第169話 『月号作戦』

169 『月号作戦』


聖歴2年(西暦1945年・照和20年)4月。

連邦の『月号作戦』が開始される。

米国の西海岸を攻撃、米国の戦意を削ぐというものである。


真珠湾基地に連邦艦隊が続々と集結しつつあった。


防衛側の米国西海岸には、ウィリアム・リー中将のアイオワ級戦艦4隻を主力とする打撃艦隊、ハリケーン作戦で活躍するはずだった空母の名残り、エセックス級空母2隻、インディペンデンス級軽空母4隻があるのみであった。


だが、喜ぶべき報道もあった。

ハルゼー中将戦線復帰!


ハルゼー中将は、廃人同様になっていたが、スプルーアンス中将が戦死した直後から、急速に回復した。現在は原隊に復帰して、スプルーアンスの敵討ち、日本への復讐を狙っていた。


連邦艦隊の主力は、超大和級(テスラ級)6隻、超大型正規空母(玉兎級)6隻、航空戦艦(戦闘ヘリ空母)伊勢、日向、扶桑、山城、エセックス級空母(SCB125改装済み)エセックス、イントレピッド、同様な改修済み空母、エンタープライズ、レキシントン、ホーネット、ワスプ、ヨークタウンである。


その他には、連邦加盟国が今現在まで建造してきた海軍の艦艇、駆逐艦、巡洋艦が集結している。


日本とは違い、時間がたてば次々と艦艇が生産されていた。


その日本であるが、の1945年は戦争の最終年であり、原爆投下へと至る道のりである。

枢軸は次々と世界の各国に宣戦布告されていたのだが、照和(いや、聖歴2年)では、ドイツ軍はまだ拡大しており、日本も無差別爆撃も受けてはいなかった。


しかし、その歴史を作り変えた連邦からの、米国攻撃への協力要請をも無視していた。


大日本帝国は再び平和国家へと向かっていた。

世界中が殺し合っていてもなお。


中国本土が分割支配され、ダッチハーバー基地がロシア軍(実は親衛隊)により占領、基地化されたため、またしても日本には平和が訪れたのである。(日本を攻撃する基地が他人の手により破壊されたので平和が訪れた)


但し、役割分担を担わない国家のため、経済協力を得ることが出来ず、石油不足が顕著になっており、大不況となっていた。多くの者たちが、新天地を求めて満州や神聖皇国へと移住していた。


その日本では、大地震が発生しておおきな被害を受けたようである。

さらに、不況へと落ちていった。


聖歴2年(西暦1945年)3月10日、サンフランシスコ沖に連邦軍が大挙襲来、展開を開始する。奇しくも、東京大空襲と同じ日のことであった。


開始。

連邦軍全軍による、サンフランシスコ壊滅作戦が幕を開ける。

サンフランシスコ沖、1000Kmに大艦隊が到着、展開を開始する。

その数は、もはや数えることが出来ないほどの数である。


洋上1000Kmは、米国航空機にとっては攻撃しづらい距離となっている。

航続距離の問題で、基地と往復できないような微妙な距離なのである。

(零戦であれば、クリアできる問題だが、ただしパイロットの疲労は極大となる)


明らかに誘っている。

陸地に近づきすぎれば、攻撃を受けるためにこのラインで出たり入ったりの示威活動を行っているのであった。


打撃艦隊のウィリアム・リー中将は、挑発に乗らなかった。そもそも撃ち合えば、負ける。圧倒的に数が足りていない。ここは、味方が集結できるまで只管我慢するしかない。

今も、東海岸では、空母や戦艦が作られているのだ。

やはり、合衆国は偉大なり。


米国太平洋艦隊の潜水艦部隊は、航空戦艦から発進するヘリ部隊により完全に駆逐されており、この敵艦隊への攻撃は到底無理であることが分かった。


3月10日は、双方にらみ合いが続いたが、結局攻勢はなかった。

勿論、夜を待っていたからである。

そもそも、サンフランシスコはハワイ島から爆撃機が到達できる都市になっており、少なくない被害を受けていた。

艦船の集まりが悪いのも、全て、この長距離爆撃を警戒してのことでもある。ある程度の数をそろえないと、空襲に対抗できないと司令部は考えていたのだ。しかし、以前よりも爆撃の頻度は少なくなっていた。

夜間戦闘機(P61ブラックウィドウ)がついに完成し、爆撃機の何機かを撃墜したからである。


流石に随伴戦闘機なしで無暗に攻撃できなくなったのである。

勿論、狂信的な親衛軍であるため、命を賭けて出撃をすることに文句をいう人間などいなかったのだが・・・。


日が暮れると、艦船部隊が動き始める。

サンフランシスコ攻撃部隊の後方500Km後方には、新兵器であるロケット搭載艦が複数待機していた。

嘗ては、伊勢、扶桑などが艦後部にそのロケットを搭載していたが、現在では、それが航空戦艦に変更されたために、輸送船などを改良したロケット砲艦が随伴していたのだ。


そして、そのロケット砲艦が搭載しているV3ロケットは射程2000Kmを誇る中距離弾道弾に改良されていた。セルゲイ・コロリョフの加入により、ロケットの進化速度が速まったのである。

その、ロケット砲艦から、次々とV3弾道弾が夜の海上を飛翔する姿が見られた。


少なくとも10隻以上のロケット砲艦から20発以上のロケットが断続的に発射されていく。

目標はサンフランシスコである、初期的なコンピュータや精密なジャイロコンパスが搭載されたそれは、V2よりは正確に目標に着弾するという。


大気圏を突破したロケットが再突入してサンフランシスコの街を襲う。

ロケット攻撃がまず攻撃の端緒である。

精度は上がったが、精密爆撃ではないため、街中に落下して大爆発を起こす。

防空壕もすでに作られていたが、流石に、超音速で落下するロケットまでは防ぐことはできない。当たれば終わりであった。


サンフランシスコ沖で、敵艦隊を牽制するアイオワ級戦艦からもこの災害は垣間見ることが出来る。しかし、戦艦部隊でできることは何もなかった。

ウィリアム・リー中将も指をくわえてみていることしかできなかった。

「奴等が襲ってくる可能性が高い、レーダーを良く見張れ!」そういうだけで精いっぱいであった。


街が大混乱に陥っていると、今度は、そのタイミングに合わせて、ハワイ島から、ツポレフB1爆撃機が、絨毯爆撃を開始するべく爆撃コースに侵入を開始する。

防空基地は直ちに、それを発見しP61夜間戦闘機が迎撃に舞い上がる。


決戦はいまだ始まったばかりである。



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