第156話 ワルキューレの横顔

156 ワルキューレの横顔


オアフ島真珠湾は、同盟艦隊の母港の一つであるが、基幹航空基地はハワイ島に存在する。

それは、巨大な滑走路と掩体壕が複数存在する巨大基地である。

ハワイ島のマウナロア山、マウナケア山の山頂には、防空レーダーや水平線レーダーなどが配備され、敵航空機や敵艦船に対して十分な警戒を行っていた。

周辺海域には、哨戒艇や漁船なども配置されている。


オアフ島の人々は、もう一度米国に占領されれば、自分たちが米兵を殺した犯罪者として逮捕・処刑されるであろうため、死兵となって戦うことを決意させられていた。


ハワイ島には、同盟軍の人間が多数住まいしている。

彼等は、航空基地勤務の人間である。


米国も当初、この島に、機動部隊による攻撃を加えようとしたが、あまりにも厳重であったため、本国日本を叩き、ハワイへの物資輸送を妨害する計画に変更した経緯が存在する。


その初戦が、本土爆撃であったのだが、そこで手痛い反撃を食らい空母2隻を喪失し、膠着状態に陥ったのである。


そして、神聖月読皇国の報復宣言が発せられたという状態にあった。


その航空基地に動きがあった。

西方に黒い点がいくつも現れる。

味方航空機が、空を渡ってやってきたのである。


複数ある滑走路の中でも最大の滑走路にそれは着陸していく。

4発の大型爆撃機である。嘗て爆撃機は、『青龍』と呼称された水上爆撃機『玄武』を陸上機化したものが使われていたが、これは明らかに姿、形が違った。


満州では新型航空機の開発が進められていた。

その間、実質的にソビエトが崩壊しつつあった中で、新ロシア軍特殊部隊は『ペーパークリップ』作戦を展開し、ソビエト内の収監されていた技術者達を脱獄させることに成功していた。


その技術者たちもが、開発に関わり、この新型の戦略爆撃機が完成されたのである。

この爆撃機の図面を引いた人間に因み『ツポレフB1』と名付けられる。

それは、まるでのツポレフ95を再現したかのような形状であった。

確かに、二重反転プロペラもつかわれエンジンもターボプロップエンジンを採用していた。

そして、ウィングレットと簡易ロケットモーターなどが付加されている。


そのツポレフB1が次々と着陸していく。総数20機。

これが、初めて製造されたロットである。

実戦で運用しながら、次期以降のロットに修正を加えていくことになっていた。

パイロットたちは、青龍爆撃機部隊の精鋭から抽出されている。


彼等は常に最前線で戦闘を経験してきた猛者たちである。

ソビエト工業地帯の爆撃やオーストラリアの各都市の爆撃などを経験してきたベテランばかりである。


大日本帝国では戦争が終わったが、彼らはまるで戦うことを止めなかった。


このツポレフB1の航続距離は14,000Kmであり、ハワイ島から米国西海岸を爆撃して十分帰ってくることが出来る性能をもっていた。

ハワイ島からサンフランシスコまでは4000Kmほどの距離である。

そして、ロサンゼルス、サンディエゴ、ブレマートンもほぼ変わらい距離であり、爆撃圏内である。

米国西海岸にある基地のほぼ全域を爆撃範囲としてカバーできる性能をもっていることになる。


米国情報部、サンフランシスコ基地ハンターズ・ポイントに所属していたレイトン少佐は初めて出てきた符号を解析していた。

『TUB1』なる符号がやたらと、ハワイ島基地との通信で出てきていた。

明らかに、今までとは違う動きである。


彼はそれが、新型の局地戦闘機か何かであろうと考えた。ハワイ島は航空基地である。

まさかそのTUB1が米国本土を爆撃できるなどとは考えるはずもなかった。

それは米国のB29爆撃機でも不可能な技である。


日本の猿ごときがまさかそのような技術をもっているはずがないのだ。


よって、西海岸に爆撃を警戒するように進言することも無かった。

しかし、敵の新型航空機がハワイ島に配備されているようであることは、ニミッツに伝えたのである。


確かに新型戦闘機が配備されていた。

ジェットエンジンを2機備えた新型戦闘機である。

それは、まるでのF5E(タイガー2) を再現したかのような形状であった。

そして垂直尾翼には、ユニコーンの絵面ではなく、女性戦士の横顔が描かれている。

塗装はマットブラックであった。


何故このような絵面なのか、そう彼女は、英雄(エインヘリヤル)を天国へと誘う役割を持つワルキューレなのである。


その戦闘機はハインケル『タイガー』戦闘機と呼ばれていたが、そのタイガーが20機配備されたのである。ハインケルではティーガーと呼称されている。

此方の符号は『TG』である。

彼のレイトン少佐はこれにはあまり注目していなかったようだ。


しかしその戦闘機隊にこそ、神聖皇国最恐のパイロットたちが集められていた。

ミグ21から、乗り替わっただけだが。


彼等は針の穴を通すような難しい飛行すらやってのける、優れたパイロットたちである。

ドイツ人傭兵と神教親衛隊により構成されていた。

しかし、ドイツにはヒトラーが倒されそうな気配はまるでなかった。


ヒトラーのドイツ軍は、連戦連勝で破竹の勢いであった。

スターリングラード攻防戦で勝ちを納め、ウラル山脈から西方域を占領した。

スターリンは、ウラル山脈に籠って、防戦しているという。

一方西部戦線でも、英国を追い落とし、英国政府はやむなく、アイスランド迄後退せざる得なかった。

アフリカ戦線は、拡大しなかったので、ヨーロッパのほとんどを制圧したといっても過言ではない。


アフリカ戦線が拡大しなかった理由とは、モルトケの再来こと、エルンスト・ウーデッド上級大将が、枢軸同盟のイタリアに対し、アフリカ出兵し、危機に陥っても、決して助けに行かないと、ヒトラーに進言し、ヒトラー厳しい注文がムッソリーニに入ったおかげである。


そして、ドイツ軍は、イギリス本土攻略後にアフリカに侵出する計画をもっていたのである。




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