第146話 出会い


「つっ疲れた……」

「ナ~」「ピ~」「ピョ~」


 セシル達は洞窟を迷いに迷っていた。

 今は地面にどっかりと座り込み、棒になった足を解している。

 森の生活で歩き慣れているが、視界の悪い洞窟で這いつくばったり登ったり水の中を歩いたりと、普段しない動きをしたせいで今までに無い倦怠感を感じていた。


「ナッ!?」

「どうした? 魔物!?」


 マーモが耳を澄ます動作をするので、セシルも耳に手を当てて耳を澄ます。


『うわああああああ』

『放してぇええええ』

『助けてえええええええええ』


「ええええ? こっわ。誰か襲われているのかな? 子供の声? こんな所で? 王国語じゃない? マーモ、どっちの方面か分かる?」

「ナー」

「よし、出口あるかもしれないし、そっちに連れてって」

「ナー」


 声のする方に移動していくとマーモは強烈な体臭を感じる様になり、方向に確信が持てるようになった。

 スピードを上げて走ると、そんなに距離が無かったらしくいくつかの分岐で、臭いのもとに辿り着く。


『おらっ大人しくしろ。ジッとしているだけで終わるんだ。何か減るもんでもねぇ。むしろ経験と言う意味では増えるんだ。おっ? 今、名言が出たな?』

『名言なわけないだろっ!! 放せっ! 放せっ!!』



「あれ?? 僕の家だ。何で僕の家で人の声がするの? バレるとまずいし、ライライ光り消してみようか」

 ぴょんぴょん


 セシルは洞窟と家に繋がる穴から家の中を覗く。

 すると、家の中は1本の蝋燭の火に照らされていた。


 大男が子供2人に襲い掛かっている。 

 片手で女の子の腕を掴み、男の子の上に跨るように乗っている状態だ。


「……えぇ~何これ。えっ何? 何なのこれ? 僕の家で何やっているの……」


『くそっ、抵抗する子供2人を相手にするのがこんなに難しいとはな。おいお前、自分でズボン脱げよ』

『脱ぐわけねぇだろっ!!』

『……縛るしかないか』



「たっ助けた方が良いよね? 言葉分かんないけど、襲われているのは間違いないよね? 子供達の方が極悪人だったってパターンない? 大丈夫?」

「ナァ~?」

「分かんないよね。ん~ほんとは大男が良い人だったら殺しちゃまずいし。でも殺すつもりじゃないと助けられなさそうだし」


『きゃあああああ』


 バーモットは上に着ていた服を脱ぐとその服でユーナを縛り地面に転がし、そのままヨトに襲い掛かる。


「あっ女の子が服で縛られちゃった。どうしようどうしよう」


『ちょっやめろっやめろぉおお』


 ヨトがズボンを脱がされていく。


「えっズボンを? ……流石にこれは大男が悪人でしょ。よし、助けるよ」


 セシルは穴から手を出すと男の子の足を拡げている大男に向かって斥力魔法を放った。


『ぐあっっ』


 男は右わき腹に走る鋭い痛みに、一瞬で反応し飛ぶように斜め前に前転をして逃れる。

 大男もズボンを半分降ろしている状態であるのに俊敏な動きだ。


『なんだっ!?』


 身体の色んな所がチクチクと痛みが襲ってくる。

 身体を捻りながら慌ててズボンを履く。


『クソッ何だってんだ。虫か? いや、穴の方に誰か居やがる?』


 バーモットが持ってきた蝋燭の火で薄っすらと人影らしきものが見えるが、半身ほどしか見えておらずハッキリ確認できない。


 謎の痛みから逃げながらも、穴の方を凝視するとセシルが手を伸ばしてる姿が次第に露になってきた。


『ここの住人が居やがったか! ふざけやがって!! ぶっ殺してやる!!!!』





『――――けやがって!! ぶっ殺してやる!!!!』


 怒号の様な大声が洞窟の中から聞こえてきた。


『おい、バーモットに何かあったんじゃねぇか!?』

『子供に抵抗されたんじゃねぇか? チンコ噛まれたとか』

『ありえそうだな……だが、魔物かここの住民が出てきた可能性も捨てきれん』

『仕方ない。様子を見に行くぞ』


 全員が武器を手にする


『ぎゃあああああああああ』


 洞窟の入口に足をかけた所でバーモットの野太い叫び声が聞こえてきた。


『『『……』』』


『おい、まさかやられたんじゃないか!?』

『慎重に行くぞ』

『いや、まずい』

『どうした?』 

『蝋燭はバーモットが持って行った。明かりあるか?』

『探せばあると思うが時間かかるぞ』

『とりあえず蝋燭探せ! その間どうする?』

『声を掛けてみるか?』

『大丈夫かっ!!? 何があった!!?』


 中に入り込まずに、とりあえず洞窟の中に向かって声を掛けた。

 すると地面を這うように何かが現れ、全員に緊張が走った所でバーモットが現れた。


