第153話 マリー様
ユーナはトイレという言葉が通じた事にホッとし、セシルとぴかぴか光るスライムに着いて行く。
「この部屋ね。ラインの上に出したらいいから」
トイレと思わしき場所は真ん中に長方形の窪みがあった。
セシルしか住む予定が無かったので扉は無い。
『この穴にすればいいのね。でも出した後はどこに捨てれば良いの? バケツも無いし……』
セシルにどう質問すればいいか悩んでいると、ぴかぴか光るスライムが長方形の窪みに入って行った。
『えっ?』
セシルはユーナの疑問を当然と思ったのか、服を着たままだがラインの上にトイレをする様子をみせてあげる。
『えっ!? どういうこと?』
しかしセシルのトイレのお手本を見た上で理解が出来ない。
スライムに直接用を足すなんて想像もした事が無かった。
セシルは戸惑うユーナを余所にトイレから出て行った。
自分が居たらトイレが出来ないだろうと言う配慮なので仕方がない。
『…………えー何これー……そう言えばお兄ちゃんのうんちも食べていたものね……』
ユーナは恐る恐るトイレの穴でピカピカ光るスライムを跨ぐ。
『ヒッ…………………………きっ緊張して出ないよぉ』
ユーナはお尻の下でウネウネと動くスライムに得体の知れない恐怖を覚えつつも、半べそをかきながら踏ん張り続けるのだった。
『――遅いな』
生焼けの蛇をグニグニと噛みながらユーナの帰りが遅い事を不審に思い、セシルの方を見る。
セシルは素知らぬ顔で焼けた蛇を美味しそうに食べていた。
『自分だけキッチリ焼いて旨そうに喰いやがって――そんな事よりユーナはまだなのかよ? まさか、あいつユーナに何かしてないだろうなっ?』
ヨトは急に不安に駆られ、慌ててトイレと思われる方に走っていく。
トイレからはぼんやりスライムが発している光が見えているので迷う事は無い。
もしかしてスライムに食べられているのでは? と想像し、ゾッと鳥肌が立つ。
『ユーナッ無事かっ!?』
『キャアアアアアアあっち行けえええええ』
ヨトが見たそれは、ユーナが力を振り絞りようやく身が出始めている所だった。
『すっすまんっ』
ヨトは慌てて元の場所に戻る。
『……えっ!? あいつスライムにうんちしてなかったか?』
ヨトの頭に先ほどの光景が浮かぶ。
『おえっ……やっちまったぜ。食事中に見ちゃったよ』
「ぷぷぷ」
セシルはその様子を見ながら何が起きたのかを想像し笑う。
(そう言えば、マリー様のトイレ騒動の時も楽しかったなぁ~。
懐かしいなぁ。……マーモ達もいるけどやっぱり話す相手がいないのは寂しいな。この人達もすぐ出ていくだろうしね。出て行けって言ったの僕だけど。とりあえず2人がここにいる間は家賃として揶揄って楽しませて貰おうかな)
ヨトとユーナの素知らぬ所ではた迷惑な決意をするセシルだった。
しばらくすると怒りと恥ずかしさも綯い交ぜにしたような複雑な顔をしたユーナが戻って来て食事を再開した。
お尻もラインがキッチリ掃除してくれているので手は汚れていない。
気まずい空気のまま、それぞれが無言でもにゅもにゅと蛇肉を食べ食事を終えた。
セシルだけはニタニタしていたが。
ラインもセシルの指示で高速で消化を終えて戻ってきていた。
薄っすら消化が終わってない気がするがあえて誰も何も言わない。
「さて、えっとユーナちゃん? こっちおいで」
セシルに手招きされたユーナが『え? 私?』と目を泳がせながら恐る恐るセシルに近付いていく。
ヨトも何事かと様子を見ているが、食事までさせてくれているセシルが何か悪い事をするようにも見えず、判断に困っているようだった。
「えっと、何?」
「口、開いて」
セシルがまた身振り手振りで伝える。
『えっと口を開けばいいのね?』
言われた通りに、あーと口を開く。
「そのまま」
そう言うと、セシルはユーナの背中に周り、開いた口をガッと手で抑える。
