第150話 殺しの自覚
ユーナは動かなくなったセシルの様子を見ようと近くに寄ろうとするが、周りには魔物であるスライムが2匹とマーモットがいるので足を止める。
『あの~。セシルさんは大丈夫ですか?』
「ナ~?」「ピ~?」
『魔物に話しかけても伝わらないだろ』
セシルが帝国語を話せないので当然マーモ達もユーナの言葉が分からない。
マーモ達は、理解出来ない言葉で話しかけてくるユーナを無視しセシルをゆさゆさと揺らして起こそうとする。
「ナー ナー」「ピー ピー」
セシルを助けようとしているマーモ達を見たユーナは、近付いても安心だと判断したのか近付いていく。
『おいっユーナ気を付けろ。魔物だぞ』
『うっうん。でも多分この子達は大丈夫だよ』
「ゲッホ ゲポッ ングッ コッ」
セシルが寝たまま咳をし口から少しの吐瀉物が出た後、仰向けになり身体がぴくぴくしているように見える。
それを遠目に見ていたヨトが慌てて走り寄る。
『やばいっ! 死ぬぞこいつ!!』
ヨトが近寄ってきた事でマーモが威嚇する。
「ナ“―――」
『うぉっ!? 今は争っている場合じゃねぇんだ!! お前らの主人が死ぬぞっ!!』
その必死さが分かったのかマーモが威嚇を辞めると、ヨトはセシルに駆け寄りすぐさま口に手を当て呼吸を調べる。
『詰まっているかもしれない』
セシルの体をうつ伏せにし自分の膝に乗せると、口の中に手を突っ込み喉に引っ掛かってないか調べた後、背中をバンバンと叩き始める。
「ゲェポ ケッホケホ、ゲーッホゲホゲホッ」
セシルの口からビシャビシャと吐瀉物が出てくる。
セシルの様子を見てもう大丈夫だと判断したヨトは吐瀉物が掛からない様に素早く離れる。
「ゲホッ……ケホッゲホッ……え? ゲーッホッケホッ」
セシルが自分で上半身を起こしボーっと周りを見渡すとスライムが2匹目に入った。
「えっ? ゲホッ……ライ、ア? ライアだよね?」
「ピー!!」
ライアがセシルに飛び付きそれを抱きとめる。
ラインとマーモも飛びついてくる。
「ぐほっ……無事で良かった……ほんとに、ほんとに無事で良かった……」
ぐずっと鼻を啜ると、とめどなく涙が流れてくる。
「うわあぁあああん。よがっだぁあああああああ」
「ナー」「ピー」みょんみょん
一頻り泣き落ち着くと水魔法で口の中をぐちゅぐちゅとゆすぎ壁際にペッと吐き出すと、状況を確認する。
「くっさ。うわっ僕の服、ゲロまみれだ……くっさ」
ラインが身体を光らせたままセシルのゲロを吸収しようとくっ付いて来る。
「ラインの身体の中、まだあの人のうんち残っているじゃん。ハハッ。あっちょっ、綺麗にしてくれるのはありがたいけど、身体伸ばし過ぎると消化中のうんち付いて逆に汚れそうだからあまり身体伸ばさないで」
「ナッナッナッ」「ポピョ~~」みょんみょん
「あっだから身体伸ばしちゃダメだって!!」
セシル達は笑い合う。
ヨト達は完全に蚊帳の外で気まずげにその場で立ち尽くしている。
「……あれ? そういえば蛇は!?」
「ナー」
マーモが付いてくるようにと歩き出すので、ゆっくりと立ち上がって付いて行く。
セシルは洞窟の穴から、そーっとティタノボアの様子を覗く。
「うぉぉっ!? 死んでいる!? マーモ達がやったの? 凄いね」
「ナー」「ピー」ぴょんぴょん
「触っても大丈夫かな?」
洞窟から穴をヨジヨジと通り家の中に入り、そっとティタノボアに近付く。
ラインの明かりが無くなると何も見えなくなってしまう為、ヨト達も慌てて穴を抜けて家の中に入って来る。
「うおぉ。改めて見ると凄い迫力。少し暗いからライアも明るくしてくれる?」
「ピー」
ライアとラインの光で明るく照らされる。
「ほんとに死んでいるのかな?」
死んでなお迫力がある。
「念のため脳みそ潰しとこう。マーモもお願い」
「ナー」
斥力魔法をティタノボアの目から突っ込む。
その時、ティタノボアの頭部がビクンッと動く。
「うわぁあっ!?」
『うぉっ!?』
『きゃあああ』
セシルは驚いて尻もちを着いて魔法を消してしまう。
ヨト達も驚き後ずさる。
そんな状況でもマーモが冷静に斥力魔法を続けたお蔭でティタノボアはビクビクと痙攣し動かなくなる。
「こっこわぁ~。念のためもう一回やっとこ」
セシルが立ち上がるとすでに動かないティタノボアの脳を念入りに攻撃する。
『あいつが手を翳すのは何をしているんだ?』
『魔法じゃないの?』
『でも何も出てなかったぞ?』
『斥力魔法じゃないの?』
『いやさっき水魔法使っていたぞ。水魔法は引力魔法だから斥力は……あーそう言えば両方使えるんだっけか?』
『そうだよ。だから賢者の卵って言われているんでしょ?』
