第210話 帝国後続組
スマフ達の後続組(セシルとの取引の為の商品を持って来ている)が岩山に辿り着こうとしていた。
荷馬車を引いているのでもう少し遅れると想定していたが、代官の権力を用い半ば強引にポストスクスを2体用意した事から、スムーズに移動出来たと言って良いだろう。
後続組は10名で兵士8名と行商人1名、案内の元冒険者1名で隊が組まれている。
案内役として雇われた元冒険者の男ネンドルンは過去に何度もディビジ大森林を往復した経験があった。
身寄りもなく博打でお金に困っている所を借金の肩代わりする形で半ば強制的に選ばれた。
歳は50にもなろうかという年齢だ。
この世界の平民で50は高齢と言っても差し支えない。
いざという時は始末してもさほど問題が起きない人間としてこれ以上ない人選と言える。
後続組は現在、川幅80センチ程しかない小川で馬やポストスクスの水分や食料の補給をしながら休憩をしている。
街道のどこから岩山に向かって入るべきかをポストスクスを1体貸し与えた兵士3名が下見から帰って来るのを待っていたのだ。
唯一ディビジ大森林に詳しいネンドルンも一緒に行かせるつもりだったが、現役を引退して時間の経った身体では足手まといになるし、街道を外れて移動をした事は無いから役に立てないと子供の様に必死に抵抗するので仕方なく兵士のみでの斥候となった。
危機回避の為にはプライドを捨て、全力で逃げを打つ能力こそが冒険者として生き残れる力なのかもしれない。
「そろそろ戻って来るころか?」
「そうですね。あっ丁度戻ってきましたね」
兵士1名が乗ったポストスクスが歩き、他2名が小走りで並走し汗を顔に貼り付け戻って来た。
「ただいま戻りました」
「ご苦労。ほら、水だ。飲め」
後続組の隊長であるトルバルが自ら小川で汲んだ水を、軽く息が上がる3人に渡す。
水を渡された綺麗好きなシルエットは水を汲んだ場所を見、そしてその上流に目線を移す。
上流ではポストスクスや馬が顔を付けてガバガバと水を飲んでいた。
どう考えてもポストスクスや馬の涎などが流れてきている……。
思わず顔が引き攣るが、水を渡して来た隊長は良い人であるので好意を無下にも出来ない。
周りも気にせずに飲んでいる様子を見て、心にグッと気合を入れて一息にグビッと飲み干すと、ふーっと息を吐く。
ネンドルンはその様子を見て軽く笑いながら自分だけはポストスクスが水を飲んでいる位置よりさらに上流で水を補給していた。
わざわざ注意喚起するほど高尚な人間ではない。
「どうだった? どこから入るのが適当だろうか?」
「その話の前にお伝えしなければならない事が」
「うん、何だ?」
「我々はあと少しでダンジョンがあるであろう場所を視認出来るほどまで近付いたのですが、その近くに巨大な魔物の死体とそれに集るラプターやウルフ系の複数の魔物を確認しました。さらには巨大な蛇らしき胴体も見えておりこれ以上の接近は危険と判断し戻ってまいりました」
「ふーむ。困った事になりそうだな。スマフ隊は?」
「発見出来ておりません」
「問題があれば街道に出て我々を待っているはずだが……魔物にやられたか? ラプターやウルフはどうにかなるが、巨大な魔物と巨大な蛇? 噂のティタノボアという奴だろうか。ネンドルン、どう思う?」
「さあ、大蛇はティタノボアで間違いないと思うぞ」
「巨大な魔物は?」
「あ? もちっと情報をよこさんと分かるはずないだろうが」
ネンドルンの言う事はもっともだが、その言いように皆のこめかみにピキリと血管が浮き出る。
「……細かく見た訳ではないがデカいボコボコした甲羅を背負った巨大な亀とトカゲをくっつけたみたいなやつだ。ポストスクスより大きいように見えた」
「尻尾は?」
「見えなかった」
「候補がいくつかあるな……ドラゴン種なのは間違いないだろな」
「ドラゴンだと!?」
兵士達がざわつく。
「ここではそこまで珍しいものじゃないだろう。しかし面倒な仕事だと思ったが、運が向いて来たな」
ネンドルンが白髪交じりの髭を摩りながらニヤリと笑う。
「なぜ運が向いて来たと?」
「なぜってドラゴン種だぞ? ディビジ大森林においてドラゴン自体はそこまで珍しいものじゃない。だが、素材が手に入る事はほぼ皆無と言って良い。分かるか? ドラゴンの素材というお宝が目の前に落ちているんだ。大賢者の卵だかダンジョンだかはもうどうでも良いだろう?」
「だが魔物が多く集まっていたんだぞ」
「今の話を聞いた限りじゃティタノボア以外はどうにでもなるだろう。まさか兵士であるお前さんらがウルフやラプター如きにやられやしないだろうな?」
「それはまあ、な。当然だ」
どこにでもいるウルフならまだしもディビジ大森林でのみ見られるラプターは通常の兵士では戦った事が無い者がほとんどだ。
とは言えこのジジイがラプター如きと言ったのだ。倒せないはずがないだろう。
何よりこの小ばかにした顔のジジイに出来ないなど言いたくもない。
「ポストスクスが2体もいりゃそもそも戦う必要も無いだろうがなヘヘッ」
そんなトルバルの内心を見透かす様に小馬鹿にしたような笑みを浮かべネンドルンが言う。
「隊長、コイツ殴って良いですかね?」
「気持ちは分かるが、今はまだ待て」
「おぉ~怖い怖い」
ネンドルンが大袈裟に首を竦める。
「お前も挑発するな……で、問題のティタノボアはどうする?」
「火だよ。蛇は火が苦手と相場が決まってんだ。あんさんらの中で火魔法使える奴は?」
「使えるって程の魔法使いはいない。20センチ程度の火魔法なら3人は使えるが」
「十分だ。ドラゴン種の素材は手に入ったようなもんだな。さあすぐに準備するぞ」
偉そうに語るネンドルンは3メートル程度のそこそこのサイズの蛇しか見た事がない。
「ほんとに大丈夫なんだろうな?」
10~15メートルはあるであろうティタノボアを直接見た兵士3名は不安を覚えるが、いつの間にかリーダーの様に振る舞うネンドルンの指示でティタノボア退治の準備が行われていく。
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