第175話 粗相と罰


 夕食(昆虫食)を終えたマーモットの面々はこの後どうしたら良いのか?とボスのマーモを見る。

 その流れでマーモはセシルを見る。


 その様子に(あれ? この群れのボスはあの二足歩行のやつか?)とマーモット達は疑問に思うが、まだマーモの性格を測りかねているので気軽に聞く事は出来ない。

 ボスに対してお前はあいつより下なのか?などと聞けば激しい気性のボスならば、聞いた奴はただでは済まないだろう。


 セシルとマーモに上下関係は無く精神面で対等な関係ではあるが、魔力供給の方向性の影響かマーモとライライコンビにはセシルの言う事がほぼ完璧に伝わるのに対し、逆にマーモ達の意思はセシルにはハッキリとは伝わらない。

 当然、一般人が飼っているペットなどよりは魔力的繋がりがある分意思疎通は測りやすいが、それでもセシルが指示を出した方が効率的に生活する事が出来るのでセシルの決定で物事が動く事が多い。

 周囲から見るとセシルがボスの様に見えてもおかしくないだろう。



「うん。大丈夫だよ。家に入ってもらおう。一度説明したけど、明日は全員川で身体洗ってもらうからね。それが条件ね」

「ナー」


 マーモが改めてマーモット達に説明すると、ライライの明かりを先頭にゾロゾロと洞窟の中に入っていく。


「洞窟の中に入るとマーモット達の臭いがだいぶキツく感じるね」

「どこの部屋に入ってもらうんだ? と言うか、家に入る前にラインに綺麗にして貰った方が……あっおいっ! 一番後ろの奴、通路でウンコしてんぞ!!」

「あっナンバー2もマーキングしてるっ! あっ、あっちで子供もやってる!」

「なんで家に入った途端次々にやるんだよ!! 外でやっとけよ!!」

「ちょっ! ライン掃除して! マーモ! トイレの場所皆に教えて!」

「ナー」


 マーモがマーモット達にトイレの場所に連れて行き、穴の中にするようにお手本を見せている。


「ねぇ、トイレ増やした方がいいんじゃない?」

「確かに。結局何匹増えたんだ? 1、2、3……あっ動かないで。1、2……」

「何匹いたの?」

「……多分27匹」

「うわぁ~結構いるね」

「1部屋追加してマーモット達用のトイレ作ろうか。というか、トイレの事を知らなかったとは言え新しいボスが住んでいる家にマーキングはおかしいから、ナンバー2は見せしめに説教だね。マーモ、ナンバー2をここに」

「ナー」


 マーモに呼ばれ、怒られると思っていないナンバー2はのほほんとした顔でセシルの前に出てくる。


「今から罰を与える。マーモ、理由を説明して」

「ナー」


 マーモに今から罰を与えられる理由を説明されたナンバー2は『しまった!』という顔をし『ここがすでに家だとは理解していなかったのだ』と必死に言い訳をする。

 たしかにマーモのトイレ後はラインが綺麗に掃除をする為、家の中はマーモのおしっこによるマーキング臭はしないだろう。しかし、マーモの生活臭は染みついているはずなのだ。その言い訳は通らない。


 セシル達にはナーナーと鳴いている様にしか聞こえてないが、必死に言い訳してるのが分かった。


「諦めが悪いぞ」


 セシルが近付くと情けない顔で顔を伏せた。


「ちょっと可哀想。何するの?」


「まあ見てて……ナンバー2、動くなよ」

「ナー」

「「ナァァ~」」


 ナンバー2がこれから酷い事をされるんじゃないかとマーモット達は戦々恐々とし悲鳴が上がる。


 セシルはおもむろにナンバー2の頭髪を掴むと斥力魔法で毛を切り落としていく。


「ナッナァァ~!?」


 あっという間にナンバー2の髪型が逆モヒカンになってしまった。


「よし、罰はこれでいいでしょ。髪はまた伸びるしね」


 切り落とした髪はセシルが掴んでいたのでナンバー2は何が行われたのかあまり把握できていない。

『あれ? もう終わり?』

 といった雰囲気でナンバー2が周りを見渡すと、これから恐ろしいことが起きると想像し極度の緊張をしていた周囲のマーモット達は、想像とのギャップのある罰に意表を突かれ、笑いを我慢出来ずに後ろを向き肩を震わせている。


