は得てして本人には届きにくい物である。
「セシル=トルカです。よろしくお願いします」
「ライオット=メリー=ソルセルリだ。よろしく頼む。今日から専属で教える事になった。ライオットと呼ぶと良い」
ライオットは堂々とした喋りが苦手な為、初対面の印象が出来る男に見える様、このセリフを何度も家で練習して来た。
ライオットを見る周りの子供たちの憧れの目を見ると練習の成果は出ているようだ。
「はい。ライオット様」
「魔法の実技の時間は、私と1対1の授業となるからそのつもりで。では、こちらに来なさい」
「はい。よろしくお願いします」
他の生徒から離れ、ライオットに着いて行くとそこは実技試験を受けた場所だった。
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