『でも、斥力魔法じゃ大した事出来ないって話だろ? 風を吹かせたり、砂をバッと広げたりしか出来ないはずだ』
『凄い事が出来るから賢者の再来なんじゃないの?』
『魔力が弱くて捨てられたとか聞いたぞ?』
『じゃ何しているんだろうね』
『な。何しているんだろうな。あっそう言えば、あいつの事助けてやったのにお礼の一言も貰って無いんだが?』
『お兄ちゃんに助けられた事に気付いてないんじゃない? でも何で助けたの? 殺すためにこんな森の奥まで来たんじゃなかったっけ?』
『いや、それは……おっ俺が殺すからだ! それまであいつが死んだら困るだろう』
『……ふーん。どうせ私たちだけじゃ生きていけないから、セシルさんに助けて貰うしかないもんね』
『あいつなんていなくても大丈夫だろ! だいたい助けられた礼も言えない蛮族なんかと一緒に居たくないね』
『お兄ちゃんはバーモットから助けられた時にお礼言ったっけ?』
『……言った』
ユーナがはぁ~とため息を吐いてヨトの声真似をする。
『【こいつに礼なんかするわけないだろ】って言っていたよね? セシルさんにお礼は言った?』
『……言った』
『【こいつに礼なんか】『分かった分かった!もう真似しなくていい!』』
『お互い助けて貰ったお礼してないんだからおあいこだね』
『チッ』
「よし、もう大丈夫かな」
セシルは念には念を入れて脳みそをぐちゃぐちゃにすると、反対側の目の瞼を開いて動いているかジーっと確認してようやく安心する。
「ふーっ、この死体どうしよう。大男の死体もまた玄関から家の中に戻ってきちゃったし……蛇は意外と血が少なかったから洞窟の外にあまり臭いが漏れないと信じるしかないかなぁ。とりあえず中を調べるか」
まずはティタノボアの口を恐る恐る開いてみる。
「ぐぬぬぬ」
『おっおい何やってんだよ』
「見てないで手伝って」
重たい口をぐっと開くと肩で支え、身振り手振りでヨトに支える様に指示をする。
『何で俺がそんな事しなきゃいけないんだよ』
「早くやれよ!! 魔物が寄って来るぞ!」
セシルの謎の迫力に負けてヨトが渋々ティタノボアの口を支える。
するとセシルは蛇の口の中に潜り込み魔石を探し始めた。
ライアが一緒に入って照らしてくれている。
『おいっ! 大丈夫かよっ!?』
「う~ん。蛇の心臓ってどこにあるんだろう? 魔石は後から探せばいいか。とりあえず腐敗が速そうな大男を捨てに行かないと」
大男を引き出そうと服を引っ張ってみたが、ティタノボアのお腹がガッチリと包み込む様にしているため抵抗が大きく全く動かなかった。
セシルは一度口から出て考える。
「蛇のお腹を切って男を出すしか無いのかな? めんどくさいなぁ。あっでも蛇捨てに行くときはどうせ細かく切らないとダメか」
ん~っと死体の処理について悩んでいると、ふと気になる。
「君たち誰? そもそも何で殴ってきたの?」
『何だ? その前に俺はいつまでこれ支えればいいんだよ』
蛇の口が閉まらない様に支えているヨトが身体をプルプルさせながら問いかける。
「全然何言っているか分かんないわ」
『だからっ! いつまでこれ支えればいいんだよ!?』
ティタノボアの口を指さして訴える。
「あぁ~そう言う事、とりあえずもう大丈夫」
手をひらひらとさせてもう大丈夫と伝える。
『それならそうと早く言えよ。クソ野郎』
「で、君たちは誰?」
『名前聞いてるのか? 俺はヨトだ。お前を助けてやったのは俺だ。感謝しろ』
「長文話されるとどこが名前か分からないよ。全部名前? オレハヨトダオマエヲ……?」
『あの~』
「ん?」
『あたしはユーナです。ユーナ』
「ユーナ?」
『そう。ユーナ』
「僕はセシル。よくわかんないけどよろしくね」
『おいっ! 俺には挨拶しないのかよ!』
「何なの? だから名前何なの? 名前!」
『さっき言っただろうが! ヨトだ!』
「サッキイッタダロウガ?」
『ヨトだ。ヨ・ト』
「ヨ・ト? ヨトね。最初からそう言えばいいのに。で、ヨトは何で僕を殴ってきたの? 結構危なかったんだけど……思い出したらまた腹立ってきたな」
セシルがヨトを指さした後、自分を指さしグーで頬を殴る様子を再現する。
「お前、俺、父……殺したっ!!」
ヨトが覚えている王国語で説明する。
「なるほど……僕が親を殺しちゃったのか……でもどの人だろう?」
セシルが顎に手を当て首を傾げる。
その様子にヨトが怒りを露にする。
『お前っ!! 人を殺したのに覚えていないのかっ!?』
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