第155話 謎の生物
場面はセシルがヨトとユーナに出会った翌朝に戻る。
「ナー! ナー!」
マーモがセシルの顔をテシテシと叩く。
寝る部屋は採光が取れていないので、朝になっても暗いままだ。
「んん~。おはよぉ~どうしたのぉ~?」
「ナー! ナー!」
「ん~? そう言えば何か臭いね。血と違う臭い。ティタノボアの死体の臭いじゃないのかな? ライライは起きてる?」
「ピー」「ピョー」
「おはよう。明かり付けてもらえるかな?」
ライライによって明るくなった部屋は特に問題が無さそうだったので、鼻をクンクンしながら臭いの元に向かって部屋を出る。
「うわあぁああああああ。なになに怖ぁー!! うわああああああ。くっさぁああああ」
そこには洞窟に繋がる穴にすっぽりハマりバタバタしている生物がいた。
キシャアアアア
『なんだようるせぇなぁ。なっなんだなんだぁあああ!?』
『お兄ちゃんどうしたのぉ~キャアアアアアアアア気持ちわるくっさぁあああ』
臭い生物は穴から上半身だけ出ており全体像は掴めないが、人間の様な形で魚と人間が混じった様な顔をして質感はテカテカヌメヌメしているように見える。
髪の毛はなく背面は深緑で身体の内側や顔は白っぽい
手は水搔きが付いているようだ。
お腹がぶよぶよしており、それがつっかえたようだ。
キシャアアアア
バタバタと手を動かし這い出ようとしている。
ティタノボアと大男の血の臭いに釣られてやってきたのだろう。
『うっわあああああ。きんもち悪ぅぅううう。生臭ぇえええええ』
この謎の生物が家の中に入って来てはまずいとセシルは慌てて雷鎖を取ってくる。
「マーモ、雷魔法でバチバチやるよ!」
「ナー」
「ライライ達は危ないから離れてね」
ぴょんぴょん
ライライが離れたのを確認すると、謎の生物の手の届かない範囲ギリギリにそれぞれ左右に移動する。
「行くよ」
「ナー」
そう言うと、セシルは雷鎖に雷魔法を流しマーモも角にバチバチと雷魔法を流す。
だが、セシルの思惑と違い、少し距離が足らなかったのか角と雷鎖を繋ぐように発生する雷が出なかった。
「ちょっと足りないか」
ジャラッと音をさせて雷鎖を謎の生物近くまで投げる。
バチッ バチバチバチッ
するとマーモの角と雷鎖の分銅を繋ぐ様に雷魔法が流れ、その間に居た謎の生物にも雷魔法が流れる。
直接雷鎖を当てなかった理由は、雷魔法が効かず鎖を手でグイッと引っ張られる可能性を考えたためだ。
バチバチバチッ
ギャアアアウ
『うわっ!?』
『キャッ……綺麗……』
謎の生物は雷が効いたようで全身をビクビクとさせている。
「よし、効いたみたいだね」
安心していると別の場所から鳴き声が聞こえて来た。
キシャアアアアアア
「あれ? 今洞窟の中からも鳴き声聞こえた? 魚のおっさん、数体いるのかな?」
セシルに魚のおっさんと言われた生物は複数で来ており、穴にハマった個体の後ろでどうしたものかとウロウロしていたのだが、穴にハマった奴の叫びに何事かと心配になり下半身を触ってしまい、一緒になって感電してしまったのだ。
すぐに手を放したが、謎の痛みに思わず叫んでしまった。
そうしている内に穴の個体が徐々に力尽きて来た。
ギャアゥウゥ
「おっ、ぐったりしてきた。どうしようかな? ……よし、詰めるか」
「そこの2人、来て」
『えっ?』
セシルが開いた手で手招きをするが、ヨトとユーナは恐怖で足が止まっている。
「早くっ」
仕方なく2人は恐る恐ると近付いていく。
「マーモ雷止めて」
「ナー」
セシルも雷魔法を消すと、下に落ちている小さな岩のかけらを拾いグッタリとしている魚おっさんの背中の隙間に岩を詰めて隙間を埋めていく。
「詰めて」
『えっ!?』
「ぐったりしている内に早く!!」
『あっああ。岩を詰めるんだな』
ヨトがおっかなびっくり岩を隙間に埋めていく。
ユーナは2人に岩を手渡す。
お腹周りにギュッと岩を詰められた魚おっさんはただでさえ抜けない状態だったのだが、身体をよじる事も出来ないほど詰められてしまった。
グェエエ
「よーし。魚おっさん改め、魚っさんを封印することに成功した。おめでとう」
セシルが拍手をすると、マーモやライライ達もパチパチと拍手をしながらヨトとユーナをジッと見る。
空気を読んだヨトとユーナも慌てて拍手をした。
『なぁ、あの生物が元気になったら自分の手で岩取れるんじゃないのか?』
『シッ、セシルさんが満足気なんだから言っちゃダメよ』
セシルは全員の拍手を見て満足気に頷くと、詰まってぐったりしたままの魚っさんを放置して朝ごはんにティタノボアのお肉を切り分けて渡し始めた。
『あっえーと、お兄ちゃんこういう時は「ありがとう」で合っているよね?』
「大丈夫だと思うぞ。……ありがとう」
「ありがとう」
「どういたしまして」
