第8話 3万9千800円!

008 3万9千800円!


山の現場につくと、さっそく安綱様を探す。

何と、そこには、元通り2振りの安綱様がいた。


今なら、このオカルティックな状態を、動画配信して、収入を得られそうなのにもったいないな。


これで三振りの安綱氏が存在することになる。

一振りは、猪切り、もう一振りは、昨日の安綱、そして今日の安綱。

とりあえず、一振りを父に授ける。


「これで武士に成れそうです」素直な笑顔を見せる父。

あんた、確か源氏の血を引く武家だといってなかったか。


「家には、伝来の剣があったのですが、生活に困り、手放したのです」と申し訳なさそうに説明を入れてくるあたり、そういう設定になっているのであろう。


それとも、『機関』が私を狙って、陥れたのか。

その可能性もあるな。

案外そうなのかもしれない。奴らめ!やってくれる。


昨日、木を切り倒しているので、根っこが残っている。

スキルにより、根っこをアイテムボックスへと移動。整地を行う。

私の持つスキルは絶対的な権威を植物に対して持つようだ。


木材は、いずれ柵などに必要かもしれないので適当に乾燥させておく。


クヌギは、椎茸榾木だ。


「かしこみ、かしこみもうす。〇〇女神のお力をお借りして、この植物を育てまいらせ給え」

九拝したあとに、懐から、種をつかみバッと撒く。


種が意思を持つように飛び空中で各々が飛び散り、土にめり込む。


手刀で九字を切り「急急如律令!」と叫ぶ。


バッと地面が光り、芽が出はじめる。

「さすが私の自慢の息子です」と父が褒めてくれる。

いやいや、私も早く父さんを自慢したいので、自活して下さい。

父はまだ無職のままだ。


因みに、スキルを作動するためには、九拝も九字も呪文も全く必要ない。

女神は、天からこの様子を見て苦笑した。

<大丈夫かしら>

隣にいた男神は、その光景を覗き見て腹を抱えて大笑いしていた。




「ところで、あれは実のなる木なのですか」

父は、食べることに執着している。

「実はなりますが、食べれないと思います」

ガ~ン、わかりやすく衝撃を受ける父。


「食べれる何かをうえるのではどうでしょうか」

それは、畑に植えている。


しかし、あれを販売するには、甘みもひつようなことに気づく。

「わかりました、あれも植えておきましょう」

「ありがとう、息子よ」


「では、父さん。もっと広範囲に木を切ってください」

ガ~ン、さらに衝撃を受ける父。


こうして、弦月は木を切る。

ひたすら切る。しかし、山は借りてもらったが、こんなに勝手に切り倒してもよいものなのだろうか。メキメキという音を立てて木が倒れていく。

ドサッツ~ン。


まあ、良いでしょう。土地を返すのは父なのですから。

私は、関係ないのです。知りません。


そして、そういえば、アレの次はアレと決まっているかの如く。

私は、切り倒した木の幹をえぐり始めるのであった。


結構な巨木の幹をくり抜いた。

そして、それを切り倒した木の根っこに置き、上から蓋をする。


「さあ、我が式神よ、来たれ!急急如律令!」


そもそも、式神とは来たれという物だったのか?

それならば召喚ではなかろうか。


しかし、一匹の虫が飛んでくるではないか。

おそるべき御業、流石、神の使徒たる私。

それは、ニホンミツバチの女王蜂である。


『植物を成長させる力』の副産物で、自在にミツバチを操る力を授かったのである。

植物の多くが虫媒花である。つまりミツバチによって受粉するのだ。

これは死活問題なのでこのような力がサブ的についているに違いない。


女王蜂は小さな穴から幹の中に入っていく。

穴が大きすぎると、スズメバチに襲われるので最小限度の穴しか開いていない。


こうして養蜂が開始される。

このころ、日本には、養蜂が存在したが、まだまだ少なかった。

つまり、蜂蜜も貴重品なのである。


「切り開きました」上半身がかなり筋肉質になった父が教えに来てくれる。

私は、すでに三つもハチの巣を作っていた。


「作業はまた明日にしましょう」

「そうですね」父がそう答えたときには、陽が傾かんとしていた。


この平和な田舎に、戦争がやってくるなんてとても信じられない。

もし、何もなければ、この田舎で過ごしてもいいかもしれない。

そういう牧歌的な風景で、夕焼けがなんとも美しかったのだ。



「ちょっと、玄兎君、庄屋さんのところによってもよいですか」

山から下りてきた父がそういった。

「何かあるのですか」

「もっと、山を増やした方が良いのではないかと思いまして」

そもそも、山の面積などとはなかなかに難しい。

あの尾根から谷筋迄などという曖昧なものなのである。


適当に、全て切り倒しても問題ないはずなのだ。

それが他人の土地だとしてもな!


しかし、そのようなことは言わない。

父は、厳格に借りた面積を把握しているのであろう。

流石、神が創り出した人間のような生き物である。


「これは咲夜さん、どうしましたか」

「はい、借りた山は、開拓が済みましたので、もっと借りたいと思いまして」


「ええ!もうですか」

どのような契約をしたのか不明ながら、まあ、山の開拓はそう簡単にはいかないのは道理である。たった一人では相当に難しいだろう。何年もかかるのは当たり前のはずだ。


しかし、私には、アイテムボックスの術がある。

切った木をそこに入れて、移動すればあら不思議、それは移動された場所にきちんと積み上げられていく。


木の根は、アイテムボックスに入れるときちんと抜ける。

そして、又も移動。あら不思議。木の根も簡単に処分できるのです。


どうですか、すごいでしょう。この『アイテムボックス』、今なら3万9千800円です。

3万9千800円、とても安いでしょう~。


当然ながら、テレビショッピングで売っているようなものではない。




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