第4話 父母

004 父母


幸いにして私は、人間として生まれた。

最悪の場合、人間以外のものとして生まれ変わったらどうしようと考えていたが、流石にそれはなかった。


それと、いきなり、成人として召喚的に現れることもなかった。

いきなり、成人として出現すると、戸籍がないため色々と問題が発生するのだろうか。

まあ、いきなり大戦中に降下したとして、何者かに取り憑けないのだから、前線で一般兵として戦って死ぬだけだ。


戦争には準備が必要だ。

某戦国シミュレーションゲームでは、兎にも角にも開墾から始めるのである。

まあ、今回は、庶民故、金儲けから始めなければならない。

某成り上がりシミュレーションの方だと考えた方が良いだろうか。


それにしても、ここはどこだろうか。

綿密な打ち合わせをしてから出撃したかったが、それは時間的にもかなわなかった。


プロフィールでは以下の通りとなっている。

1889年〈22年〉9月9日9分9秒、宮城県仙台市に生まれる。

名前は 咲夜 玄兎(さくや げんと)

咲夜家は、仙台藩士の家柄の武家である。

玄兎は、その長男として出生した。


というバックボーンが用意されていた。

父も母もこの時代の日本人にしては、非常に美しい人が用意されている。

しかし、両親とも明らかに、普通ではない。

私はすでに意識をもっていたが、彼らは、私を見ているばかりだ。

普通の親のように、「玄兎ちゃん」などとは呼びかけてこない。

待っているのである。


父、咲夜 弦月(さくや げんげつ)

母、咲夜 桜(さくや さくら)


便宜上彼らは私の両親という設定になっているが、彼らは、私を見ているだけである。

それは、侍従や侍女が主人を待っているというような感じに似ていた。


つまり、彼らは、私の手足となって働いてくれるということなのだろうか。


一月も過ぎると、ようやくわかった。

彼らは、やはり私の世話係である。

流石に赤子ではどうしようもないので、腹が減ると泣いてみた。

すると、美しい母親が乳を飲ませてくれた。

しかし、父親は働きに行く素振りを見せない。


二月経つも、父親は働きに行かなかった。しかも彼らは、自分たちのごはんすら食べない。

一体どうしたのだろう。


私は、子供ながらに心配になってきた。

赤子の私は、ほぼ眠っている。しかし、彼らは、私のそばから離れることはない。

ずっと見ているのである。少し怖い。

女神は一体、どうしてこのような人間?を送りつけてきたのだろうか。

その後しばらくして私は気づいたのだが、彼らは寝ない。


何ということだろう。

食べない眠らない人間がこの世に存在するとは!

私は、驚きと恐怖に包まれながら、彼らとともに、私だけが眠るのであった。


三月も経つと、私は立ち上がり、声を発するできるほど成長した。

まるでタケノコのように急速に育ったのだ。

「お父さん、お母さん」と呼びかける。

「玄兎様」両親が、跪く。

「普通にしてください」

「わかりました、玄兎様」

全くわかっていなかった。


「お父さんは、働きにいっていないようですが、この家はどのようにして成り立っているのですか」これは、生まれた当初から感じていた疑問である。

秩禄公債ちつろくこうさいによる収入により生活できております」

「じゃあ、なぜごはんを食べないのですか?」

「食べた方がよろしいですか?」

「死なないんですか」

「はい、食べなくても死にません」父親はそう簡単に言ってのけたのである。

「人間ですよね」

「・・・多分」私の問いに対する父親の返事は自信なさげであった。


どうやら違うのかもしれない。

まあ、私自身が人間なのかどうか不明である。

何せ、『神の使徒』だからな。


「さすがに、食べても大丈夫なのでしょう?」

「ええ、それは多分大丈夫だと思います」子の問いに父が答える。

多分らしい。


こうして、その夜から普通の食事が出るようになったのである。

私は、生まれてから三か月で普通の食事を食べることになった。


そして、父母も三か月で初めて食事をして見せた。

どうやら人間の真似もできるようだ。

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