第2話 虎穴
002 虎穴
<歴史は変えられませんが、作ることはできるのです>
どうもよくわからない、私の頭が悪いのかもしれない。
何しろ、かなり長く生きてきたからである。
ひょっとしたら、知らぬ間に痴呆が入っているのかもしれない。
<あなたは、結構、戦艦が好きですよね>
思わぬ問掛けである。
思想信条の自由は憲法で保障されているはず。
因みに、私は、武器が好きなのだが、詳しいわけではない。
「それがどうかしましたか」
<好きなだけ作ってかまいません>
「そうですか、でもあれって国家予算、つまり国防費なのでしょう?大変なお金がかかりますよ」
<日本人の信仰を守るためです>
国債で作ると、国の借金がかさみ、紙幣の価値が下がり、インフレが起こるのだ。
戦艦ともなるととてつもない価格であり、大量の国債を発行せねばならない。
どうも、話的には、戦争に勝って自分たちの信仰を盛り上げて尚且つ相手国にもそれを広めようとしているのかもしれない。そして、勝てば、相手国から莫大な補償金をせしめようとしているのではないだろうか。
<新しい歴史を打ち立てるのです>
「神の加護を得られるということですか?」
<表立っては動けません、その世界にも、彼らはいます>
某十字架の神であろうか。
<あなたには、知識がある。それをうまく使うのです>
「さすがに、それだけでは難しいのでは?」
<大丈夫です。密かに援護します。>
影ながら、支援し、世界の歴史に変更を加えようと暗躍するつもりらしい。
並行世界(パラレルワールド)で日本勝利の歴史を作り出せということなのか。
「また多くの人間が死ぬことになりますが、今度こそ地獄行き確定な気がしますが・・・」
<席を用意しましょう。あなたも一柱になればよいのです。もともと、半神まで行かれたかたなのです。もう一押しで、神になれるでしょう。力を授けてくれるように、
何とも、また面倒な策謀に巻き込まれてしまったようだ。
もともとがそのような体質なのだろうか。
異世界召喚でそのような体質になってしまったのか。
どのみち、このような陰謀に巻き込まれた場合の対処法は、ほぼない。
1 とにかく加担しないと殺される。
2 加担しても、失敗すれば殺される。
3 加担して、成功しても、下手を打つと殺される。
この三択の一つしかないようなものだ。相手は自分の計画の一端を開示しているため、何としても口封じに走ることは明らかだった。
座卓には、湯下が立ち昇る湯のみが置かれている。
しかし、返事次第では、ここで消されると思うとなんともほろ苦い。
一口、茶を啜る。
「ところで、戦いに赴くとして、兵法書などを与えていただいたりできないのでしょうか」
そのような天女が、中国にはいた。なにか、天才的な閃きがもらえるようなものが欲しかった。つまり、どうせ死地にいるわけであるから、できるだけ援助を得ようとしたのである。
<そうですね、私はそのような女神ではないのです、ですから、私が授けられるものとしては、植物を成長させる力などですかね>
なるほど、その美しさから推測するとおそらくあの女神なのか?
「それでは、有難く頂戴します。それと、あれですよね、たしか、育ての親に贈ったという薬ですかね」
<よくご存じですね。わかりましたあの薬を授けましょう。しかし決して不死ではないので間違いなきようにお願いします。死んだものを生き返らせるていどにしか効きません>
「ありがとう存じます。それと、神木の枝でもいただければ幸いです」
<授けましょう>
<お分かりと思いますが、日本では、魔法スキルはほぼ使えません。あなたの武術の才能は失われませんが、十分にお気をつけてください>
つまり、殺されたりしても知らないということである。ついでにいうと、お分かりではない。
「承知しました。身命を掛けて暴れてごらんになりましょう」
<その意気や良しですね>女神がほほ笑んだ。
勿論口元をほころばせたのが見えただけである。
恐らく、人間の私が見てしまうと、役に立たなくなるために顔を見せないのであろう。
それが、神性というものなのである。
そして、違う意見を出せば、女神が顔見世してアッと言う間にいうことを聞かせるくらいの美しさはもっている。人間では、耐性がないためほぼ対抗することはできないであろう。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。
まさに、虎穴に叩き込まれたとみて間違いない。
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