『はぁ~。こいつに普通に礼を言う事になるなんてなぁ~』
『私たちだけじゃ生きていけないんだから仕方ないでしょ。朝からこんな魔物出てくるような場所だよ? それより今日はティタノボアのお肉ちゃんと焼いて食べようね』
『しっかり焼くならもうちょっと薄く切らないと魔力が持たないんじゃないいか?』
『……アタシがお願いしてくる』
お肉を持ってセシルの前に立つと、貰ったお肉を薄くするように身振り手振りで伝える。
「あー薄くしたいの? ん~刃物は渡したくないし僕が切るしかないのか。いやでもなぁ毎回はめんどくさいよね。妹の方には渡すかな? マーモ、ライライ渡しても大丈夫だと思う?」
「ナー」ぴょんぴょん
「ほんとに伝わったのかな?」
セシルは悩むそぶりも無く元気に返事するマーモ達に苦笑しつつ、仕方なく剣鉈をユーナに渡した。
『え? いいの? あっ 「イイノ?」』
セシルは頷き、「でも」と言った後にヨトを指さし「ダメ」と言って×印を指で作った。
ユーナを指さした後、手で〇を作り再度ヨトを指さし×を作る。
×、〇といった表現は帝国も王国も変わらないようでしっかりと伝わったようだ。
『なんでだよっ!』
妹は良いのに、自分はダメと言われてヨトは憤慨する。
『それはそうでしょ。アタシに貸してくれたのもビックリなのに、すぐ殴りかかるお兄ちゃんに貸してくれる訳ないでしょ。余計な事言わないでよね。私も貸してもらえなくなっちゃうと困るのはお兄ちゃんもだよ?』
『……分かったよ。くそっ、分かったけど納得いかねぇ』
ヨトが妹に説教らしきことをされて不貞腐れている状況を見て、セシルは指をさしてニタニタするとマーモ達も指をさしてニタニタし始めた。
それを見てヨトが『コイツらっ』とカッとなった所をユーナが止める。
『お兄ちゃんっ!! いい加減にしてっ』
『うぉっ、わっ分かった。分かったからその鉈はゆっくりおろして』
その様子を見たセシル達がプークスクスと笑う。
『おいっ!! これは怒っていいだろっ』
『だめっ。きっと試されているんだよ! 我慢して』
『くそっ』
ヨトは手を震わせて我慢する。
「あーやっぱり揶揄いがいのある人がいると楽しいねぇ。マリー様の下位互換だ」
試すつもりなどなく普通に楽しんでいただけだった。
セシルはぷふふと笑いながら、いつものように蝋燭の火よりちょっと強いくらいの火魔法で肉をじわじわと炙っていく。
ヨトとユーナも自分の肉を薄く切ると、ティタノボアの皮の上に乗せて拳の半分ほどの火力の火魔法で炙って行く。あっという間に焼きあげ口に運ぶ。
それを見たセシルはグヌヌとなり頑張って火力を上げようとするが、やはり弱火しか出せない。久しぶりに感じた劣等感に下唇を出してしまうが、なるべくヨト達の方を見ない様にゆっくり炙っていく。
『おん? こいつ何で小さい火しか出さないんだ? ……そう言えば火力が弱くて国から捨てられたんだっけか? ガハハハッ』
ヨトは先程まで馬鹿にされていた分だけ上機嫌になる。
『ちょっとお兄ちゃん、いい加減にしてよ。怒らせたらアタシ達生きていけないのよ?』
『ハハッ、帝国語分からないから大丈夫だよ。まあ見てろって。――バーカ、チービ――ほらな。反応ないだろう?』
『バッカみたい。寝るところ貸してくれてご飯も分けてくれている人によくそんな事出来るよね。お兄ちゃんの存在が恥ずかしいよ』
『……それは言い過ぎだろぅ』
全員がしかめっ面をしたまま朝食を食べ終わる。
『ふぅ~……トイレ行きたいんだけどどうしたら良いんだ?』
『あのスライム連れて行けばいいんじゃない?』
『勝手に連れて行けばいいのか?』
『知らないよ。お兄ちゃんが聞きなよ』
『ユーナ聞いてくれよ。あっやべっ我慢できなくなってきた』
ヨトは仕方なく自分でセシルに話しかける。
「とっ、トイレ」
「ん。ライン、トイレよろしく」
ラインがヨトの近くにぴょんぴょんとやって来る。
魔物であるスライムが近くに来ることにまだ恐怖があり、1歩後退る。
するとラインも1歩近付く。
『ゆ、ユーナ、どうしたら良い?』
『トイレ行けばいいじゃない』
『いや、そう言われても。ユーナも着いてきてよ』
『トイレに!? え、嫌だよ』
『トイレする所を見とけって事じゃないから、ちょっ頼むよ。スライムとトイレに行ってどうしたらいいか分かんないんだよ』
『昨日お尻綺麗にしてもらったから分かるでしょ? あのスライムの上にトイレすれば食べてくれるのよ』
『……えっ? まさかこのスライムの上に直接ウンコするの?』
『そのまさかだよ』
『穴にやってその後スライムが掃除してくれるんじゃないのか?』
『……下に入って来るんだもん』
『まじかよ。ヤバイ。漏れそう……ぐっクソッやるしかっ』
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