第47話 マリーとクリスタのお宅訪問
学院での初めての授業を終えて、そろそろ帰ろうかと思っていたセシルだがマリーが思い付きで提案してくる。
「セシル、あなたの従魔に興味があるのだけれど、今からあなたの家までお伺いしても良くて?」
「おや? それは私も興味がある。是非ご一緒させていただきたい」
マリーが声を掛けて来ると、追従するようにクリスタ第二王子が乗っかってきた。
クリスタは取り巻きが多い為、セシルに近づく機会が中々取れず、マリーに出遅れている事に若干焦っていた。
クリスタの周りに群がってる貴族たちは、お昼の予定が決まっていたのか、たまたま誰もいなくなったので、このチャンスを逃せないとやってきたのだ。
「お断りさせていただきます」
「「え?」」
第二王子と侯爵家の人間が、まさか悩みもせずに断られると思っていなかった為、二人はビックリして続きの言葉が出てこなかった。
セシルはライムとマーモの能力がバレるのを恐れて、思わず断ってしまったのだ。
そのまま2人を家に連れて帰ると、ライムとマーモが自由に剣の稽古をしたり魔法を使っていたりするかもしれないのだ。
しかし、二人の様子を見て対応を間違ったかもしれないと思ったセシルは慌てて言い訳をする。
「あっあの、お二人を招くような準備が出来ておりませんので……」
「そんな事は気にしなくても良い。なあ? マリー嬢」
「もちろんですわ。その様な事は気にする必要ございませんわ。さあ行きましょう」
「お昼は……?」
「いつもセシルが食べているもので良いわ」
「ああ。私もそれで良い」
2人は上位の人間による突然の訪問が、どれほど下位の者に負担を与えるのかあまり理解していない。
初日の授業だった事もあり、授業が終わる時間に合わせて侍女達が迎えに来ていた為、それぞれにセシルの家に寄る事を連絡する。
「イルネ! クリスタ様とマリー様が家に来るって!」
「えっ!? それはまずいですね。まだお茶会に出すようなお菓子準備出来ていませんよ。お昼ご飯もどうなさるのです?」
「お昼ご飯は僕たちがいつも食べているもので、お菓子みたいなおもてなしは必要ないって2人とも言っているけど……」
「本人はそう言っていても用意しないといけないのですよ。貴族はめんどくさいのです。お昼も私たちの分しか作っていませんでしたよ。あぁ~。どうしましょう」
「とりあえずライムとマーモが何かやってないか先に見に行ってもらえる?」
「そうですね。2匹の能力を見られるのが一番まずいですからね。お昼はサっと何か炒めるとして、おもてなしは高級茶葉を使った紅茶を出せば良いですね。引っ越しの時にマルトが準備してくれていましたから。全体的な不備は『平民だし』で、納得してもらいましょう」
『平民だし』で誤魔化そうとしているのをサルエルにもし見られでもしたら、イルネは侍女を首になりかねないが、幸い見られていない。
イルネはサルエルから解放されているのである。
ちなみにクリスタとマリーはそれぞれの侍女に「今回は仕方がないが、突然行ったら先方に迷惑をかけるから事前に知らせないとダメだ」と諭されていた。
学院に付いてくる侍女はただのお手伝いではなく、キチンと指導も出来る者が選ばれている事が多い。
イルネが先に家に戻り、クリスタとマリーそしてそれぞれの侍女1人ずつがセシルと一緒にゆっくりと家に向かった。
「近くで見ると中々大きいわね。クリスタ様の部屋より大きいって問題あるのではないかしら?」
マリーの指摘にセシルは困った顔をする。
「それは国王である父上が決めたことだからね。誰も文句は言えないさ」
「ゴライアスは何だかんだと、いちゃもんを付けると思いますけれども」
「「……」」
セシルは想像して憂鬱な顔をし、クリスタはどうしたものかと溜息を付く。
「彼は一度しっかり話をする必要があるね」
第二王子が動くと余計やっかみを受けそうだとセシルは思ったが、当然口にすることはできない。
玄関に着くと「少しお待ちください」と言って中を確認する。
イルネがパタパタと走ってきて、肩で息をしながら「大丈夫です」とオッケーを出したので、2人とその使用人も一緒に招き入れる。
クリスタの侍女であるキリエッタとマリーの侍女であるカイネが、イルネに謝罪する。
「本日は急な来訪、大変申し訳ございません。我が主、クリスタの幼さからくる『無知』故の行動でございます。しっかり言い聞かせますので、今回はご容赦をば」
「いえ、それを言うならば我が主、マリーが言いだしたことでございます。セシル様、イルネ様の予定も鑑みず、大変申し訳ございません。爵位が上の者が言い出したら断ることが難しい為、言動に気を付けるようにと日々申し付けておるのですが、この有様でございます。後でしっかり言い聞かせますので、この度は何卒ご容赦を」
キリエッタとカイネがクリスタとマリーに見せつけるように頭を90度に下げて、セシルとイルネに謝罪する。
クリスタは自分のミスで従者に謝罪をさせてしまった事を反省するが、マリーは納得が行かず反論する。
「上の者が言い出したら断れないって言うけどね、セシルは最初断ったわよ! だから断れないって言うのは嘘ね!」
マリーは言ってやった! と、ドヤッと腕を組んで胸をそらす。
「まあ! 一度断られたのに無理やり押し切ったのですか!? それこそ大問題ではありませんか!? お嬢様がそこまで恥知らずだとは……」
グッと声を鳴らしてマリーは黙ってしまう。
クリスタは会話を思い返し、断られたのに押し切ったのは自分であると気付き、脇汗を流す。マリーを追い詰めるはずのカイネの言葉のパンチは、知らず知らずにクリスタを殴ってしまっていた。
マリーは「いや、それは……」と反論しようとしたが、第二王子のせいにするわけには行かず口を噤む。
「いえ、セシル様がこの様に高貴なご学友を連れて来た事が何より嬉しゅうございます。お気になさらないでくださいませ」
イルネはサルエルの指導でそれっぽい事も言えるようになっている。
居心地の悪くなったマリーは話を逸らす事にした。
「従魔は何処にいるのかしら?」
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