第131話 ロディとカーナ 悪意

※シルラ領


 熟練冒険者にハメられ鉛級冒険者となってしまったロディと鉄級のカーナは、至る所でハメられた余波が来ていた。


 冒険者ギルドでカーナに手を出そうとする冒険者の手をロディが跳ね除けた事で、階級を落とされた話は瞬く間に広がり、知らない者はいない程になっている。


 ギルド内でただ手を跳ね除けただけ。

 たったそれだけの行動でシルラの街での経験が浅くトラブルに弱い人物として認識されてしまったのだ。


『先に手を出した方が罪が重い』


 シルラ領では誰もが知っているこの法を知らない人間は、彼らにはカモにしか見えなかった。



 セシルよりも小さな子供が道端で倒れているのを見かけて、セシルの事が頭を過りどうしても見過ごせずに手を貸したらスリにあう。

 屋台で買ったスープの量が明らかに周りより少ない。

 等々、細かい物は数えればキリがない程だった


 トラウス辺境領のさらに辺境に住んでいたロディとカーナは、スリや詐欺などの悪意に疎く、村を出てからも武勇で有名なダラスが一緒にいた事で、周りに舐められる事もなく過ごす事が出来ていた。


 ここまで大勢から悪意を受ける事が無かった2人は、肉体だけでなく心も少しずつ疲弊して来ていた。


「気付かない内にダラス様に守ってもらっていたんだな」

「そうね。剣の実力も伸びて2人だけで充分やっていけると思っていたのだけれど、考えが甘かったわね。世の中がこんなに悪意に満ちているなんて思いもしなかったわ。ましてセシルより小さい子供にまで騙されるなんて……こんな状態で言葉の分からない帝国に行こうとしていたなんて、私たちは世間知らずもいいところね。大人2人の私達でもこんなに辛いのに……セシルは大丈夫なのかしら……」




 2人はいつものように薬草採集に来ていた。ディビジ大森林での活動だ。

 街からはほとんど離れていないが、薬草採集は人通りがほとんどない場所になってしまう。


「薬草採集なんてしている場合じゃないのに、あいつらのせいでっ」

「仕方ないわよ。鉄級に戻れたら魔物を狩ってすぐ銅級、銀級にも上がれるわ。そうすればもっと稼げるはず」

「そうだな。早く銀級に上げてこの街で馬鹿にされないようにしないと」


「お~お~お~。鉛級冒険者が鉄級どころか銀級になるってよ」

「ぎゃはっはっ。笑わせてくれるぜ。そう簡単になれるわけないだろ。その年齢で未だ鉄級と鉛級のくせによ」

「「ぎゃーっはっはっはっ」」


 薬草採集をしていた2人を5人の冒険者が囲んできていた。


「はぁ、またか。毎日毎日どんだけ暇なんだよ」


 ロディとは溜息を吐く


「で、何しに来たんだ? 仕事の邪魔だから消えろ」

「仕事ってその草集めの事か?」

「そうだ。これも重要な仕事だ」

「ふふふふはははっ。じゃあその重要な仕事頑張ってくれ。そこの女は俺らが借りてくぜ」

「何だとっ!? 馬鹿な事言うな。消えろっ」

「そうよ。あんた達になんか着いて行くわけ無いでしょ? さっさとどっかに行ってちょうだい」


「ふふふ。お前らに良い事を教えてやるぜ。街の中と違って森の中では全ての出来事が魔物のせいに出来るんだ……これがどいう言う事か分かるかな?」

「まさかっ」

「いやいや、俺らもそんな酷いことをしたいわけじゃねぇ。ちょっと女を貸してくれるだけで良いんだよ。全員で回した後にちゃんと返してやるからよ。ふひっふひひひ」

「貴様っ!!」

「おいおいおい。鉛級と鉄級の2人で銀級5人に勝てると思ってんのかよ? 抵抗しない方がいいぜ? お前が粛々とその大事な草集めをやっている内に俺らが気持ちよくなるだけなんだ。それだけで全てが丸く収まる。誰も損をしない。分かるだろう? 女、分かったなら大人しく来な」

「行くわけ無いでしょ!」

「何だ? せっかく気を使って移動しようとしているのに……はは~ん? さてはこの男の前で犯されたいのか?」

「そういう趣味なら仕方ねぇなぁ。とんだ好き者だぜ。ぎゃははっ」

「そんな訳ないでしょっ!!」

「お前らいい加減にしろっ! 俺たちがいつまでもやられっぱなしだと思うなよ!?」


「ほぅ? 2人でどうするつもりなんだ?」


 5人の冒険者が剣を抜く。


「クソッ」


 ロディとカーナも剣を構えると、背中を合わせて死角を無くす。


 へらへらしながら男たちが近付いてくる。


「女は傷つけるなよ」

「分かってるよ。玄人女は飽き飽きしてたからなぁ~あぁ~楽しみだ。へへ」

「男も殺しちゃぁならねえぞ。せっかくのご要望だ。目の前で犯してやらねぇとなぁ」


 話しながら男の1人がピュッと軽く石を投げる。


「クッ」

 カンッ


 ロディが剣で弾く。


「母さん、俺が突破するからその隙に逃げてくれ」

「そんな事出来る訳ないじゃない」


「ふははっお涙頂戴だねぇ」


 男たちはビュッ ビュッと当たったら軽く血が出るくらいのスピードで複数の石を投げ、ロディ達が石に気を取られた隙に踏み込む素振りを見せる。


「このままじゃまずいっ。やっぱり母さんだけでも……」


 するとロディの視界に人影が増えているのが見えた。


「クソッ! やばいっ。人数が増えた」


(人数が増えた?)

