第148話 ティタノボア2
「火魔法お願いっ!!」
すでに家の中に入っているマーモ達が火魔法でティタノボアと呼ばれた大蛇を牽制する。
大蛇が火魔法に戸惑っている間にヨトとセシルが倒れたユーナに駆け寄り、肩を掴んで無理やり引きずって家に引き込む。
『イタイ! イタイ!』
ユーナが地面や玄関の段差で身体を擦り、痛みに声を上げる。
『我慢しろっ』
全員が家に入り込み、大男の死体の後ろに移動する事が出来たが安心できない。
圧倒的なデカさを持つ大蛇だが、体高がある訳ではないので余裕で家に入って来ることが出来る。
「やばい。どうしよ」
セシルも火魔法を出して大蛇を牽制する。
ワオーン
血の臭いを感じたのか遠くからワイルドウルフの鳴き声も聞こえてきたが、目の前の大蛇に比べるとどうでも良い存在である。
むしろ大蛇が居る事で近付いては来ないだろう
『ユーナ、大丈夫か?』
『ちょっと怪我しちゃった』
『擦り傷だな。水魔法で洗っておけ』
『う、うん』
『それにしてもティタノボアのやろう、俺達の後を付けて来ていたのか?』
ヨト達がこの洞窟に来る前にもティタノボアに追いかけられていたが、魔法を打ちどうにか逃げる事に成功していた個体だ。
「ティタノボア?」
セシルの質問にヨトは大蛇を指さして『ティタノボア』ともう一度発言する。
ヨトは幼い頃から父の魔物の話を聞くのが好きで、魔物の情報に詳しい。
もちろんほとんどの魔物を直接見た事は無いが、知識だけはそこそこ持っている。
「ティタノボアって言うのか。この蛇。まあ名前はどうでもいいけど、とりあえずこの大男をたべさせたら帰ってくれないかな? 皆、後ろに下がるよ」
セシルとマーモ達がズリズリと後ろに下がるのを見て、ヨトとユーナも慌ててセシル達の後ろに隠れるように移動する。
『おいっ! 下がるなら先に言えよ!』
ヨトは足をカタカタさせながらセシルの後ろから文句を言う。
「えっ何?」
当然、セシルには言葉が分からず意味が理解できない。
『とぼけた顔しやがって!!』
『お兄ちゃんっ! そんな事言っている場合じゃないでしょ』
セシル達と火魔法が後ろに下がったことでティタノボアが少し前に進み大男の死体の上で下をチロチロと動かす。
するとガバッと大口を開け大男を服ごとゆっくりと丸呑みしていく。
ヒッ
口を開けた時のあまりのデカさと迫力に誰ともなく悲鳴が漏れ、ヨトとユーナの股からも何かが漏れる。
「もっもっと下がって!!」
大男を呑み込んでいく事で、ティタノボアの顔の位置も自然と家の奥に入り込んでくる。
セシル達が火魔法をぐるぐると回し牽制しながら後ろに下がると、足元が濡れていたようで歩くたびにぴちゃぴちゃと音がする。
最初は大男の血かと思ったセシルだが、あまりに量が多い気がして一瞬後ろを向くとヨトとユーナが顔を反らした。
「漏らしたの!? 人の家で漏らしちゃダメでしょ!!」
『『……』』
セシルの言葉は通じていないが、2人はお漏らしを怒られている事は理解できた。
ティタノボアを目の前にした死の恐怖と、漏らした羞恥、申し訳なさで2人の感情はめちゃくちゃになっている。
「ナー!」
「ん? マーモどうしたの? あれ? この臭い……」
『くっさ……お兄ちゃんもしかして』
『……』
「くっさ!! 噓でしょ! 人の家でうんこ漏らしたの!?」
『あっアタシじゃない!! 漏らしたのはお兄ちゃんだからっ!!』
『しっ仕方ないだろっ!! ずっとトイレ行くチャンス無かったんだからっ!!』
言い合いをしている間もズズッと大男を吞み込みながらティタノボアが近付いてくる。
すでに大男の身体は見えなくなってしまった。
「……あぁやばいやばい! もっと奥行くよ! くっさ」
蛇から目を放さず後ろに下がっていく。
「あっ! そっちは寝る部屋だからウンコの臭いさせたまま入らないで!」
セシルが部屋を指さすと、ヨトはその部屋に入れと指示されたのかと勘違いしてしまう。
『ここに入れば良いんだな!?』
「あっちょっ! 入るなって言ったでしょ!! 馬鹿っ! ウンコ野郎!!」
セシルはたまらずティタノボアから目を放してヨトを叩きに行く。
ベチンッ
『なっなんだよ! お前がここに入れって』
「入るなって言っているでしょっ!! くっさ。くっさ!!」」