『アガッ!?』
ユーナはびっくりして目が見開く。
『おいっ!! 何してんだ!? ユーナを放せ!!』
ヨトが助けようとするがマーモとライアが立ちはだかる。
その隙にラインがユーナの口の中に触手を突っ込み、歯の掃除をする。
歯の掃除をしようとしているなんて想像も出来ていないユーナは口から入って来るスライムに恐怖を覚える。
『たったふふぇて』
助けを呼ぶ声もむなしく口の中を蹂躙されてしまう。
『アガッおえっ』
間もなくしてラインが口から離れ、セシルも口を抑えていた手を放した。
「ユーナに何した!!」
ユーナは四つん這いになり、おえおえ言いながら涙目だ。
そして少し呼吸が落ち着いた所でユーナが何かに気が付いたのか目がハッと見開く。
(このスライム……さっきアタシのウンチを……それが口に……)
『いっイヤァアアアアアアアアァァァァァァァァ』
『どっどうした!? 何があったんだ!? ユーナッ!!』
「歯」
「ハ?」
「歯、綺麗、綺麗」
歯を指さすセシルの動作を見てヨトは漸く歯を綺麗にしたのだと理解する。
『歯を綺麗にしたのか。だとしたら何でそんなに叫んでいるんだ?』
「うんち、ライン、口……ぶふっぶふふふっ」
「うんち、ライン? 口?」
ヨトはセシルの言いたいことに思い至る。
『あぁあああ! ぎゃーーはっはっはっ、ユーナ、うんち食べた直後のスライムに口綺麗にされたのか! ぶふーっ』」
『いやぁぁあああああああ。言わないで! いやああああああ』
「次、お前、ヨト、口、開けろ」
「……えっ?」
「ユーナちゃん、手伝って」
四つん這いで慟哭していたユーナがゆらっと立ち上がる。
『任せて』
『やめろっやめるんだ。ユーナは自分のウンチの後だから良いけど、俺はユーナのウンチの後だぞ!? この違い分かってるのかっ?』
『お兄ちゃん、言いたいのはそれだけ?』
『ちょっやめろっやめろおおおおおお』
ドッタンバッタン暴れるヨトを、ラインを覗く全員で押さえつけどうにかこうにか触手を突っ込み口の中を蹂躙し終えた。
ヨトとユーナは肉体と精神面の両方の疲れで地面に横たわっていた。
それを横目にセシルはラインの身体を針の様に細―くしてもらい口の中を綺麗にしていく。
『『……えっ!?』』
『お兄ちゃん、あのスライム、あんなに細く出来るの?』
『あれが出来るならうんちとかそこまで気にする必要無いんだが、何で俺たちの時は触手がっつり突っ込んで来たんだ?』
『セシルさん、こっちみてニヨニヨしているよ』
『……あいつ、やりやがったな』
だが泊めて貰う立場としては文句を言って機嫌を損ねることも出来ない。
明らかな上下関係が出来てしまっていた。
「よし、じゃあ寝ろ」
セシルは十分楽しんだので、2人が寝る部屋を指さす。
2人が部屋の中を覗くと、2メートル四方の何もない部屋だった。
ここはいざという時の為にセシルが逃げ込むつもりで作った部屋だ。
魔物が入りにくい様に入口だけ少し高くなっており、跨ぐように入らなければならない。
『ここで寝るのか。地面硬そうだな』
『寝られるかな』
『ん~なんか下に敷くものないか聞いてみるか』
「下、敷く」
「ない」
セシルはそう言い残すと去って行った。ラインだけ明かりの為に残っている。
『返事はやー。敷物ないみたいだ』
『床硬いし冷たいね』
『我慢するしかないか。明日下に敷く草でも集めるよう。今日は虫に刺されるよりましだと思おう』
『……そうね。思い出したら痒くなってきた。早く寝よっか。色々ありすぎて疲れちゃった』
2人が横になったのを見てラインが去って真っ暗になった。
『……おやすみ』
『おやすみ』
硬い地面にも関わらず2人はすぐ深い眠りに落ちた。
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