第3章 ディビジ大森林編
第86話 ディビジ大森林
セシルは次の目的地を『ディビジ大森林』にした。
ここを選んだ理由は、「人里から離れているから」
ただそれだけの理由である。
トラウデン王国、カミール帝国、アポレ教国を大きく分断する山脈と山脈の間に存在する大森林だ。
ディビジ大森林には3国を繋ぐ道が通ってはいるが、その道は過酷で、魔物の出現は頻繁、熱帯で蒸し暑く、生活には決して適してない場所である。
セシルは生活に適している場所かどうかなど全く考えていなかった。
川さえ近くにあれば、どこもだいたい似たり寄ったりの生活出来ると思っていたのだ。
セシル、マーモ、ライム、1人と2匹で道中を行く。
ライムはマーモの背中に乗っての移動だ。
「住みやすい場所見付かるといいねー」
「ナー」ぴょんぴょん
「地図が大雑把過ぎるんだよね~。えーと。モルザック領から東南? 南東? に向かえばいいんだと思う。トルカ村の東側だね。ずーと先に行くとアポレ教国で、ずーっと南に行くと帝国か。この地図じゃ教国と帝国が端っこに名前だけ書かれてて、どんな形の国なのかも分からないね」
独り言のようにライムとマーモに話しかけながら、歩いて行く。
道中、誰かとすれ違いそうになれば森に入って隠れる。
ろくでもない奴らからの勧誘が今だ続いているのだ。
時々、視力魔法を使う事によって先に発見し、出来得る限り接触を避けている。
「あっ! 盗賊っぽいのが待ち伏せしてるな。ここは見晴らしが良いから隠れる場所が無さそうだし、どうしよっかな。ここから魔法を当てたら楽なんだけど……万が一盗賊じゃなかったら大変だし……あっそうだ! 試したい事があったんだ!」
セシルは2匹に作戦を話すと、真っすぐ道を進む。
しばらく進むと、3人の男が小高くなった丘から出てきた。
「止まれ! ガキと従魔が2匹……まさかお前、賢者の卵もどきだったセシルか?」
つるっつるにハゲた男が話しかけてきた。
「ぎゃははははは! 卵もどきってお前、可哀想じゃねーか。おめぇも卵みたいな頭してるくせによ」
「うるさいわ! 俺の頭の事はいいだろうがよ! 結局こいつ、賢者の卵じゃなかったって話じゃねーか。噂によると平民以下だったとか。ぶっふぁ。笑っちまうな。こんな所を護衛もつけずに歩いてるって事は、おおかた学院を追い出されたって所だろ?」
「なるほどな~。追い出されたのか。でも、腐っても大賢者の卵と言われたんだ。奴隷としては高値で売れそうだな。今日は運が良いぜ」
セシルは男たちの言葉に、ピクッと反応する。
「僕を奴隷にするつもりみたい……盗賊で間違いなさそうだね。ライム、マーモやるよ」
すると、セシルを小馬鹿にしていた盗賊達の着ていたボロボロの服から、焦げ臭い匂いがし始めた。
「ん? 何だ? 焦げ臭くねーか?」
「おいっ! お前の服燃えてるぞ! 消せ!!」
「うわっほんとだ! お前の服も燃えてるじゃねーか!」
「おい! お前髪燃えてるぞ!!」
「何だと? 熱っ! うわっ消してくれ!!」
「バカッこっち近付くな! 俺の服も燃えてんだよ! さらに移るだろ!」
「熱い!! 熱い!! 消して! ギャアアアアアア! 熱い! 助けて! 助けて!!」
「サッヅ大丈夫か!?」
仲間の1人が全身に火が周ってしまうが、自分も火が付いている為、助ける余裕が無い。
「助けて!!」
「サッヅ!! くそっ! 水魔法をっ『ビュンビュンビュン』 何の音だ?」
ドゴンッ
「がっ!? ぐぅぅぅ……」
セシルが放った雷鎖の分銅が、男のこめかみに命中し、呻き声を上げて倒れる。
「おい!! トッジ大丈夫か!?」
ビュンビュンビュン
「うおっ!? クソッ何だこれ!? 巻き付いてきた!?」
バチッバチバチバチッ
「イッテッイテテテッ!」
1人は燃え、1人はこめかみに強打を受けて昏倒。
そして残りのハゲは雷鎖に絡め取られてしまった。
「1人しか燃えなかったね。2人は火消されちゃった。ハゲは燃やす所少ないからなぁ」
「クソッ! どうやって火を点けやがった!?」
実はこの盗賊たちに近付く前に、セシル達は離れた所から火の魔法を上に打ち上げていたのだ。
セシルだけでなく、ライムとマーモも外に出した魔法をコントロール出来るようになっており、視界に入らないほど上げた火を、盗賊たちに気付かれないように背後から近付け、服や頭に火を点けたのである。魔力を供給し続けていれば、火魔法は持続する。
ライムとマーモはセシルと違い魔法を1つしか出せない為、火を点けた事が早くバレてしまうと、叩くだけで消されてしまう。
火を持続的に出せるが、所詮ろうそくの火よりちょっと強い程度だ、短時間で勝負を付けたい時には使い勝手が悪い。
特にハゲ相手だと相性が悪い事が分かった。
「あっ、このハゲに水かけて」
ライムとマーモが鎖に巻かれている男に水の魔法をかける。
ビシャビシャになった男に、再度雷魔法を流す。
バチバチバチッッ「アガガガガッ」
