第116話 新技 体水魔法


「体水魔法!!」


 セシルは自分の体の水分から反応させ、極小の水魔法を発生させると、死んで横たわっているグレートボアの身体に水魔法を当てる。

 水魔法が当たった所で、引力を強めグレートボアの身体から水分を抜いていく。

 新技の体水魔法は魔物から水分を奪って倒す魔法だ。


 以前失敗してしまった血魔法と違い、水分が集まって来る。


「おぉっ! 血魔法と違って水は集められるんだ!? 成功だね!! これで怪我さえさせれば魔物を倒せるんじゃないかな」


 と思ったが、血混じりの小さい水玉が出来上がった所で、水分を引き付ける力が止まった。

 それを見たセシルは一瞬思考が停止する。


「………………うっわ。最近ひどいね。そうだよ。そもそも、僕の魔法の威力が弱くてこんな生活をする事になったんだから、水魔法で体の水分を集めようと思ってもちょっとしか集まらないに決まってるじゃん」


「……それに水分集めると、血とかも混ざっちゃうんだね。水魔法の水を飲んじゃいけない理由がよく分かる。血魔法で魔物の血を集められないのに、水魔法で血がくっ付いてくるの納得できないけど」


 セシルはパンッと一度手を叩いて空気を変え、魔法実験をなかった事にした。

 マーモがそんなセシルをニタニタした顔で見ていたが無視して、グレートボアの解体作業を再開する。


 皮は靴以外にもいろんな用途で使えそうだ。と出来るだけ大きくカットしていく。

 しかし、皮を剥く作業はあまり慣れていない為、時間が掛かってしまう。


 しばらく作業をしていると何かが近付いてきたようで、マーモがピクピクし始めた。


 「何か来た? ヤバそう?」

 「ナー」


 セシルの耳にも少しずつ響くような足音が聞こえ始めて来た。

 お肉は必要量を切り取り、背負い籠に入れ終わっている。

 皮はまだ途中だったが、ある程度の所で剣鉈を叩きつけ引きちぎるように剥いで、慌ててその場から離れる。


 離れつつも何が近づいて来ているのかチラチラと確認していると、体高3メートルはあろうかという巨大な魔物が木の陰からヌッと顔を出してきた。

 その魔物はポストスクスのように大型のトカゲみたいな顔で、全てのパーツが太く、トゲが付いた硬そうな甲羅のようなものを鎧の様に身に纏っていた。

 尻尾も長く、先には重りみたいな物がくっついている。


 ズシンズシンと死んだグレートボアに近付いていく。


 そのあまりの迫力にセシルは暫く絶句していたが、マーモに服を引っ張られ我に返ると、音を立てないように足早にそこを離れる。


 仮宿の方には向かわずに、近くの川の方に向かって行く。

 採取したグレートボアの肉や皮の臭いを取る為だ。


「こっこええええ。何あの鎧。斥力魔法も効かなそう。デカいトカゲシリーズ怖すぎだよ。……もしかしてドラゴン種だったりしないよね?」


 セシルは一抹の不安を抱える。


(家の近くにドラゴン種がいるなんてヤバすぎるでしょ)


 セシルの疑問に誰も答えてくれるものはいなかったが、実際、陸ドラゴンと言われる飛ばない種類のドラゴンであるアンキロドラゴンであった。


 ドラゴン種に種別される魔物は耐久力等々が他の魔物に比べて圧倒的に高く、災害級とされている。

 ワイバーンもドラゴン種だが、ドラゴンの中では耐久力が最下級の部類だったので、セシルでもどうにか倒す事が出来たが、他のドラゴン種はそう上手くいかないだろう。

 

 セシルは臭い消しの薬草を集めながら足早に川に辿り着くと、剥いだ皮をバシャバシャと洗い流し始める。

 魚を捕っていた場所より上流だが、脛くらいの水深があり、皮を洗うくらいは出来る。


「マーモ達はさっき集めた臭い消しの薬草をお肉に塗っておいて!」


 セシルは一心不乱に皮を洗うが、全く脂が取れない。


「脂全然取れないじゃん。火で炙って脂を溶かしたいけど、今は臭いが出たらデカトカゲやってきそうだから水で洗い流すだけにしよう。……そういえば、皮の鞣しってどうやったらいいんだろう? 」


