第74話 手紙 8歳半年


 少しずつ肌寒い季節になって来た。


「最近ちょっと寒いね」

「年中暑いトルカ村と違って、王都は四季があるからね。もう少しするともっと寒くなるわよ」

「うぇ~これ以上寒くなるの?」

「そうよ。風邪ひかないようにしないとね」

「病気を防ぐ龍の腕輪あるから大丈夫だよ」


 トラール男爵の事を思い出させたくないイルネは慌てて話を変える。


「セシルの両親から手紙が領主館に届いたそうよ! 返事を書きに行こうね」

「うんっ!!」


 



「来たか。そなたへ宛の手紙が来ておるぞ。私もこれから返事を書くのだ。すぐ書くと良い」

「はい! ありがとうございます」


 封筒を閉じている蝋を丁寧に溶かし開ける。封筒は使いまわしにするのだ。


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元気ですか? お父さんとお母さんは元気です。


文字の勉強も続けているんだ。上手に書けてるだろう?

2人とも剣の訓練も続けてるよ。

まだ、たまにどこかの密偵が現れるんだ。セシルに迷惑を掛けないように自衛しないといけないからな。



セシル、母です。


セシルが家を出てからは、お昼を食べなくなったのでいつもお腹ペコペコだけど、たまに自分達で狩りに行けるようになりました。自分で狩って食べるお肉は格別です。

いつかセシルにも食べさせてやりたいです。


まだ書きたい事たくさんあるのに紙1枚だとすぐ一杯になってしまうんですね。


身体に気を付けて。 


愛してるよ。

ロディ カーナ


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「なんて書いてあったの?」


 セシルはイルネに手紙を渡し、読めなかった所を読んでもらう。

 ロディとカーナもまだ書き慣れていないため、文字も汚く文章も拙いが愛情が伝わってくる気がした。


「じゃ一緒に返事を考えようか」

「ううん。今回から自分1人で書く」

「えーそうなの? 内容教えてよ」

「ダメ。秘密だよ! 覗かないでね!」


 セシルはそう言ってイルネの背中を押し部屋から追い出すと、席に戻り大きく溜息を付き、1人で手紙を書き始めた。


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お手紙ありがとう。

ぼくも元気です。


友だちもたくさん出来て、べんきょうもまほうもほめられています。

みんなやさしくて毎日楽しいです。

マリーさまとアルさまといっしょに、れんきんじゅつのべんきょうもしてます。


イルねえとぼうけん者のお仕事もやってます。

まだ、なまりランクですが、新しいぶきも作って、まものもたおせるようになりました。


ライムとマーモがちょっと大きくなった気がします。


お父さんとお母さんの役に立てるようにがんばります。


ぼくもお父さんとお母さんをあいしています。

お元気で


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 この手紙を境に、セシルはイルネに内容を見せなくなり、嘘を書くようになった。

 勉強はついて行くだけで精一杯で、魔法のも威力がほとんど強くなっていない。

 でも、両親の期待を裏切るのが怖くて本当の事が書けなかった。

 イジメられているなんて絶対に知られたくない。


 イジメは直接的な暴力などは無くなっているが、バーキンが殺された件の他にも、物を隠されたり、嫌がらせは未だに続いている。


 だが、セシルもやられっぱなしではない。

 ゴライアス達に対する復讐は続けている。

 回復魔法を掛け始めてから数か月が過ぎ、ゴライアス達は明らかに周りより成長し、身長は10センチから15センチほど背が伸びていた。

 8歳にも関わらず10歳、11歳のクラスの子供達と遜色ないほどだ。


 セシルが4人の成長を早める事で、問題も起きている。逆に4人が調子に乗っている事だった。

 身体が大きくなった事で、周り、特に身長が低いセシルを見下し嘲る事が多くなっている。


 しかし、それも一時的なものだとセシルは自分に言い聞かせている。

 そもそも平民である事で虐められていたのだ。それに身体の大きさが加わった所で大した違いはない。


 学院を卒業する頃には、ゴライアス達をヨボヨボの老人にまで成長させてやる。

 そして、努力して見返してやる。


 今は手紙で嘘を付いていても、卒業する頃には勉強も魔法も出来るようになって、手紙の内容を本当にするんだ。


 その気持ちがセシルの支えとなっていた。

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