第118話 帝国の冒険者達1
帝国のディビジ大森林の窓口となる位置に存在する街カルダゴ。
冒険者御用達の安居酒屋の一角で1人飲んでる男がいた。
セシルを誘拐しようとし壊滅した冒険者の唯一の生き残り、カッツォだ。
1人酒をしているカッツォを見た冒険者のチリエグヌが話しかける。
「お? カッツォじゃねぇか。おめぇが1人で呑んでるなんて珍しいな。護衛で王国に向かったんじゃなかったか? えらい早いお帰りじゃないか」
「チリか。ああ。まっ、事情があってな」
「トライ達はどうした?」
「あー……死んだよ」
「何っ!? あのトライが!? 他のメンバーは無事なのか?」
「声がでけぇよ。全員だよ。俺以外全員」
「嘘だろ!? お前らが下手こく姿が思い浮かばねぇぞ!? ワイバーンでも出やがったか?」
「それは……」
カッツォは周りを見渡す。
「お前が話しかけて来たのも何かの縁だな。ここじゃ話せねぇ。ちょっと場所を移すぞ。儲け話がある」
「なんだ? 儲け話はありがてぇが、お前らが全滅するほどの話なら危険すぎるだろ。乗らねぇぞ?」
「次は万全を期す。大丈夫だ。一生遊んで暮らせるだけの金が入るぞ」
「おい。本当だろうな?」
「ああ俺を信じろ。個室のある所に行くぞ。それと任務失敗の賠償金を払って金が無くなってしまってな。この安居酒屋でほとんど使い切っちまうんだが……?」
「チッ。大した情報じゃなかったら絶対お前の分払わねぇからな」
「奢らせてくれと懇願するようになるさ」
「……それはねぇだろ」
2人は個室のある少し高級なお店に移動し、つまみを食べながら呑んでいた。
「それで、儲け話ってのは?」
チリエグヌがこの質問をするのはすでに5回目だ。
カッツォは奢ってもらうつもりなので、本題に入る前に少しでも呑もうと、はぐらかしていた。
しかし、そろそろ引き延ばすのも限界かと話始める。
「そんながっつくなよ。皇帝が大賢者の卵を探してるのは知ってるだろ?」
「ああもちろんだ。まさか?」
「そのまさかだよ。俺たちはセシルを発見した」
「まじかよ! 捕まえたのか? 今どこに匿ってる?」
「シッ、もう少し小さい声で話せ」
「あっああ、すまない。で今どこにいるんだ? 皇帝に差し出すのか?」
「落ち着けって。セシルを捕まえ損なったから安居酒屋なんかで酒を呑んでたんだ」
「なんだ捕まえてねぇのかよ」
「捕まえてたらお前に話持ちかけねぇだろ。今頃1人で大儲けして冒険者なんて引退してるよ」
「それもそうか」
「お前にこの話したのが失敗に思えて来たぜ」
「へへっ。もう聞いちまったんだ。後戻り出来ねぇぜ」
「いや、肝心な情報話してないからまだ大丈夫だろ。じゃこの話は無かった事で」
カッツォは席を立つが、チリエグヌは慌てる様子もなく座ったまま声を掛ける。
「お前、ここの飲み食い代支払えるのか? 俺は今の情報で満足してねぇぞ」
「チッ。タダ呑み出来ると思ったが、見逃してもらえなかったか」
「当たり前だ。さっさと話せ」
カッツォは席に座り直す。
「順を追って話そう」
「そうだな。お前らのチームが壊滅した理由も知りたいからな」
「俺たちは行商人の護衛で王国側に向かっていて、旅は順調だった。そして、とある休憩所で賢者の卵セシルを発見した」
「そのセシルってのは護衛付きか?」
「ちょっと待て、どこで盗み聞きされるか分からねぇ。今後の為に、隠語としてセシルを卵と呼ぶことにしよう」
「いつになく慎重だな。卵だな。分かった」
「慎重にもなるさ。俺は今回、ギルドに預けてた金も取られて、ほぼ無一文になっちまったんだ。再起を図るためにこれに掛けてるんだ。お前も気を付けろよ」
「ああ分かった」
「それで護衛についてだったな。聞いて驚くなよ。最弱に位置するスライムとマーモットの従魔2匹と10歳前後の卵1人だけだ」
「ん~? 確かに凄い事だが、ポストスクスに乗ってれば可能だろ?」
「だから言っただろ。従魔2匹と卵1人だけだって」
「どういう事だよ」
「かぁ~察しが悪いな。徒歩だよ! ディビジ大森林を徒歩!」
「はっ? 馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺が嘘の情報だと判断しても奢らねぇぞ」
「まあそうなるよな。俺も直接見てなきゃ信じられねぇよ。まあとりあえず続きを話すぜ」
チリエグヌは不承不承頷く。
「それでだ。卵を見付けた俺達は話合いをしたんだ。その結果、護衛任務を放棄して卵を誘拐する事になった。そっちの方が護衛より圧倒的に金になると踏んでな」
「ほーぅ。面白くなってきやがったな」
「だろう? 俺はもしかすると吟遊詩人の才能があるかもしれねぇ」
「まだ触りしか喋ってないだろうが、ふざけてないでサッサと話せよ」
カッツォは酒を一口呑み続きを話す。
