第123話 新しい魔法
セシルはゴブリンに左肩と背中に怪我を負わされて以来、まだ痛みが引いておらずあまり大きく動けなかったが、ライライコンビやマーモのお陰で岩山ハウスは順調に進んでいた。
「寝れるくらいの大きさになったね! 今晩は仮宿で寝て、明日こっちに引っ越してこよう!」
「ナー」ぴょんぴょん
本家はまだ狭いが、仮宿は天井から土や虫がポトポトと落ちてくる事もあるし、雨が降ると泥水が滴ってきてしまうので、出来れば早く引っ越したかった。
とは言え、王都を立ってから寝起きした仮宿の中では一番長く住んだ家なので、多少の愛着が湧いており、今日一日は仮宿で寝る事にしたのだ。
岩山本家は地面から40~50センチほど高い場所に作られており、穴はおおよそ横1メートル、高さ1.2~1.3メートル、奥行きが2メートル程だ。
身長の低いセシルは今はまだギリギリ頭が当たらないので屈まなくても大丈夫だが、何かの拍子に打ってしまうくらいの高さだ。
成長する事も考えて追々、高くしていく予定にしている。
入口は長方形のブロックに切り出した岩を綺麗に並べ重ねており、それっぽい門のような物が出来ている。屋根部分は平たく切り取った木の板をかけ、その上にブロックを乗せている。
木の板が割れたら上に置いたブロックが落ちてくる心配があるが、木の板がセシル達が持ち上げられるギリギリまで分厚くしているので、しばらくは大丈夫だろう。
身長の関係で屋根に積まれているブロックの量も控えめだ。
仮宿に戻ると、最近狩った鹿の魔物の肉を食べる。
「あっ! 今度からこの仮宿を魔物の肉を焼く場所にしようかな! 臭いがなるべく漏れないようにするにはもっと奥に穴掘ればいいかな? あー、でも風通しが悪い所で火を使ったら人間も死んじゃうんだっけ? 困ったなぁ~」
2日前仮宿の前でこの鹿肉を焼いていると、セシル達の天敵『シャグモンキー』が匂いに釣られて何匹もやってきたのだ。
魔物除けを置いていたので近くまでは寄ってこなかったが、魔物避けの臭いが届きにくい風上から石を遠投してきて大変な思いをしたのだ。
石が飛び交う中で焼いている鹿肉の回収は難しく、かなりの肉を焦がしてしまった。
ちなみにそれがあってから、細い木を蔦で結んだ簡易盾を作っているが、出来は良くない。
試しにマーモが体当たりしてみたら、木の間から角は突き出してくる上に蔦が切れて盾は一回でバラバラになってしまった。
だが、重たい一枚板の盾を持ち歩く力はないし、結局細い木を結ぶしか思い付かなかった。
「冒険者の盾を奪うかなぁ~」
近頃セシルの発想が物騒になってきている。
「魔法で盾とか出来ないかな? ウォーターシールド!! みたいな……え? 何それ。思い付きで言ったけど出来たらめちゃくちゃカッコよくない?」
「ナー」ぽよんぽよん
「……僕の水魔法3センチくらいしかないから無理だけどさ。3センチで何が防げるのさ。はぁ」
簡単に魔法の新技が思いつく訳もなく、ぐぬぬと頭をひねる。
マーモ達もセシルの真似をして、頭を傾け考えているフリをしているが当然何も考えていない。
「魔法は身体の中できっかけを作れないとダメだから、身体で出来る事を考えて行けば何か出来るかも?」
「人間の身体で何が出来るか……呼吸。汗。おなら。うんち。しゃべる」
「呼吸……吐息を遠くに届けて何になるよ。風魔法と一緒だね」
「汗は……汗の仕組みは分からないけど、水魔法がある。おなら……クサい匂いを届ける魔法なんか出来たら笑っちゃうね。ふふっ。マリー様にやったらどんな反応するかな? あ~マリー様に会いたいな~。万が一マリー様に会った時の為にこれは開発しておこう」
「うんち……は、どんな魔法が出来るか想像できないな。うんちを集める魔法? 最悪だね」
「しゃべる……あっそう言えば音を届ける魔法があるって授業で言ってた気がする。やり方分からないけど。ちゃんと聞いとけばよかったな。戦争で合図に使うって聞いて興味が出なかったけど、よく考えたらライライが音を出せるようになったらもっとコミュニケーション取れるかな?」
声の仕組みを考えるために声を出してみる
「あー。あー。うー。おー。あー。どうやって声出てるの? えっと。息を出す。声が出る……で?」
「よく分かんないね。口笛は口を尖らせて、ピューッと吹くだけ」