『バーモット!?』

『たったすけ……』


 バーモットはカッツォ達の前に出ると、壁を捕まえながら座り込む様に膝を着き、手を伸ばすが、前のめりに倒れた。


『しっかりしろ! 大丈夫か!? 何があった? 魔物か!? 子供にやられたのか!?』


 手当の準備をしながら話を聞くが、すでにバーモットは事切れていた。


『くそっ死んでるじゃねぇか!? どうなってやがる!?』


『きゃああああああああああ』


『おいっ! 子供の悲鳴だぞ!?』

『てことはやはり別に敵がいるぞ!』

『おい、逃げるぞ』

『バーモットと子供は良いのか?』 

『仕方ねぇだろ。財宝は仕舞った。急げ! 俺たちもやられるぞ!!』


 3人はポストスクス1頭と馬3頭を全て連れ去って行った。




 少しだけ遡る。



『ここの住人が居やがったか! ふざけやがって!! ぶっ殺してやる!!!!』


 バーモットが大声で威嚇してくる。


「おぉ~こわっ。でも武器も無さそうだし大丈夫かな。ライライ、蝋燭消してやってきちゃって」


『ん? 子供の声? お前……もしかして』


 ライライが穴から顔を出し風魔法で蝋燭を消すと、フッと暗くなる。


『クソッ暗くなりやがった』


 未だに謎だがスライムであるライアとラインは、目が無いのに状況を把握出来ている。

 夜はセシルと一緒に寝るので活動する事はほとんどないのだが、暗闇でも問題なく動けるようなのだ。


 ライライ達は暗闇の中、バーモットを斥力魔法で攻撃し始める。

 暗闇の中近付いて直接攻撃をする方法もあるが、わざわざ危険を犯す必要も無い。

“遠距離から安全に一方的に”

が、セシル達のモットーなのだ。


『ぐあっくそっ』


 ゲシッ

 どすぅん


『グッ』

『いたぁ』


 バーモットが斥力魔法から逃れる為にバタバタと動き回り、転がっていたユーナに足が引っ掛かり転んでしまったようだ。

 バーモットは咄嗟にユーナを盾に使う。


『放してっ!!』

『ユーナ! 大丈夫かっ』

『どうだ! これで攻撃出来ないだろう! こいつに当たっちまうぜ』


 するとバーモットの背中から強烈な痛みが走る。

 ラインが洞窟の穴から移動し、バーモットの背後に回り込んでいたようだ。

 ライアとラインで挟み込む形になっている。


『ぐあああっクソッ何で見える!?』

『いたっ』


 ユーナを盾にしても意味がないと悟り、ユーナを放り投げて暗い中記憶を元に出口に逃げようとするが、すでに遅かった。


『ぐああああああああっ』


 ユーナの盾が無くなった事で斥力魔法を前後から挟む様に打たれ、遂に身体に穴が開いてしまう。


『ガフッ』


 バーモットは口から血を出しながら外を目指して地面を這いながら逃げる。

 セシルは声と音で状況を判断したのかライライに声を掛ける。


「ライライ明るくして~」

「ピー」「ピョー」


 明るくなり、バーモットが這いながら逃げる姿が目に入る。


 ライライが、どうする? と洞窟から顔だけを出しているセシルに問いかける様に動く。


「もういいよ。もう助からないでしょ? 勝手に外に行ってくれた方が片付け楽だし」


 ぽよんぽよん


 何が起きているか分からなかったヨトとユーナが少し冷静になると、近くにいた光るスライムに驚く。


『スライム!?』

『きゃあああああああ』


 ユーナは突然の魔物の出現に驚き、洞窟の外まで響くような声で叫んでしまった。

 ヨトが慌てて立ち上がり、ライライ達からユーナを守るように立つ。

 

「うるさいなぁ。そのスライム達に攻撃しないでよ。家族なんだから」

『誰だっ!? この魔物お前のか?』

「何? なんて言っているの!?」


 セシルはマーモを持ち上げて洞窟から家に入れつつ話す。


『マーモット!? お前、もしかしてセシルか!?』


 ヨトはスライムを牽制しながらユーナを縛っている服を解いていく。


「ん? 今セシルって言った?」


 セシルは穴をウネウネと通りながら話す。


 ドスンっ

「ぐふぇっ」


 行きと同様に着地に失敗し地面に落ちてしまう。


 ヨトは笑いそうになるのを我慢して王国語を使い、また尋ねる。


「ぶっ、ふっ……ふ~。お前、セシルか?」

「セシルだけど、何で僕の名前を知っているの?」


『お前かぁああ!! お前が父さんを!!』


「えっ何々? 何で怒っているの!? 僕が君たちを助けたんだよ!?」

『殺してやるぅ!!!』


 ヨトがセシルに殴りかかってきた。


「なっなんでぇ~!?」

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