「俺らは夜番をしながらジッとその時を待った。そして遂にその時が来た。雇い主が寝て、卵と従魔も寝たのを遠目で確認すると俺らは動き出した」
「ん? 卵も夜番を付けずに寝たのか?」
「最初は卵とマーモットが交代で起きてたようだったんだが、2匹とも寝たんだよ。それを見た俺たちは『俺たちが夜番をしてるから安心して寝たんだな』と思ったんだよ。だが違ったんだ」
「匹て」
「卵って言ってるんだから匹って数えた方がいいだろうが」
「分かった分かった。それでそれで」
「まさかだ。まさかの事が起きたんだ。驚くんじぇねぇぞ」
「さっさと話せ」
「スライムが起きてやがったんだ。スライムが卵達を起こしやがった。だが俺らも伊達に長年冒険者をやってるわけじゃねぇ。あっという間に取り囲んでお縄よ」
「お縄って捕まった時に言う言葉なんじゃねぇのか?」
「卵が俺らに捕まってるんだからいいだろうが」
「まあそれはいいが、なんだよ。結局大した事無かったんじゃねぇか。実はスライムが起きてた話、必要だったか? ところでスライムって寝ないのか?」
「いや……どうなんだ? あいつら見た目じゃ寝てるか起きてる分からねぇもんな。もしかしら寝ないのかも知れねぇな」
「そんな事どうでも良いから続き話せよ」
「おめえが話、反らしたんじゃねぇか」
「いやそれはおかしい。お前が謎にスライムが起きてた話を盛り上げるからだろう」
「分かった分かった俺が悪かったよ。続き話すぞ。……卵の手を縛り、目と口を隠す。マーモットは口を縛る。スライムは盗んだ行商人の壺に入れた」
「なんだよ。完璧じゃねぇか」
「そう完璧だ。ポストスクス3匹を盗んで休憩所を出て帝国方面に戻っていく。まだ暗さが残る道で、足元の安全を確認しながらゆっくりとな。その時だ!」
チリエグヌはゴクッと唾をのむ。
「……何だかんだあって、俺らは全滅した」
「何だよ! その何だかんだをちゃんと話せよ! そこが大事な所だろうがよ!」
「さて、どうする。ここから先は確約が欲しい。まずはこのお店を奢ってくれるのか? それと協力するのかどうかだ」
「くそっ話気になっちまうじゃねぇか。分かったよ。その何だかんだを話すならこの店は俺が持つことは確約しよう。だが、協力するかどうかはその話の危険度を聞いてからだな」
「そりゃそうだな。お前が慎重なやつだと分かって安心したよ。じゃねぇと一緒に仕事なんて出来ねぇからな」
「何だよ。試してたのかよ」
「気を悪くしないでくれ。慎重に行きたいんだ。じゃっ、話の続きをしよう。まだ暗さが残る道で、足元の安全を確認しながらゆっくり進んでいたんだ――――――」
今度は話を止める事無く大雑把に話していく。
「――――――って感じだな。分かったか?」
「……いや分からん。お前らはどうやってヤラレたんだ?」
「だから、俺はマーモットに噛まれた」
「他は?」
「1人はスライムに魔法でヤラレたが、他は見てないから分からん。あっそうだ。スライムに消化液で目をヤラレたってのもあったか」
「スライムが魔法を使ってるってのも分からんが、まあゴブリンだって魔法を使うんだ。そこは良いとするが、どんな魔法なんだ?」
「分からん」
「お前、『万全を期す。大丈夫だ』とか言ってなかったか? 何も分かってねぇじゃねぇか」
「危険なのはあいつの従魔だと分かったんだ。卵は俺の見える範囲では何もしてなかった。従魔と切り離しさえすれば問題ないはずだ」
「ほんとだろうな?」
「ああ間違いない。……あっいやちょっとは逃げる時になんかやったっぽかったが、大丈夫だ。恐らく火魔法かなんかで首をジュッとやっただけだ」
「全然安心できる話が出て来ねぇじゃねぇか」
「アイツは大した事ねぇ。俺が言うんだ間違いねぇ」
「いや、お前らの見る目が無かったから全滅したんじゃねぇのか?」
「俺だけ生き残ってるだろ? ちゃんと状況判断して完璧な仕事を行った結果だ」
「それもそうか?」
「そうだ。俺を信じろ」
「釈然としねぇがまあそこまで言うならいいだろう。で、この仕事は何人であたる?」
「そこなんだが、俺はいつも同じメンバーで仕事してたから、他の連中の仕事の評判は知っていても、直接見たわけじゃねぇ。チリは色んなところ渡り歩いてるから、そこそこ知ってるだろう? 俺らを含めて4人くらいを想定しているが、2人くらい良さそうなのはいるか?」
「2人組が手間が省けていいな。ワンダ、ワンド兄弟はどうだ?」
「強いらしいな。噂は聞いている。仕事っぷりはどうだ?」
「仕事も問題ない。裏のルートも持っているみたいだ。卵を捌くときに使えるだろう」
「お前を誘って良かったよ。声を掛けといてもらえるか?」
「ああ任せろ」
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