「ヒューーー」
「久しぶりだから上手く出来ないや」
「ヒューー、ヒューー、ヒューー、ピューーッ」
「おっ出た! これを手から出る風魔法で……どうするの? 手を口の形に……しても空気漏れ漏れで出来ない。マーモみたいに口から魔法出せる様に練習しようかな。いや、よく考えたら僕が音出せてもあまり意味ないよね。ライライが出せるといいんだけど、口らしい口がないんだよな~」
マーモとライライの方を向き、お手本で口笛をしてみせる。
「ヒューッ、ヒューッ、ピューッ、ピューッこの音出すの風魔法で出来る? マーモは口から魔法出してるからいけそうだよね」
マーモとライライはそれぞれ練習を始める。
「ぷわっ」
マーモは斥力魔法で風を押し出すと、口の中の空気が外に出ようとして、思わず閉じた口が開いてしまうようだった。
「口を完全に閉じるんじゃなくて細く空けるんだよ」
「ぷわっ、ぷわっ」
口をすぼめるのが苦手の様で、何度やっても上手く行かないみたいだ。
ライアとラインは身体の真ん中辺りから魔法を出しているようだが、どうなるか全く予測が付かない。
様子を見る。
最初は身体の真ん中を口の様に変形させて風魔法を使おうとしたようだが、風魔法は周りに空気が無いと使えない。マーモは肺と口の中に空気があるので発動出来るが、ライライ達の身体の中に空気袋は無い。
色々工夫しているようだが、中々上手く行かないようだった。
「ん~中々難しいのかな? 盾魔法を先に考えた方がいいのかな?」
セシルは盾魔法を考察し始める。
何もアイデアが浮かばないまましばらくすると、ピヒューーッピヒューッと聞こえて来た。
「え?」
音がした方に振り向くと、ラインが音を出したようだ。
身体を口の形にするのを諦めて、触手を2本顔の少し前に出し、その触手で穴の開いた棒のような形を作り、そこに風魔法を流したようだ。
顔と触手の間に空間がある事で風魔法が発動できる。
「凄いよ! えっと、ライン凄いよ!!」
最近、ラインとライアの違いが見分けられるようになってきている。
スライムは元々少し青みがかった透明だが、肉食オンリーのラインが若干青色が濃くなって来ている。
ライアは先に音を出された事が悔しかったのか、ラインの触手の形を真似してヒューヒュー風を流している。
ちょっとした違いがあるのか中々音が出ないようだが、何度も続ける。
「ヒョォーヒョォー」
少し甲高い音が混ざり始める。
「おっ惜しい!! あと少し!!」
「ヒョーピーーーーー」
「出た!! 凄い凄い!!」
「ピーーーーーピーーーーーー」
音が出て嬉しかったのかライアがピーピーと繰り返す。
「ピヒューーーピヒューーー」
先に音が出ていたラインは、まだ少し空気が抜ける音が混ざっており、焦って練習を始める。
「ピヒューピヒューーピョーーーー」
「おっラインもいい音が出るようになったね!!」
「ピーピー」
「ピョーピョー」
「ぷわっ……ナ~」
ライライコンビが音が出て楽しそうにしているのに、自分だけ出せないマーモが悲しそうな鳴き声を出す。
「マーモは元々鳴き声が出せるから、マーモも凄いんだよ」
「ナ~」
慰める様にマーモをヨシヨシしてあげる。
「でも声と口笛ってどう違うんだろうね? 口笛をどうにかして話す事出来ないのかな?」
ピーピー音を出して楽しんでいるライライをジッと見る。
「その口笛を震わせてみて」
「ピーヒョ~~~~~」
「ん~残念。声は出せないか。よく考えたら元々鳴く事が出来るマーモも声は出せてないしね。これは後々考えればいいや。とりあえずライアとラインが音出せるようになったのは凄い進歩だね!」
「ピー」「ピョー」「ナー」
「よし、新しい魔法も身に付けた事だし今日はもう寝ようか。最後の仮宿の夜だよ! おやすみ」
「ピー」「ピョー」「ナー」
セシルは目を閉じて寝始める
「ピーー」「ピョーー」「ぷわっ」
「……」
「ピーー」「ピョーー」「ぷわっ」
「――うるさいっ!!」
「「ピヒョ~」」「ナ~」
「よく考えたらマーモは風魔法じゃなくて自分で空気吐けばいいんだよ」
「ナッ!?」
「どっちにしろ口尖らせられないでしょ! 練習は明日ね! 明日っ!!」
「ナ~」
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