第38話 セシルの成績
王の執務室に数人の男たちが集まっていた。
「セシルの成績はどうであった?」
ここには王の他に宰相と第二王子と宮廷魔術師のトップのタント=クインタ=アン=ソルセルリが同席している。
サラルスは公爵位で王族の親戚に当たる。家名は現王と同じクインタだ。
土地持ちの貴族は名前の最後に治めている土地の名前が付くが、土地を持たないサラルスは宮廷魔術師を現わすソルセルリと言う名が付く。
「正直……酷い物でした。学力は平民のトップ程度はありますが。下位貴族や豪商のクラスでは下位。高位貴族では言うまでも無く最下位です」
「学力は平民出身なのだ仕方なかろう」
「それは仰る通りなのですが、魔法もイマイチでして」
「魔法もか?」
「はい。斥力と引力の魔法が使えるのは間違いないようですが、どうも出力が弱いようで小石程度のサイズの水魔法を使っていました」
「ふむ。クリスタ、直接見てどうであった?」
「正直、期待していたのでガッカリしました。でも、ほとんど魔法を練習した事がないと言っておりました」
「そうか。トラウス辺境伯はなぜ練習をさせなかった? 報告は来ているか?」
「はい。生活魔法は2日程度で使えるようになったそうで『2日だと!?』」
静かに聞いていたタントが驚いて声を上げる。
「はい。報告にはそう書いてあります」
「まあとりあえず報告をちゃんと聞こうでは無いか」
「はっ。遮って申し訳ございません」
「では続けます。学院で魔法漬けになる事も考え今の内に元気な身体作りをした方が良いと剣術を優先したそうです。これだけの才能ならば学院に通ってからでも十分問題ないと判断したのも判断の1つのようです」
「はつはっはっ。トラウス辺境伯らしいな。タント魔術長、2日は異常か?」
「間違いなく異常かと。そんな短期間で生活魔法が使えるなど聞いた事がありません。報告を疑った方が現実的かと」
「しかし、辺境伯にそのような嘘を付くメリットがありません」
「それは……そうですね」
「大事なのはこれからの事であろう? 魔法の威力は上げられるか?」
「オルフ宰相閣下、魔力量はどうなのでしょうか?」
「それはかなり多いとの報告が届いております」
「でしたら、問題無いかと。魔力量がある人物が威力を上げる事で苦労しているなど聞いた事ないくらいです。『大声を出す』事くらいに簡単に出来る様な事なので、むしろ今威力が低いのが納得が出来ないのですが……」
「報告では魔力量が多すぎる為、魔力の大量使用に身体が耐えられない可能性があり、そのため身を守る安全装置のようなものが働いているのでは? と1つの可能性が書いてあります」
「なるほど。そういう事もあり得るのか……過去にそう言う事例を聞いた事は無いが」
「ふむ。そこはおいおいやっていくしか無いだろう。それにしてもクラス分けはどうする? 上級貴族のクラスに入れようかと思っていたが、学力は貴族に及ばず魔法はこれからだと言う」
「あの……」
クリスタが恐る恐る声を掛ける。
「ん?」
「発言をよろしいでしょうか?」
「なんだ申してみよ」
「父上、大変申し訳ございません。試験の際、セシルが『平民は教室が違う』と言われて教室の外に居たものですから『皆と一緒に授業を受ける事になる』と皆の前で言ってしまいました」
王が頭を押さえる。
「お触れの件と言い、皆なぜこうも気が早いのだ!?」
宰相は第二王子のミスのとばっちりで、パレードの件を責められてしまう。
「「もっ申し訳ございません」」
クリスタと宰相は頭を下げる。
8歳にしてこのような謝罪をするクリスタの受難たるやいかほどか。
そもそもセシルを貴族の教室で試験を受けさせたのが問題だろう。
「言ってしまったものは仕方ない。今年の上級貴族のクラスはいくつだ?」
「今年は1クラスとなっております」
「ならばクリスタと同じクラスにせい」
「ハッ畏まりました」
「クリスタよ。王族の言葉は容易に覆してはならんのだ。大勢の前で話す時は気を付けよ」
「はい。申し訳ございません」
「それと、座学は皆と一緒で良いとして――実技はセシル専門の教師として宮廷魔術師を1人付けた方が良かろう。才能を遊ばせる訳にはいくまい。タント魔術長、選任を頼む。将来的にセシルの師と呼ばれる可能性もあるから、人物選定は慎重にな」
「ハッ。畏まりました」
こうしてセシルの成績は王様まで届けられたのであった。
王様達が話し合ったその数日後、マリーの成績がマリーの父に伝わった。
内容は、筆記試験の成績が、中・上級貴族の中で断トツ最下位だったと言うものだった。
下級貴族と平民の混合クラスに入れた方が良いか? と学校側から打診があったが、マリーの父がそれを許さず上級貴族のクラスにそのまま入る事になった。
マリーはセシルのせいにしたが「なぜ試験中の平民の様子を知っている? 平民の解答用紙を覗こうとしたのか?」とさらに怒りを買うことになり、マリーは数日は座れないほどお尻を叩かれたのであった。
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