第132話 バッカ


 事情聴取を終えたロディとカーナは詰め所を出て予定を話す。


「なんとも中途半端な時間になってしまったな」

「そうね。しょうもない連中のせいで本当迷惑しているわ。とりあえず少しだけでも採集出来た分をギルドに買い取りしてもらって、その後教会に行きましょう」

「そうだな」




 冒険者ギルドで採集した薬草の売却手続きをしていると、カウンターで叫んでいる男がいた。


「おいっ!! バッカってなんだよ!? 俺の名前はバラックだ!」

「そう言われましても、冒険者プレートにバッカと記載されています。ほら、こちらを見ていただければ……」

「俺は読めないんだ。トリー読んでくれ」

「ああ。バッカだと書いてある」

「ん? いや、お前ふざけている場合じゃねぇんだ。俺はバラックだ。小さい時から一緒に育ったんだ。知っているだろ?」

「ああもちろん知っている」

「じゃここにもバラックと書いてあるだろう?」

「バッカと書いてある」

「いや、え? まじ?」

「まじ」

「お前、字読めるよな?」

「そりゃ、今読めているからな」

「知っていたのか?」

「そりゃまあ。読めるからな」

「なんで言わねぇ!? いつからだ? 最初からか!?」

「お前がイルネ様に絡んだせいで鉛級に落ちた時だ」

「マジかよ……いや何でだよ。名前変わるのおかしいだろ」


「――――!」

「――――!!」


 ギャーギャーと大声で騒いでいるので内容も一部聞こえてきた。


「あの冒険者たちイルネ様って言わなかったか?」

「私もそう聞こえた気がするわ。セシルの知り合いかしら?」

「そうかもしれないな、でもあまり関わりになりたい人物じゃないな……どうする? 聞いてみるか?」

「そう、ね。とても気が進まないけど、そんな事を言っている場合じゃないわ。少しでも情報が欲しいもの。とても気が進まないけど」


 2人はバッカとトリーの受付が終わるのを待って話しかけることにした。


「あの……バッカさん」

「バラックだ!! 誰だおめぇ? 何で俺の名前を知っている?」

「すみません。先ほどの話が少し聞こえたもので」


 トリーは話が聞こえていたなら本名はバラックだというのも聞こえていただろう。とも思うがまた言い合いが始まってしまうので口には出さない。


「で、何の用だ?」

「あの、イルネ様というのはトラウス領騎士のイルネ様の事でしょうか?」

「何だ!? お前らイルネ様の事を知っているのか!?」

「でっではご存知なのですね!? でしたら、でしたら、セシルの事も知りませんか!? セシルの事を探しているのです。どんな情報でも良いのでお願いします」

「あいつのことはどうでもいいが、イルネ様とどういう関係だ? 実は俺はイルネ様親衛隊副隊長なんだ。イルネ様の話があれば教えてくれよ。語り合おうじゃないか」

「あいつと呼ぶって事はセシルの事を知っているのですね!? 私たちはセシルの親なのです。セシルがどこに行ったか知りませんか!? お願いです。少しでも情報が欲しいのです。お願いします」

「お願いします」


ロディとカーナは頭を下げる。


「チッそう言う事かよ。あいつが王都で生意気にもイルネ様と一緒に冒険者の真似事をしていたから、俺がいっちょ指導してやったって訳よ。それであいつのせいでイルネ様が亡くなっ「ちょいちょい待てぃ」」

「あっ? 何だよ?」

「すみません。俺がちゃんとセシル様の事お話しします。ちょっとコイツは話を盛るクセがあるので、あっ自分はトリーって言います」

「おいっ何でだよ。俺が「トリーさんありがとうございます。私がロディ

こっちが妻のカーナです」」

「おいっ俺の話を遮るなっ!?」

「バッカちょっと黙れ、後で酒奢ってやるから」

「おっ? それは本当だろうな?」

「ああ、だから黙ってくれ。あそこにある椅子で座って待っていてくれ。すぐ終わるさ」

「仕方ねぇな。イルネ様の話は今度聞かせてもらおう」


 バッカは上機嫌に椅子に座りに行った。


「あのっ私たちはお金が無くて……」

「ああ、いいですよ。どうせ大した話も出来ませんので」

「でも。私たちのせいでお酒を……」

「大丈夫です。どれだけ奢るとは言わなかったので、1杯だけしか奢るつもりはないですし」

「そう、ですか。すみませんお言葉に甘えさせていただきます」

「いえ、こちらこそほんとに大した話が出来なくて申し訳ないんですけどね、単刀直入に言うと現在のセシル様の事に付いてはさっぱり分からないです」

「あぁ……」


 ロディとカーナは露骨に肩を落とす。

 そう上手く情報が得られるとは思っていなかったが、やはり心のどこかでは期待してしまっていた。


「最後に会ったのはセシル様が王都を出る時ですね。門の外であのバカとセシル様でいざこざがあって、セシル様があのバカをコテンパンにした後、森に向かって歩いて行きました。私が見たのはそこまでです。その後は分かりません」


 トリーは話しながら、バッカがセシルに雷魔法でやられて射精してしまった事を思い出し、情けない気持ちがぶり返してくる。


「そうですか……」

「あっあの、あの男の人をコテンパンにしたって言うのは? セシルは王都を出た時は10歳だったはずです。大人の、それも冒険者相手に勝てるとは思えないのですが?」

「あぁ、それはあいつがたいして強くないのもあるのですが、セシル様はかなり強いですよ。そこら辺の大人は相手にならないんじゃないですかね?」

「え? でもセシルの剣はあまり才能があるとは思えず、魔法も役立たずと判断されてしまって……」

「ん~魔法の事はよく分かりませんが変わった武器を使ってました。重りを付けた鎖の武器で、さらに雷魔法? を使っていたようです。少なくとも私は勝てる気がしなかったです」

「鎖? 剣は使ってなかったのですか?」

「常にイルネ様と2人だけで行動していたので、普段がどうなのかは分かりませんが、少なくとも俺が見たときは鎖しか使ってなかったです。ん~剣も持っていなかったような? どうだったかな? ちょっとそこは自信が無いです。自分たちが知っているのはこれくらいですね」

「そうですか。ありがとうございます。あっちなみに何故あの男の人、バッカさんとセシルは揉めたのですか?」

「あぁ……えっとあいつが、大好きなイルネ様が亡くなったのをセシル様のせいだといちゃもんを付けて……本当に申し訳ないです」

「そう言う事なのですね。分かりました。もし、セシルの情報が入ったら教えていただけないでしょうか? お礼は……あまり出来ませんが、出来る限りの事はさせていただきます」

「お礼は気にしなくても大丈夫ですよ。あのバカがセシル様に迷惑を掛けた事もありますし、もしセシル様の情報が手に入ればお伝えします」

「ありがとうございます!!」

「本当にありがとうございます。よろしくお願いします」


 ロディとカーナは深々と頭を下げるのであった。

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