全身に衝撃が走り、男は身体がのけぞる。
「グゥ……」
「あなた達は3人だけじゃないよね? 何人グループ?」
「助けてくれぇ」まだ燃えてる男から弱弱しく助けを呼ぶ声が聞こえるが誰も反応しない。
「何人?」
「……」
バチバチバチッッ
「イッ……グゥ」
「ずっとバチバチされたいの?」
「うるさいっ! お前はあいつらをっ!!」
燃えてた男の叫ぶ声はもう聞こえなくなった。
「僕を奴隷にしようとしてた人がそんな事言うんだ? ちなみに燃えてない方は生きてると思うよ? このまま話さないなら、あの人から死ぬかもね?」
「貴様っ」
「貴様って貴族様って意味でしょ? 僕は平民だよ。てことは僕は平様かな? 平様って呼んでもいいよ?」
「ふざけやがって! 『バチバチバチッッ』イッッ……。はんっ! この程度我慢出来るわ」
「ちんちん」
「は?」
「ちんちん、直接、バチバチ、意味、分かる?」
「はっ? ちょっやめろっ!」
「仲間は他に何人いるの?」
「……4人だ」
「どこにいるの? 近く?」
「アジトだ。……わりと近い。交代で見張りをしてる」
「そっかー。ちなみに誰か奴隷とか捕まえてたりする?」
「いない」
「ほんとかな? まあいいや。近いなら助けを呼ばれない様にしないとね」
「おっおいちょっと待て! 話したんだから解放しろよ!」
「ちんちんバチバチは辞めて上げる」
セシルは斥力の魔法を盗賊のアキレス腱に当てた。
「これ、一度試してみたかったんだよね。斥力魔法が狩りに使えるかどうか」
「ん? 何して? イタッ!! 痛い痛い! やめろ!!」
ズズッブチッ
「ぎゃああああああああああああ。ぐぅうう。ぐぞぅ。やりやがっだな!」
ハゲはハッ ハッ ハッと呼吸が激しくなり、冷汗がドッと出る。
「ほぉおおお! 斥力の魔法、便利過ぎない? 穴掘れるし、アキレス腱ぶちって出来るし。剣もいらなくない? あっでも相手の攻撃を受ける時は剣が必要か」
セシルは簡単に言うが、普通は手をかざしてその正面にしか魔法が飛ばせない為、その時点で避ける事が容易であるし、斥力魔法は強風を瞬間的に吹かせるか、触れた相手をドンッと吹っ飛ばすくらいにしか使えない。
斥力は外向きに魔力を使う為、引力魔法に比べ使用魔力が大きく、距離が離れた相手には魔力が持たずほぼ使えない。
戦争でも、遠くに火を飛ばせる引力魔法使いの方が有用な為、斥力使いは一段劣る能力とされている。
そもそも斥力使いの割合が少ない上に、魔物除けの魔術具の開発などに重用されるので、戦闘としてはあまり発展していない。
「じゃ、行くね。もう悪い事しないようにね」
「くそがっ!! もうこんな足じゃ生きていく事も出来ねぇよ!!
「僕たちに手を出そうとする人達に対しては、遠慮しないって決めたんだ。このまま逃がしたら、どうせまた悪い事するに決まってるんだから。でも、君たちの仲間をわざわざ探してまで殺しに行くつもりはないよ。今回はたまたま僕たちが勝てたけど、見ての通り力も弱いし、大人4人相手はちょっと怖い。ライムとマーモが怪我したり、死んじゃうのは絶対嫌だからね」
そう言うと、セシル達は歩いて行った。
盗賊たちが見えない位置まで移動すると、耐えられなくなり木陰に移動する。
「オロロロロロ」
食べたものが全部出るほど吐いてしまった。
実際に人を殺したのは初めてだったのだ。
ゴライアス達も老化させたが、殺すには至っていない。しかも、今回は身体を燃やしての殺害だ。臭いも酷く、苦しむ姿はかなり心にクル。
盗賊たちの前では強がっていたが、見えなくなると耐えられず吐いてしまった。
「おえっ。今日ご飯食べられるかな……ゴブリンを殺すのとは全然違うんだね……でも、ヤラれる前にヤル。これは徹底しないと。もう後悔したくない」
セシルはゴライアス達を早く始末しなかったせいで、イルネが死んでしまった事をとても悔んでいる。
『命を奪われる前に奪う』
これがセシルが学院で学んだ事だ。
まだ胃に気持ち悪さを覚えたまま先に進んで行く。
盗賊の見張りの交代が来た時には、セシルを襲った3人は魔物に喰われ無残な姿になってしまっていた。
この盗賊たちの他にも、老化魔法を利用したい貴族の使い(奴隷)や、裏の組織達からの使者(奴隷)が何度もセシルの前に現れていた。
セシルは隠れて接触を避けたいが、ディビジ大森林が近づいてくると、魔物が強く、数も多くなってきており、街道を外れて森の中に入る事がしんどくなってきていた。
必然と道沿いに歩く事が多くなってしまい、今までの様に追っ手の目から逃げられなくなっていたのだ。
「もうっ! 一度追い返した奴隷が何度も来る!! 決めた!! もう奴隷であろうと2度目は許さない事にした! ていうか監視者がいなくなれば奴隷も追いかけてこないよね。監視者やっつければいいんだ!! 早く気が付けば良かった」
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