 などと考えながら、剣鉈の裏側で脂をこそぎ落としていく。

 ある程度脂と臭いは落とせたかな? と判断すると、仮宿に戻る事にした。


 靴に穴が空いた状態で戻るのはシンドイので、試しに靴に使えそうな大きさに切り取ったグレートボアの皮を、脂面を外側にして靴として履いてみるが、毛がチクチクしてとても履いてられなかったので、元の穴の空いた靴を履き直して、片足をつま先立ちのように歩き、無事に家に帰ることが出来た。

 帰りはアンキロドラゴンと出会わなかったので、どこかに行ってしまったのだろう。


「疲っかれたぁ~! 足ピクピクしてるんだけど……もう今日は家作りはやめよう!」

「ナー」ぴょんぴょん

「よし、皆ご飯食べてて良いよ」


 マーモとラインはグレートボアの生肉を食べ始め、ライアは近くの野草を食べ始めた。

 セシルは焚火用の木を集めていく。


 ある程度集め終わると、魔物除け除けと魔物除けをセットし、肉を焼く為の火を起こす。

 周りの草はライアが食事で綺麗にしているため、森に燃え移る心配はほとんどない。


 火が着くと木の棒を地面に刺し、小さなな洗濯物干しみたいな物を作り、そこに靴用のサイズに切り取ったグレートボアの皮を掛ける。毛を焼いて取り除くのと、脂を落とすのが目的だ。

 皮の様子を見ながら、グレートボアの肉を切り分けながら木の棒を刺して、次々にお肉を焼いていき、食べながら保存用の肉も作って行く。

 お肉を切り分けるたびに剣鉈に脂が付いてキレが悪くなるので、その度に剣鉈を炙って脂を落とす。


 お肉の臭いが流れてしまったのか、遠くからワオーンと鳴き声が聞こえるが、ワイルドウルフ程度の魔物であれば魔物除けより中に入れないだろう。

 もし魔物除けも効かない様な大物が来ても、いざとなったら仮宿の中に籠って斥力魔法で蓋をするように防げばどうにかなるだろう。

 とは言え、(昼間見たような鎧を纏ったトカゲが来たら家ごと潰されそうだな)と、セシルは内心ビビリながら肉を焼いていた。


 お肉を焼き終わると、急いで臭い消しの薬草を擦りつけ葉っぱに包むと仮宿の中に入れる。

 次は炙られて少しずつ溶けだしてきている皮の脂をこそげ落とす作業をする。

 慌てると穴が空いてしまいそうなので、急ぎながらも慎重に行う。


「これ思ったより大変だなぁ。そもそも鞣し作業の方法が分からないから、長持ちしなさそう。困ったな」


 皮の内側に付いている脂をそれなりに落とすことが出来たので、水魔法で洗い流していく。


「さてと。ここからどうしたらいいんだろうね。とりあえず干して乾燥させればいいのかな?」


 セシルが手ごろな木の枝に皮を干しに行く。


「ナー!!」


 マーモの注意を呼びかけるような鳴き声の直後、ドゴッという音と共に背中に衝撃を感じる。

「グッッ――」


 セシルはよろけて木に手を付く、何が起きたか周りを見渡すと、2匹のゴブリンがいた。


 ぎぇっぎぇっ


 ゴブリン達は弱そうな獲物(セシル)を前に、楽しそうに笑っている。

 1匹は木の棒を持っており、それで殴られたようだ。

 もう1匹は無手だ。


(何で!? 魔物除けの中なのに!?)


 木を背に2匹のゴブリンに囲まれる形になっている。


 セシルはズキズキと痛む背中を我慢して、すぐさま行動に出る。


(とりあえず逃げる!!)

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