第3話 降下

003 降下


流石に、なんでも入れられる無限インベントリのスキルは無効化されているらしいので、魔法の巾着が用意される。いざというときの備えは、ここに入れておくらしい。

無限インベントリさえあれば、無数の武器を入れておいて、戦国自衛隊のような活躍ができるというのに。


魔法スキルは無効であっても、魔法の道具は機能を失わないとは、流石は神である。

流石に、太平洋戦争で、魔法による艦隊殲滅を行っては、興ざめも甚だしいための措置なのであろうか。


どう見ても、なんだかんだといいつつ、人間を暇つぶしの道具程度にしか思っていないのだろうか。人間たちの悲喜劇を眺めて楽しむのが彼らの娯楽だ。


基本、暇なので、楽しい何か(人間にとってはとてつもない悲劇であることもある)が起こる事が大好きな種族なのである。


しかし、彼らにとっては、陣地とりのシミュレーションゲームであっても、実際に戦っている盤上では、多くの人間が飛び散り、燃え尽きて死んでいくのである。

だが、有象無象がどのようなことになろうと神には関係ない。それは彼らが神であり、人間は所詮、虫けらも同じであるため何も感じることなど無い。

そういう生物?なのだから仕方がない。人間が蚊を叩き殺すことに痛痒を感じないのと同じである。


だが、私はその盤上へと自ら乗り出すのだ。

地獄行きよりも、一柱の席の方が良いのは間違いない。

苦しむよりも、神の座に座る方がはるかに楽だろう。たとえそれが末席であろうとも。


神は約束を守るだろうか。それが問題だ。


「ところで、山本五十六提督に乗り移るとか取り憑くとかは、駄目なんですよね」

<それでは、明らかにこちらの手出しを発見させることになるので、無理ですね>


なるほど、ひっそりと爆弾を紛れ込ますというのが、テロのセオリーということだろう。

はじめは、わからないうちに、そして気づけばすべてがひっくり返っているというのがベストなのだろう。このひっそりと、というのも彼らの遊び心なのであろう。


相手の神の驚く顔を見てみたいに違いない。というか、驚かせて楽しむための遊びなのである。


さしずめ私は、破壊工作員というところだろうか。


<方法は任せます>

流石に、女神はそちら方面には、知識がないのだろう。

しかし、私はそれを『全権委任』として承知する。


神の名のもとにすべてを執行する!

私こそが『神の使徒』ということだ!


そして、なんらかの事態が露見した場合は、神の命により行動していたことを自白するのである。


既に、ここで大いなる齟齬が発生しているのだが、女神は気づいていなかった。

女神がそれにきづいたとしても気にしないかもしれないが。



こうして、神の執行者(テロリスト)は、異世界『日本』への降下準備を整えていく。


魔法の巾着には、必要最低限の物が入れられているが、無限インベントリよりも数十段劣っていることが残念だ。


機甲魔導甲冑を大量に仕込んでおけば、敵国にばらまくだけで決着するものを。

しかし、これも艦隊決戦を見物するための方便として、禁じられたのであろう。


それでも、各種植物の種と一応の武器(安綱)、それに例の薬などが入れられている。

スキル『女神(○○〇〇〇比売)の加護』は、あらゆる植物の成長を促進できるらしい。

どうやら、私は、農業で資金を稼ぎださねばならないようだ。


まあ、反則級の例の薬(不死常備薬)は、とてつもない価値があるので良いだろう。

しかし、数は、決められている。数は10である。


その昔、女神が育ての親に贈ったという『不死の薬』である。

死んだ人間を生き返らせることが可能らしい。


凄いな!しかし、私が死んだら誰かかけてくれるのだろうか。

それが若干心配になったりする。


因みに巾着は、私以外がつかっても普通の袋としか認識できない、防犯対策が施されている。


「降下準備よし!」

テロリストがついに、降下準備を整えた瞬間である。


「では、征きなさい!」女神が敬礼をする。

「行ってまいります!」私は敬礼を返す。


一体どのような苦難が待っているのだろう。

できるだけ、楽がしたい。

いい生活したい。ああ、もうこんなの辞めたい。

だが決してそのようなことは言わない。いえば再教育に送られるかもしれない。


恐らく、女神は、その事を感じ取っているだろう。

しかし、彼女とて上からの指令により動いているのであろう。

個人の感情など押し殺して仕事をこなす。

それが組織に属した者の道理なのである。


こうして、私は、黒い穴のような空間へと飛び込んだのである。

「降下!」

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