第5話 木こり

005 木こり


朝、初めて家を出る。

両親がうしろからついてくる。


割と大きめの家で、周囲は竹林に囲まれている。

周囲には、民家がちらほら見えるが、家ほど立派ではない。

この家は金持ちの部類に入るのだろうか。


「父さん、因みに、家には山や畑はないのでしょうか」

「ええ、ありません。我が咲夜家は代々武士の家系ですので、そのような田畑はもっておりません」

「武士の家系なのですか」

「その通りです。さかのぼれば、清和天皇の流れを汲む武士となっております」

「本当なのですか?」

そもそも、咲夜氏などという姓は聞いたことが無い。

「そのようになっております」父は自信ありげにそういった。

多分そういう設定なのであろう。


そもそも、ご飯も食べない人間が、武士の家系などといってもとても信用できないし、そんなことはどうでもよいことだった。


「設定は分かりました、しかし、私はごはんが食べたいのです。田畑を購入するなり、貸してもらったりしていただきたいのです」

「承知しました、そのように取り計らいましょう」父親が恭しく頭を下げる。

「私はどのようにいたしましょうか」美人のお母さんが聞いてくる。

赤子に聞かないでほしい。


「そうですね、何か手仕事はできないのでしょうか」

「さあ、どうでしょう」顔をかしげる姿はとても美しい。

「とにかく、お金儲けがしたいのですが、いくらほどお金はありますか?」

生まれて3か月で金の無心をするのもどうかと思うが、戦とは金の戦いでもある。


一時、はやったスマホゲームでは、課金勢の容赦ない実弾攻勢に苦い思い出しか浮かばない。

敵性国、米国はまさに重課金勢の筆頭のような国なのである。


「支度金として、1万円が支給されています」

「なるほど、食うには困らないということですね。ああそうか、母さんたちは食べなくても死なないんでしたよね。これからは、食べないでいただけたらそれをすべて使えますよね」


彼らは、どういう訳かご飯を食べなくてもいきられるのだ。

俺が食べたいといって食べ始めてから、真似をしてたべるようになったのだ。

ご飯を食べない家族だと、妙な勘ぐりが発生してもおかしくない。

用心のためにそういったが、資金の金額をきいてもっと欲しいとおもったのだ。


このころの感覚だと、一万円は、現代の1000万円程度に相当すると考えられる。

(今後このレートで計算してきます。1000倍です)


すると、お母さんはすごくびっくりした表情をしていた。

父親も顔を伏せた。


ひょっとすると、食事を楽しみにしていたのだろうか。

生まれたころは、食べてなかったじゃないか!


「ひょっとして、食べたいのですか」とても冷酷な質問に聞こえるかもしれないが、彼らは食べなくても死なないのだ。そもそも食べていなかったし。

「・・・ええ」か細い声で答える母がいじらしい。


「わかりました、今までどおり、人間のふりをするためにご飯を食べてください」

そんな縋るような表情をしないでくれ。私が極悪人のように感じてしまうではないか。


「ありがとうございます」

夫婦が二人で私を拝んでくる。やめなさい。


「まあ、あなたたちが食べる程度の金額くらいならすぐに稼げるでしょう」

「そうなのですか、流石です」父親が執事のように聞いてくる。

あなたは、きっとなにも考えていないのですね。


「さあ、そのためにも、早く山を借りてきてください」

「玄兎様、先ほどは田畑といわれておりましたが、いつ山にかわったのでしょうか」

「田畑は、食料を中心に栽培しようと考えていましたが、金儲けの算段を思いつきました。山も必要です」

「わかりました、では早速行ってまいります。しかし、借り賃は必要になるでしょう」

「できるだけ早く、安く、広くお願いしますよ」

「わかりました、予算はどのように」

「そうですね、年1000円程度ですかね」

「わかりました」

1000円の価値は、現代の100万円である。

農業で儲けを出すのは、尋常ではない努力が必要である。

しかし、それは大丈夫である。

私には、神より与えられた、スキル『植物を成長させる力』(〇〇女神の加護の事)がある。


翌日、父親は、田畑や山を借りに行ってくれた。

すでに、季節は冬である。

秋に生まれたので、冬が来ていた。

田んぼは、高かったが借りられた。

畑はそこそこの金額がかかった。

山は、ほぼタダだった。

その代わり、山奥である。


冬に作物ができても困るのだが、怪しまれない植物の種を蒔く。

小麦だ、少し遅いが、早く成長すれば問題ない。

父親が私を背負子に座らせ、私はそこから種をまく。

(背負子とは、木で作られた薪などを積んで担ぐ道具である、某アニメでスイスおじーさんが娘を背負っていたものと同様のものである)


小麦は、収穫期が台風シーズンになるらしく、本土では栽培に向かないらしいが、早く育てばよいので問題ない。


何故私は背負われているのか?

私は、まだ生後三か月なのだ、歩き回るにはまだ早いのだ。

楽をしたいわけではない。


そして、次の日は、山奥に向かう。

父は、文句も言わず山奥に向かう。

タダ同然で貸してくれる山は、かなり山奥だ。

村落に近い山は、共有地となっており、収穫物等の栽培は難しいのだ。

このころは、薪もこれらの山からとられるので権利関係は結構難しい。


「玄兎様、この山だと思われます」

目の前には、山ではなく森が広がっている。

木が生い茂り、山の上の方が見えない。

「そうか、まあ、ここまでくれば人の眼を心配することもない」

獣道のような道を延々と歩いて来た結果、勿論誰も近くにいることはない。


「さあ、クヌギを切りなさい」

「私がでしょうか」と父。

まさか、生後三か月の私にそのような重労働をさせる気なのか!


「勿論です、そのために斧も用意されているのです」

無限ではなくなったが、『アイテムボックス』から斧を取り出す。

巾着はアイテムボックスの中に仕舞われていた。

打ち合わせと齟齬があるが、『アイテムボックス』の方が遥かに使いやすいので問題ない。


コンコンと斧の音が響く。

雪がチラチラと舞いはじめる。

流石に、寒くなってきたな。




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