第168話 魔力の充電
ヨトとユーナがセシルの家に住み着いてからすでに数か月が過ぎていた。
ディビジ大森林は一年中熱帯の地域で、気温の変化がほとんどなく時間経過が分かりにくいが、すでに王国では冬も超えている。
この数か月で地頭が良く若い2人はある程度王国語が喋れる様になっていた。
父親が元々王国語を勉強していた事により言語に対する耳慣れという下地も出来ていた事が大きい。
特にセシルとの会話で話す事が多い魔物の事や魔法についての会話はほとんど齟齬が無いほどに喋れる様になっている。
そんな2人、いやセシルとマーモを含め今は岩山ハウスでぐったりと倒れ込んでいた。
先程までラプターに追いかけられて逃げ回っていたのだ。
囮になってラプターを引き付けてくれたマーモも、横に倒れ舌を出してコヒューコヒュ―と息をしている。
ライアとラインはマーモとセシルに運ばれて移動していたので元気にぽよんぽよんしている。
ヨトとユーナは全力で走った事に加え魔力不足で全身が倦怠感に襲われており、顔は青白くなっている。
セシルもゼーハーゼーハ―と荒い息をしているが、魔力不足による倦怠感は無いので比較的顔色が良い。
そんなセシルを見てユーナが羨ましがる。
「セシルさん、ハァハァ、魔力不足で、気持ち悪くなったこと、ハァハァケッホケホ、無いの?」
「ハァハァ、ん~そうかも。魔力循環練習で疲れた事はあるけど」
ヨトがふと以前ユーナと話した事を思い出し寝転がったまま顔だけセシルに向け話しかける。
「ぜーっぜーっ、なあ、おえっぷ、魔力くれよ」
「え?」
「ぜーっぜーっ、ちょっと待って」
数分、深呼吸で息を整え直す。
「すまん待たせた」
「あっうん。なんの話だっけ?」
「俺達は今、魔力が無くなって顔色失うくらいぐったりしている訳よ」
「無駄に魔法使っていたからね」
「無駄じゃねーよ。イカク? あの、うぉおお! みたいなやつ」
「威嚇? で合ってるよ」
「そう。俺達がいかくのために魔法を使ったから逃げ切れたんだろ」
「そうかなー?」
「そうだよ。んで、お前は今魔力余っているだろ? だからそれを俺達にくれたら回復するんじゃないかと思ったわけよ」
「んーまあそうだけど。くれよって言われても魔力を人に流したことはあっても補充なんてやった事無いよ? 出来るの?」
「魔物避けに補充できるんだから出来るだろ。とりあえず頼むわ」
「疲れているからまた今度ね」
「いやいやいや、聞いてた? 人の話」
「聞いているから会話出来てたんでしょ? バカなの?」
「どっちがバカだ! 魔力が必要なのは今度じゃなくて、今!! 今、魔力が無くて辛いっつってんの」
「んーじゃあ言い方変えるね。汗だくのヨトに触りたくないからまた今度ね」
「じゃー私はー?」
「ユーナならいいよ」
「何でだよっ!」
「逆に考えてみて。ヨトが魔力を補充する立場だったとして汗だくの僕に触りたいと思う?」
「……」
「じゃあユーナは?」
「ユーナならいい」
「ね? そう言う事」
「いや、ユーナは俺の妹だからだ! お前の妹じゃないから、ユーナに触るのも嫌だろ!?」
セシルは大げさに溜息を付く。
「はぁ~。何言っているの? 子供の汗は美しいって言うでしょ?」
「ん? 汗が美しい? 子供でも汚ねぇだろ。コイツ何言っているんだ?……王国語では別の意味があるのか?」
「私子供じゃないもん!」
「8歳は子供だろう」
「もう9歳だよ!」
「え? いつ誕生日来たんだ!?」
王国は1年に1回同じ日に一斉に年を取るようになっているが、帝国では半年毎に分けられている。
「いつかは分からないけど少し前には誕生日来ていると思うよ」
「ほほーう。じゃあ俺は11歳って訳だ。てことはセシルより年上って事だな?」
「多分僕も11歳になっているんじゃないかな? てか、元気じゃん。魔力補充する必要ある?」
「そんな短時間で回復しねーよ。とりあえずユーナで良いから魔力ホジューしてみてくれ」
セシルはめんどくさそうにユーナの背中に手を伸ばそうとしたが、服が汗でビッタリとしていたのを見て手を引っ込める。
「どうしたの?」
「……やっぱり子供の汗も美しくないかも」
「ちょっ、私が汚いって事!?」
「そうは言ってないけど、やっぱりこう……ね」