『蛇の動きが止まったよ!! お兄ちゃんくっさ』
『おっ? ほんとか!? 臭くないっ』
「ん? おっ蛇の動きが止まってる。くっさ」
ティタノボアは大男を完全に呑み込み腹に収めると動きを止めたようだ。
「何で動き止まったんだろう? あの大男が重たいのかな? 斥力魔法では時間かかると思って使ってなかったけど、今ならチャンスかもしれないね」
ティタノボアの皮膚はかなり硬そうに見える為、斥力魔法を貫通するのはかなりの時間を要するように見えた。
「皆、斥力魔法撃って! えっと、ライライは大男を食べて膨らんでいる所! マーモと僕は近付いて来ない様に顔を狙うよ!」
「ナー!」「ピー」「ピョー」
それぞれが斥力魔法を放つ。
『何でスライムが鳴けるんだよ。ところでお前、何しているんだ?』
セシルが両手を蛇に向け、マーモは蛇に向けて口を開けている。
ヨト達には斥力魔法が見えない為、何をしているか分からない。
「よく考えたら、口を開いている時に斥力魔法を口に突っ込めば良かったのかも。しまったな」
『……それは独り言か? それとも説明してくれてんのか?』
シャーー
『ヒッ』
大蛇が威嚇音を上げて身体をうねらせる。
まだ皮膚を貫通していないが、攻撃されている事は分かるようだ。
「やっぱり皮膚硬いね。全然入って行かない。ワイバーンより堅いのかもしれない」
ティタノボアはセシル達に脅威を感じ敵認定したようで、大男をお腹に入れた重い身体でズズッとゆっくり近付いてくる。
「やばいやばい近付いて来る。全然魔法貫通しない。やばいどうしよやばい」
セシルも徐々に近付いて来る大蛇に恐怖が大きくなってくる
『近付いて来た!! ユーナ逃げるぞっ』
『お兄ちゃん奥は暗くて怖いよ!』
『くっ! セシル、明るくしろっ』
「えっ!? 何? 呼んだ!? こっち忙しいんだけどっ」
ヨトはセシルの斥力魔法が見えていないので何をやっているか分からずイライラしてしまう。
『早く明かり付けろよっ!』
セシルはヨトに肩をガッと掴まれバランスを崩して斥力魔法を消してしまった。
それを見たマーモ達も驚き魔法を止めてしまう。
セシルは恐怖と焦りが極限状態の時に余計な邪魔が入り、イラッとしてしまい振り向きざまにヨトを殴る。
「邪魔するなよっ!!」
ゴッ
『ぐえっ』
どすんっ
ヨトが尻もちを着いてしまう。
『お兄ちゃん!!』
セシルの魔法が無くなった為、ティタノボアがさらに進みやすくなりズズッと近付いてくる。
とは言え、大男をお腹に入れているため動きは遅い。
「くそっ! マーモ、ライライ奥に逃げるよっ!! 明かりお願い」
ライライ達が身体を光らせるとセシルはライアを抱え、ラインがマーモの上にピョンッと飛び乗り慌てて奥に走る。
『おいっ!! どこに行くっ!?』
ズズッ
『お兄ちゃん早く逃げるよっ』
『くそっ!! 最初から光らせろよっ』
ヨトがすぐ立ち上がるとユーナの手を引いて奥に走り出す。
奥に着くと、セシル達は洞窟に繋がる穴に入り込んでいる所だった。
すでにマーモ達は洞窟の中に入っているようだ。
『おいっ!! 俺たちも入れろっ』
セシルはもぞもぞと穴を通り、洞窟側にドスンッと落ちる。
「よしっ、この穴はあの蛇も通れないでしょ」
『ユーナも早く穴に入れっ!!』
ヨトはユーナを穴に押し上げていく。
ズズッ
ヨトが振り返ると蛇の顔が近付いて来ている。
『うっうわぁああ。ユーナ早く登れっ』
ユーナが登るのをヨトが押し上げる。
『痛いっ痛いっ』
『我慢しろっ! 早く上がれっ』
慌てて押し上げているのでユーナの足は壁で擦り傷が増えていく。
ユーナの上半身が穴を乗り越えて来たので、セシルが優しく支えて中に入るのを手伝う。
さっきはヨトに邪魔をされ瞬間的に怒ってしまったが、だからと言って2人が食べられるのを見たいとは思わない。
『あっありがと』
ヨトも慌てて這い上がって来るので、仕方なく手を掴み雑に引っ張り込む。
ズリズリと岩と肌が擦れ擦り傷が増えていく。
『……ぎゃああああ。いてぇええ。いてえええ。』
ビターーンッ
『ぶべっ』
びちょっ
ヨトは地面に叩きつけられるように落ち、ズボンに留まっていたうんちが破裂するような音を立てた。
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