第6話 『機関』

006 『機関』


12月中に木の切り倒しが終わり、適当な長さにきりそろえていく。

父はなかなかに優秀だった。


「この木は一体なんでしょうか」

榾木ほだぎですよ」

「ほだぎ?」

「椎茸栽培をするための種木です」

「そうなんですか」

「そうなんです」


だが、てきとうな長さに切っただけではだめなのだ。

菌糸が生えやすいように加工する必要がある、簡単にいうと枯れさせるような処理が必要である。そこらへんはスキルを使用して状態を変化させてある。

植物を成長させるスキルは、樹木を枯らすことすら可能なスキルだった。


だから、誰かが真似をしても決して成功しないだろう。


そして、榾木に指で穴をあける。

指で押すと原木に穴が開く。

そこに、種菌を入れていく。


これで、栽培準備が完了する。

本来は、発芽までには、さらに年月が2年ほどかかるらしいが、こちらは、スキルによりそれを調整していく。生椎茸を乾燥すれば干し椎茸の完成となる。


父親は、原木に指を突き刺そうとしているが、うまく開けられないようだ。

生後三か月の私でもできるのに、おかしいな?きっと不器用なのに違いない。


こう、きゅっと力を入れると、ブスリと穴が開くのだ。


種菌を植えた原木を綺麗に、日陰になる部分に並べていく。


「ところで、これは一体何をしているのでしょうか」と父が聞いてくる。

そういえば、この一連のムーブメントはシイタケ栽培であることを説明し忘れていた。


「この木に、はえてくるのですか」と疑っているようだ。

「ええ、これで生えてきますよ」

「おいしいのでしょうか」どうも食べることに執着をもってしまったようだ。

何も食べずに生きていけるくせに。


「基本的には、椎茸出汁は、うまいですよ。私はカツオだし、昆布だしの方が好みですが」

「そうなのですか、楽しみです」

どうやら自分がたべることができると思っているようだ。

貴重品なので、食べずに売りたいのだがな。


そういえば、昆布は植物なので、海さえあれば栽培できるかもしれない。

そしてふと気づく。


椎茸は植物ではなかった。

何気に、栽培を始めたが、植物ではない。


しかし、種菌はでてきたので、大丈夫だろう。

セーフ。


「さあ、暗くなる前に帰りましょう」

「はい」


その時、木々の隙間からガサガサと音がする。

この場所を知られたら消すしかないか、物騒な考えが頭をよぎる。

私の金儲けは誰にも邪魔はさせない。


草木の中から大きな猪が現れたのである。

ブヒブヒと鳴き声を発し、前足を掻く。


突撃体制を整えている模様。

「父さん」

「え?私ですか」


しかし、猪は確実に私を狙っている。

顔の角度が私に向かっている。

やはり機関が私を狙っているに違いない!


アイテムボックスから素早く、刀を取り出す。

そして、抜き放てない!

如何せん長すぎた。

鞘から抜けなかった。


ドンと腹に猪の頭突きを受けて、かちあげられる。

猪の牙は、着物を切り裂き、腹に突き刺さり肉を切り裂く。

真っ赤な血を噴き上げながら、空中で一回転する私。


だが、その遠心力が鞘を抜き放つ。

体に捻りを加えて落下しながら、剣で払う。

ズババンと猪の首から肩にかけて切りつける。

会心の一撃!


体勢は着地に入っていたが、落下モーメントは凄まじく三か月の足では耐えきれず、大地に衝突した。


「グハ!」切り裂かれた痛みと上半身を強打した痛みで苦鳴を上げる。

だが、神刀の一撃を受けた猪も、首が半分千切れて、血を噴き上げながらグタリと倒れ伏す。


「玄兎!」この時ばかりは父は、父のごとく叫んで駆け寄ってくるが意識が飛んでしまった。


その後のことはよく覚えていない。

しかし、父は、意識を失った我が子を抱えて、山をひた走って町へと舞い戻り、医者の所に連れて行った。


恐るべき生命力であったそうだ。

本来は、出血多量で死ぬところ、縫合手術を施した場所が、すぐに癒着して、治り始める。

だが、猪の牙かあるいは、叩きつけられたときにばい菌が入ったらしく高温でうなされることになった。破傷風である。


一晩、病院で母と父が手を握って励ましてくれた。

敗血症で死ぬところだったが、驚異的回復により、その晩、私の容態は峠を越えた。



・・・・・・・・

白い部屋にまたも入り込んだようだった。

<生まれて3か月で戻ってくるなんて、流石に気が早くないかしら>件の口元美女神が笑いながら言う。

「冗談ごとではありません、死ぬかと思いました、これは明らかに敵対組織の攻撃でした」

<ごめんなさいね、あなたのその設定というのかしら、私にはわからないわ>

女神曰く、偶発的戦闘であったといいたいのであろう。

しかし、神の使徒たる私にはわかる。明らかに、敵側陣営の攻撃であったと。


「本当に危なかった」

<あなたには、確かあの薬を渡していたと思うのですが>


その時初めて、私は、秘伝の薬の存在を思い出したのだ。

確かに、そうだった。しかし、意識を失うと、それどころではないということだ。

今度は、父にもわたしておかなければ、敵は必ず私を狙ってくるはずだからだ。


腕の立つ用心棒も雇わないといけないのか。


<大丈夫だと思いますよ>

女神すら欺かれている。


既に『機関』は私の動向を察知して、攻撃態勢を整えているに違いないからだ。





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