「そう言ってるのといっしょだよ! 何よ! 『お兄ちゃん何か言ってやってよ!』」
まだ咄嗟の会話は帝国語が出る。
『……そう言われても、まあそうだろうなとしか』
『何よそれ! アタシから「魔力のほじゅーして」なんて言ってないのに何で汚いって言われないとダメなのよ!』
『それはセシルが悪いだろ』
帝国語の中にセシルと言う単語が入っているのにセシルは顔を歪める。
セシルは帝国語が単語が聞き取れるくらい耳に慣れて来てはいるが、勉強する気が無いので全く理解は出来ていない。
「王国語で話してよ」
「セシルさんが悪いって言ったのよ」
「えーっ僕は悪くないよ」
「そもそも背中じゃなくて手に触れれば補充出来るんじゃないのか?」
「ん~魔石に近い所の方が補充しやすいかもと思って」
「服の上から触れても出来るのか?」
「さあ? 分かんない」
「とりあえず手はそんな汚くないだろ? 手でやってみてくれよ」
「はー仕方ないなぁ」
セシルは座り込んでいるユーナの手を取り何も特性を入れていない魔力を入れていく。
「あっ入って来た……え? これからどうしたら?」
身体に魔力が流れているのは分かったが、そこからさっぱり分からない。
「僕に言われても」
「体の魔石に魔力を入れればいいんじゃないか?」
「どうやって?」
「ほら、ユーナが身体に入った魔力を魔石に入れる様にコントロールすればいいんじゃないか?」
「とりあえず続けるよ」
セシルは魔力コントロールのお手本の要領で細く細く魔力を流していく。
「おひょぉ~。ぞわぞわするぅ~っふぅ~」
「おい、ちゃんと魔力コントロールしろよ」
「ちょっちょっと待ってよ。どうやって魔力のコントロールひきつぐの?」
2人してセシルの顔を見る。
「いや知らんよ。じゃ体に入れた魔力のコントロールやめてみるね」
「うん分かった。せーのっって言って」
「せーのっ」
セシルが魔力のコントロールを手放す。
「うっほっぬっ……あっいけそう。おーっ」
「いけたのかっ?」
「いけるけどぉ、これじゃちょっと……」
「どうした?」
「これ、魔力コントロールするのも疲れるよぉ。今はもうむりぃ。セシルさんありがと」
ユーナは床にゴロンと転がりながらセシルの方を見てお礼を言うと、セシルは水魔法でサッと手を洗い流す。
「そんなすぐ手をあらわなくてもいいじゃん……」
「いや、まあ一応ね」
「あぁ~魔力かいふくダメだったかぁ」
「魔力コントロールしっかりれんしゅうするしかないね」
「それにしても腹減ったな」
「もう暗くなってきてるもんね。でも今日お肉取れなかったよ」
「じゃ虫取って来るよ」
「また虫かぁ~。さいきん毎日虫だよ~」
「まっずいんだよなぁ。いやほんとまずいんだよなぁ。……まっずいんだよなぁ。せめて幼虫がいい」
ヨトは期待を込めてセシルをチラチラと見るが、セシルはどこ吹く風だ。
「幼虫は穴掘ったりしなきゃいけないから今日は無理。てか、人が準備してやろうって言うのになんで文句言っているのさ」
「はぁ。しかたないか。じゃたのむわ」
「頼み方よ。まあいいや。じゃマーモ、ライライ……あーマーモはまだぐったりしているね。マーモは休んでいていいや。ライライいこう」
ぽよんぽよん
「あっライライいなくなったらここ真っ暗になるね」
マーモが火魔法を出せばぼんやりと明るく出来るが、今だにゲヒョーゲヒョーと荒い息を吐いている。
普段口から魔法を出しているので今は難しい。
最近は角からも魔法を飛ばせるようになっているが、まだ慣れていないのでグッタリしている今は集中できず魔法が霧散してしまう。
「まいっか」
「いや良くないだろ」
「それぐらい我慢しなよ。すぐ戻って来るし」
「ユーナはくらくなってもだいじょうぶか?」
「マーモちゃんのよこにいるからへいき」
「あっズルいぞ。俺もよこにいく」
マーモはグッタリしているが、それでも2人にとっては頼りになる存在だ。
数か月過ごして、マーモの強さは嫌と言うほど理解していた。
2人とも木刀で剣の稽古をしているが、マーモ1匹対2人でもあっという間にのされてしまっているのだ。
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