 それに反応したのは冒険者達だ。

 誰だ? と後ろを向く。


「そこまでだっ!!」

「ああん? 何だお前たちは?」


 その反応にロディとカーナが小声で話す。

「ん? 仲間じゃないのか?」

「違うみたいね。それにあの服に付いている紋様……教会の方かしら?」


 後ろから現れた人影は少しずつ人数が増え、いつの間にか冒険者を取り囲んでいた。

 見えているだけで8人はいる。


「我々はアポレ教聖騎士団である。そこのお二人には遅くなって申し訳ないが、どちらに非があるか分からず、しばらく様子を見させてもらった」

「……っ!? なっ何で教会の騎士団がここに!?」


「お前たちに話す必要はない。神妙にお縄に付きなさい」

「はんっ。お前らに何の権限がある? それに俺らは何も手を出してねぇぜ」

「剣を抜いて脅し、石を投げつけた。それだけで充分でしょう? 素手ならまだしも剣を抜いたら王国でも罪になると思いますが?」

「ははっ。ここはディビジ大森林だ。いつ魔物に襲われるか分からねぇ。剣を抜いているのは当たり前だろう?」

「ふむ。それで問題がないと思われるのであるなら、衛兵にそう言うがよろしい。付いて来なさい」

「だから、お前らに何の権限があってそんな事言ってんだ?」

「ああそうそう。言い忘れておりました。衛兵の方もここにいらっしゃいますよ。先に呼んでおいて良かったです。あなた方がすでに剣を構えている所からでしたが、石を投げている所はちゃんと見ていましたよ。衛兵の方に逮捕する権限があり、石を投げている所を目撃、そして我々の証言があれば充分でしょう」

「クソッ衛兵もいたか」

「縄で縛る。大人しくしていろ」

「チッお前ら手を出すなよ。俺らは森で魔物への脅威から剣を抜いただけだ。いいな?」

「ああ分かっている。くそ。面倒な事になっちまったぜ」


 男たちが大人しく兵士に結ばれていく



「あっありがとうございます」

「いえいえ、我々はたまたま下見に来ただけの通りすがりですのでお気になさらず」


 聖騎士団はセシル捜索の為にシルラの街にやってきていた。

 帝国方面に向けてディビジ大森林内を捜索を始めるに当たって、最低限の植生や魔物の情報を得るために下見に来ていたのだ。


 アポレ教国のディビジ大森林捜索は王国側からと教国側からの2方面からの捜索が展開される事となっている。

 アポレ教がいくらトラウデン王国の国教とは言え、騎士団を大勢入国させる訳にはいかない為、王国側からの捜索は15名程の小隊となっている。


「それでも、兵士の方を呼んでくださったりしていただいて……本当に助かりました。どうお礼をしていいのやら」

「礼には及びません」

「いや、しかし」

「もし気が晴れないとの事でしたら、礼拝堂でお祈りでもしてくだされれば結構でございますれば」


「お話中申し訳ございませんが、調書を取りたいので街まで戻っていただけないでしょうか?」

「もちろんでございます。我々は2~3名程行けばよろしいですかな?」

「はい目撃者がそれだけいてくださったら問題ありません」

「承知した。では、リマ」

「はい」

「後2人連れて事情聴取に行ってきなさい。私たちは予定を済ませてから教会に戻るからそのつもりで」

「承知いたしました」

「では私たちはまだ予定がありますので、ここで失礼します」

「はい。ありがとうございました。必ず教会にはお祈りに伺わせていただきます」



 街に戻り、兵士達の詰所に案内され、それぞれ個々人で事情聴取されていく。

 あえてバラバラに話させる事で、話の整合性を取る為だ。

 問題なく話が終わったので今は2人で兵士と話をしている。


「状況は分かった。そこまでの罰になるとは思えんが、少なくとも何かしらの罰があるだろう。最近は他所の国や地域から人が押し寄せる様に来ていてな。気が立っている冒険者が多い。気を付けるように」

「他所の国ですか?」

「ああ。帝国や教国、他にも連邦国の言葉を話している人物も目撃情報がある。そいつらも森の中をウロチョロしていてな。冒険者の喰いぶちである魔物が近くで減ってしまって、いつもより小競り合いが多くなってる」

「そうなんですね。ご忠告ありがとうございます」


「ああそうそう。今日襲ってきたやつらの罰が決まったら知らせた方がいいか?」

「そう、ですね。知っておきたいです。お願いできますか?」

「冒険者ギルド経由で構わないかな?」

「はい大丈夫です。よろしくお願いいたします」

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