第74話 手紙 8歳半年
少しずつ肌寒い季節になって来た。
「最近ちょっと寒いね」
「年中暑いトルカ村と違って、王都は四季があるからね。もう少しするともっと寒くなるわよ」
「うぇ~これ以上寒くなるの?」
「そうよ。風邪ひかないようにしないとね」
「病気を防ぐ龍の腕輪あるから大丈夫だよ」
トラール男爵の事を思い出させたくないイルネは慌てて話を変える。
「セシルの両親から手紙が領主館に届いたそうよ! 返事を書きに行こうね」
「うんっ!!」
☆
「来たか。そなたへ宛の手紙が来ておるぞ。私もこれから返事を書くのだ。すぐ書くと良い」
「はい! ありがとうございます」
封筒を閉じている蝋を丁寧に溶かし開ける。封筒は使いまわしにするのだ。
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元気ですか? お父さんとお母さんは元気です。
文字の勉強も続けているんだ。上手に書けてるだろう?
2人とも剣の訓練も続けてるよ。
まだ、たまにどこかの密偵が現れるんだ。セシルに迷惑を掛けないように自衛しないといけないからな。
セシル、母です。
セシルが家を出てからは、お昼を食べなくなったのでいつもお腹ペコペコだけど、たまに自分達で狩りに行けるようになりました。自分で狩って食べるお肉は格別です。
いつかセシルにも食べさせてやりたいです。
まだ書きたい事たくさんあるのに紙1枚だとすぐ一杯になってしまうんですね。
身体に気を付けて。
愛してるよ。
ロディ カーナ
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「なんて書いてあったの?」
セシルはイルネに手紙を渡し、読めなかった所を読んでもらう。
ロディとカーナもまだ書き慣れていないため、文字も汚く文章も拙いが愛情が伝わってくる気がした。
「じゃ一緒に返事を考えようか」
「ううん。今回から自分1人で書く」
「えーそうなの? 内容教えてよ」
「ダメ。秘密だよ! 覗かないでね!」
セシルはそう言ってイルネの背中を押し部屋から追い出すと、席に戻り大きく溜息を付き、1人で手紙を書き始めた。
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お手紙ありがとう。
ぼくも元気です。
友だちもたくさん出来て、べんきょうもまほうもほめられています。
みんなやさしくて毎日楽しいです。
マリーさまとアルさまといっしょに、れんきんじゅつのべんきょうもしてます。
イルねえとぼうけん者のお仕事もやってます。
まだ、なまりランクですが、新しいぶきも作って、まものもたおせるようになりました。
ライムとマーモがちょっと大きくなった気がします。
お父さんとお母さんの役に立てるようにがんばります。
ぼくもお父さんとお母さんをあいしています。
お元気で
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この手紙を境に、セシルはイルネに内容を見せなくなり、嘘を書くようになった。
勉強はついて行くだけで精一杯で、魔法のも威力がほとんど強くなっていない。
でも、両親の期待を裏切るのが怖くて本当の事が書けなかった。
イジメられているなんて絶対に知られたくない。
イジメは直接的な暴力などは無くなっているが、バーキンが殺された件の他にも、物を隠されたり、嫌がらせは未だに続いている。
だが、セシルもやられっぱなしではない。
ゴライアス達に対する復讐は続けている。
回復魔法を掛け始めてから数か月が過ぎ、ゴライアス達は明らかに周りより成長し、身長は10センチから15センチほど背が伸びていた。
8歳にも関わらず10歳、11歳のクラスの子供達と遜色ないほどだ。
セシルが4人の成長を早める事で、問題も起きている。逆に4人が調子に乗っている事だった。
身体が大きくなった事で、周り、特に身長が低いセシルを見下し嘲る事が多くなっている。
しかし、それも一時的なものだとセシルは自分に言い聞かせている。
そもそも平民である事で虐められていたのだ。それに身体の大きさが加わった所で大した違いはない。
学院を卒業する頃には、ゴライアス達をヨボヨボの老人にまで成長させてやる。
そして、努力して見返してやる。
今は手紙で嘘を付いていても、卒業する頃には勉強も魔法も出来るようになって、手紙の内容を本当にするんだ。
その気持ちがセシルの支えとなっていた。
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