第7話 安綱
007 安綱
ようやく、病いも癒えたころ。
当たりはすっかり冬になっていた。
仙台城は、雪景色へと変わっていた。
これでは、椎茸の栽培も適わなかった。
この病さえなければ、すでに椎茸第一期生が収穫できていたに違いないというのに。
それにしても、敵の機関の恐るべき情報収集能力だ。
わずか生後三か月で危機に陥るとはな。
これではおちおち、仕事もできないではないか。
私は、母さんの乳を吸いながら、考えていた。
一時は、普通の食事をしていたが、病を負ってから母は別人のように私を甘やかすようになってしまった。簡単に手放してくれなくなった。これが母性というものなのだろうか。
敵ながら見事としか言いようのないやり口だった。
私の仕事を封じてしまうとはな。
まあ、冬の仙台でやることなどほとんどない。
スノーボードも今どきではないのだ。
あったとしても、寒すぎてやった後に大変なことになるだろう。
私は、母の桜に包まれて眠るしかできないのであった。
1890年(明示30年)
年が明けて、春になった。
私は数えで2歳だ。(満年齢は0歳)
2歳になればたいていのことが可能になる。(普通の人間には当てはまりませんのでご注意ください)
私は早速、山に向かい、椎茸たちを監督した。
勿論、父の背負子に乗って登ったことは言うまでもない。
まだ、生えていなかった。
しかも、父さんが慌てていたため、現場には、まだ安綱が落ちていた。
何ということをしてくれるのか。
これは、天下五剣の一つの名刀で、その完全レプリカなのだぞ!
解説すると、童子切安綱の完全コピー品、神の力で複製されているので全く同じにできている。しかし、この刀で鬼の腕を切った事実はないので、『童子切ではない安綱』である。
さすがに、源氏の流れを汲むだけはある。
因みに鬼を切ったのは源頼光である。
やはり、清和源氏の流れを汲んでいるのだな!という設定が生きている。
猪の死体は、なぜか消えていた。
きっと『機関』が、抹消したのであろう。
暗殺にしくじれば、消え去るのみということだ。
「おお、〇〇の大神よ、我に力を与え給え」地に伏して、九拝する。
すると、原木から次々と椎茸が生えてくる。これぞ神の御力である。
この時代、椎茸の栽培技術はまだ確立されていない。
そう、貴重品なのである。
父玄月が、いそいそと収穫している。
どうやら食べたいのであろう。
しかし、「父さんは、木こりですよ」
またしても斧が現れる。
「え?まだ原木作りですか」
「違います、別の木を植えるために周囲を伐採します」
私は、次の金融作物を植えたいのだ。時間がたりないのだ。
父よ、急いでくれ。
いつ、敵が襲ってきてもよいように、安綱は抜き身の状態でアイテムボックスに入れてある。
神の力を宿しているので、風化やさびなどは微塵もない。
怪しく青く光りを宿している。
「でも、クヌギは、原木にするんですよね」父はそこにこだわりを見せる。
「それで結構ですよ」優しく諭すようにいう。はじめの頃よりもずっと筋肉がつき、逆三角形の肉体になっている。どういう構造なのか、究明しても無駄だろう。
あくまでも、そのように造られているのだから。
山間にカコンカコンと木を切る音が木霊する。
私は椎茸栽培が終わると、剣術修行を始めた。
前回は、不覚を取ってしまった。まさか、赤子の腕では、剣が抜けないなどとは、何という失態!
「シッツ!」雑木に安綱で切りつける。
細い幹ならそれだけで切り倒せる。明らかになんらかの補正が入っているのではなかろうか。
しかし、天下の名剣でこのような所業、気でも狂ったのかとお思いのことだろう。
ですが、安心して下さい。名剣は、もう一本あるのです。
何故か、落ちていた剣をアイテムボックスに仕舞おうと思って、いれようとすると、中に同じものが入っていることが発覚したのである。
まさに、神の所業である。さすが完コピ品。
美の女神が、コピー機で焼くがごとく、入れておいてくれたのであろう。
こうして、私は、『猪切り安綱』で剣術の練習している。
「さあ、父さん、今日はこのぐらいで終わりましょう」
散々木を切らせておいて、何をいうのか?
いえいえ、私の父は、無職なのでこれくらいは働いてもらわないといけないのです。
冬の間私たち親子三人は、何もすることなく、暮らしていた。
今、母は、畑で野菜の世話をしている。
父は、山で木こりなのである。
私?一歳にも満たない私に働けとでもいうのですか?
こうして、見えないところに、『猪切り安綱』と、『何も切ってない安綱』を隠す。
果たしてどうなるのか、実験の結果は如何に。
背負子に背負われて山を降りていく私がそこにいた。
・・・・・・・・・
朝目覚めると、アイテムボックス内を確認すると、安綱が入っていた。
ひょっとすると、山の安綱が戻ってきた可能性もあるので、確認が必要だな。
畑で、九拝する。
これで、野菜が収穫できるはずである。
母は今日、干し椎茸を作る作業をしている。
父に背負われて、山に入っていく私。
毎日ご苦労様と自分に言いたい。まだ、乳飲み子でありながらこのように勤勉に働いているのであるから当然である。
父さん?
ああ、ありがとう、いつも背負ってくれて。かな?
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