 そんな中、空気を読めない子供のマーモットが「ナー(ハゲー)」と叫んでしまった。

 その声にマーモット達は肩の震えが大きくなる。


『えっ!? まじ?』

 とナンバー2は自分の頭を触ろうとするが、リスとカピバラの間の様な体型のマーモットでは手が短く、届かない。


 切られた髪の毛はどこにと周囲を必死に探すと、うんちを消化しているラインの体内に見覚えのある毛が束になって浮いていた。


「ナッ!?……ナァァアア!?」


 慌てて頭に手をやるが、相変わらず届かない。

 すぐに確認したく水溜まりを探すが、周りに見当たらない。


「ぶふっwwww」

「ちょっwwww 笑っちゃダメだろwwww」

「だってwwww」

「不憫wwwww」

「おいっwww セシルはやった本人なんだからwwww ふびんってww ふびんwwww 言っちゃダメだろwww」

「お兄ちゃんふびんってどういう意味?」

「なんか哀れみたいなwwww」

「あわれwwwww セシルさんが絶対言っちゃダメでしょwwwww」

「やばいwww ツボに入ったwwwwwww」


 セシル達の笑いは必死に我慢していたマーモット達にも伝染する。

 我慢すればするほど我慢できないのが笑いなのだ。


「「「ナーッナッナッナッ」」」


 遂に全員が声に出して笑いだしてしまった。


「ナー!! ナー!!!」


 ナンバー2がやめろっ! 笑うなっ!と怒るが、情けない髪型が逆に笑いを誘う。


「ごめんごめんw 怒らないでwww ぐっふっwwww」

「「「ナーッナッナッナッwwww」」」

「ナー!!」


「あー面白い。仕方ない。ライン手伝って」


 セシルがラインを連れて奥に行くと、大きな皿に水を入れて運んできた。


 それをナンバー2の前に置く。

 ライアが近くで光を照らすとナンバー2は水面を覗き込む。


「ブッwww」

 反射で映った自分の頭を見て自分でも笑ってしまう。

「ナッ!? ナー! ナー!」 

 慌てて『ちっ違うんだ。これは違うんだ』と自分を笑ってしまった事を必死に訂正しようとするが、それがまた笑いを誘ってしまった。


「ぐっふっwwww」

「「「ナーッナッナッナッwwwww」」」


 ナンバー2も以前なら力技で黙らせることも可能だったが、スライムにも負けた今は威厳がなくなってしまっている。

 笑いが治まるのにしばらくの時間を要するのだった。



「――――あーあ、面白かった。久しぶりに笑い疲れてしまったよ。そろそろ行動しないとね。遅くなったけど、とりあえず1匹ずつライン風呂に入って貰おう。お手本でマーモからやってみせて」


 早速、ラインがまだウンコが浮いた状態のままマーモの顔からガッツリ包むと、ダニなどを食べ、土などは外にポロポロと出していく。


 マーモット達にはマーモがスライムに食べられていく様に見え、先ほどまでの和やかな空気から一変し、壁際まで下がってしまう。

 さらにマーモが口を開き、その中にスライムの触手が入っていく様子は悲鳴に似た鳴き声が上がる。


 ラインから出て来てさっぱりしたマーモが現れるが、まだ異様な光景に恐怖が止まらない。


「ナー。ナー。ナナー」


 マーモが次はお前だ。とナンバー2を指名する。

 身体を綺麗にしてくれると説明しているが、ナンバー2は足が震えてしまう。


 見かねた元ボスの筆頭メスが前に出てくる。

「ナーナー(情けないわね。だからあんたはボスになれないのよ。ボスが変わった今、もう私はどうなっても良い身の上。私に任せな)」

「……ナー(……アネさん)」


 ナンバー2はここで男気を見せる事無く筆頭メスに順番を譲る。

 ()はヨトのアテレコだ。 

「ちょっお兄ちゃんやめてよ。また笑っちゃいそうなんだけどw」


「ナー。ナー。ブフッ(普通、ここは俺がっってなる場面じゃないのかねぇ。無駄に面白い頭しやがって。ぶふっwwww)」


「ほんとうにそう言ってそうww」


 決意した顔の筆頭メスが恐怖に足を震わせながらラインに近付く。


 ラインがバッと飛び掛かると、先程と同じように綺麗にしていく。

 筆頭メスの口は恐怖でしっかり閉じられていたが、ラインに力尽くで開けられてしまう。

 歯の中を蹂躙される恐怖に毛が逆立ち完全に固まってしまったが、掃除が終わりラインが離れて行くとホッと息を吐く。


「ナー!」

 

 終わってもまだ微かに身体が震えている筆頭メスが気丈に『身体がスッキリしたわ』と言ったのを確認し、ナンバー2が『次は俺に任せろ』と前に出て来た。


 周りのマーモットは若干白い目で見ているが、ナンバー2は気が付いていなかった。

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