第128話 ドイツ人傭兵
128 ドイツ人傭兵
「バルクホルン隊長!」
「どうした、ハンス」
「我々はドイツ人なのに、こんなところで戦闘を行っていてよいのでしょうか」
「問題ない、祖国はヒトラーの手にある、そこで我々が勝利をえたとしても、人々が不幸になるしかないのだ」
「ですが、ここは東洋の領域です」
「我が祖国の領土をこちらで確保し、仲間たちを受け入れる準備をするしかないのだ」
彼等は、ドイツ人傭兵である。
ハインケル社の移動に紛れて、バルクホルンとハンスはこちらに遣ってきた。
そもそも、こちらには、あのマンフレート・リヒトホーフェン氏の子孫がおり、飛行学校を開設しているというのでいてもたってもいられずについてきたのである。
ドイツ軍のパイロットたちの神、英雄とはマンフレートのことであり、そのご本尊の子孫(実際はそのまま実物)がいると言いうことは、一度は詣でる必要のある場所ということになるのだ。
彼等は、航空学校でその指導を受けて、開花した人間である。
その腕前を見込まれて、ミッドウェー島の防空部隊『ヒュッケバイン』を率いることになったという訳だ。
マンフレートの弟のロタールの子供がバルクホルンの部隊にいる。
彼は、日本人とのハーフである。
そして、教祖の息子なる人物もそこにいたのだ。
ロタールの息子がロッドマン・リヒトホーフェンである。
教祖の息子は、リュート・サクヤという。
ロッドマンは秀才である。
しかし、リュートは化け物であった。
非常に美しい顔立ちでとても見ていて心が安らぐ。
しかし、表情はない。
美しい人形のようにそこにいるだけである。
だが、一度飛び立てば、どのようにしても撃ち落とすことができない飛行を苦も無く行う化けものであった。
人間には重力に対する限界が存在する。
しかし、彼に関してはそれは無効のようだった。
極大の重力の中でも全く問題なく操作可能であった。
戦闘機が先に壊れるのだった。
「ヒュッケバイン発進する」
濃紺に塗装された、ヒュッケバインが、滑走路を走る。
アスファルト舗装された滑走路、ドンドン加速していく。
そして、舞い上がっていく。
88の数字が先に見える。
ミグ21に似た戦闘機が発進していく。
翼下には、5インチロケット弾、胴体には30mm機関砲4門、翼には12.7mm機銃2門を搭載した、ジェット戦闘機であった。
「スカイレーダーからヒュッケバイン、方位042へ迎え」
この基地には、航空管制機が配置されており、その機が、敵機の方位を指示してくれるのだ。
「ヒュッケバイン了解、感謝する」
バルクホルンは人格者である。
B25爆撃機部隊は、闇の中を低空で飛んでいた。
非常に困難を伴う飛行である。
闇の中では、海面と空の境界がはっきりせず。空間認識が難しい。
それでも、レーダーにひっかからず飛ぶには、低空侵入しかないのだ。
敵潜水艦からの情報が無ければ彼らは見つからなかったかもしれない。
だが、初めから見つかっていたのは非常に残念な結果であった。
B25をサンフランシスコで載せれば、うまくやり過ごせたのかもしれない。
そもそも、ミッドウェー島の周囲では常に、玄武の航空哨戒型が旋回しおりそのレーダー網を搔い潜ることは不可能に近かった。
発見時間が早いか遅いかの問題である。
基地防空隊のバルクホルンがすでに迫っていた。
第88戦闘航空団(JG88)はロシア国内でも最先端の部隊である。
ハインケルのジェット機を改良して完成されたジェット戦闘機である。
配備は最近で訓練はまだ行き届いていない。
しかし、パイロットは皆凄腕というなんとも言い難い部隊であった。
「敵機を発見した。皆後ろに回り込め、くれぐれも、機銃の射定には入るな」
バルクホルンの指令は明確だった。
機銃の射程外からのロケット砲攻撃、その後機関砲で撃墜するつもりだった。
36機のヒュッケバインが瞬く間に、B25の後方に陣取る。
B25からは機銃が発射されるが射程外であった。
「発射!」ヒュッケバインの翼下の6発のロケットに火がともる。
高速で飛行するロケット。
B25、16機をロケットの爆発の炎が包む。
爆発と金属片がB25を襲った。
「なんだ!どうした!」
ドウリットル隊長の機も破片を散々に浴びた。
コックピットの人間で無傷の者はいなかった。
風防が破壊され、空気が髪を揺らす。
「こんな馬鹿なことがあってたまるか!俺は、ミッドウェー島を破壊して英雄になるんだぞ」
彼の夢想を吹き飛ばすように、ヒュッケバインが突っ込んでくる。30mm機関砲の威力絶大で、アッという間に彼のB25が穴だらけになった。
リュート・サクヤは今日も無常に30mm弾を叩き込む。
その弾は外れることは無いかのように、B25に穴が開く。
ドウリットルの機が炎に包まれて落下しながら爆発した。
こうして、彼の野望は潰えたのである。
リュートの飛行は皆の心を砕く。
バルクホルンは、彼の戦闘軌道を部下には見せないように腐心している。
直感でわかるのだ、あれは普通の人間ではないと。
彼のありえない空戦軌道を見てしまうとあらゆるパイロットが自信喪失してしまう。
銃弾の自由落下すら計算された射撃とでもいえばいいのだろうか。
通常の人間では不可能なほど冷静にあらゆるものを計算し射撃しているが、その速度も尋常ではない。
迎撃部隊、ヒュッケバインはこうしてB25を全機たやすく撃墜した。
昭和のドウリットルは戦後日本から勲章を受けているがそれはかなわなかった。
そして、民間人の大量虐殺者として汚名を切ることもなかった。
『戦略爆撃』を考案する前に死亡したからであった。
だが、その彼の思想は受け継がれる、戦略爆撃を実際に実行する戦略家が後に現れることになるからである。
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