第170話 『デストロイモード』
170 『デストロイモード』
後に『サンフランシスコ大空襲』と呼ばれる惨劇が開始されようとしていた。
ハワイから出撃した爆撃機は50機に及ぶ。
それらが12トンの爆弾の雨を降らせることになれば、600トンの爆弾が撒かれることになる。
既に、200発以上のV3ロケットが街のあちこち着弾して夜空を赤く燃やしている。
それだけで200トンの爆弾である。
運悪く、ロケットの一発が近郊の航空基地にも着弾し、P61にも被害が及び、発進できる機体は、15機でしかなかった。
しかし、援護のない爆撃隊であるため、何とか爆撃を阻止できる可能性があった。
勿論、迎撃戦闘機のパイロットはそんなことは知りはしないが・・・。
「パトリオットリーダーから各機へ、敵編隊は方位210全機、敵を全力で迎撃せよ、シスコを守れ!」
「「「了解」」」
だが、夜の空には、魔物が潜んでいた。
護衛戦闘機はいないはずだった。
勿論である。数千Kmも飛んでくる戦闘機などいる筈がないからだ。
この長距離は、爆撃機の巨大な燃料タンクがあればこその芸当なのである。
ただ、沖合には敵艦隊が存在し、そこから夜間戦闘機がくるかもしれない。とはブリーフィングで説明されていた。しかし、レーダーにはその姿が映っていないため、パトリオットリーダーは安心した。
サンフランシスコ沖で迎撃を開始するP61。
彼等は、爆撃機の後方に入り込み斜め下から攻撃する態勢をとろうと考えていた。
だが、目の前には、小さな何かが存在し、その何かが発砲したのである。
「なんだ!」
「爆撃機以外にも何かいるのか!」
矢のように飛来する火箭。
そして爆発。
「うわ~~」
何かがすぐ横をすっ飛んでいく。
明らかに、機銃の発砲をしながらすれ違う何か。(機銃ではなく機関砲だったが)
P61の戦隊は大混乱に陥っていた。
護衛戦闘機がいたのだ。
しかも悪いことに仲間の半数がすでに最初の攻撃で撃破されていた。
「何故だ、空母艦載機じゃないだろう!」
しかし、それは高速で旋回し、襲ってくる。
「ジェットだぞ!敵はジェットだ!」
ハインケルF5タイガーⅡジェット戦闘機が護衛についていたのである。
最初のロケット攻撃で半数が空の藻屑となったのである。
その瞬間からは、虐殺であった。
P61では、相手にならなかった。
護衛部隊は、人間ばなれした技術をもつエース部隊『RAZ』グルッペン(グループの事)だったためである。
それにしても、このジェット戦闘機部隊はどのようにして、ハワイ島からサンフランシスコ沖までやってきたのか?ジェット戦闘機にそこまでの航続距離はないはずなのだ。
敵迎撃機が完全に排除されたため、戦略爆撃機部隊が爆撃コースに侵入を開始する。
絨毯爆撃の爆発が街を燃やし始めていく。
ウィリアム・リー中将はその光景を沖から見るだけしかできなかった。
「クソ!ジャップ!」
彼等が本当にジャップなのかどうかは分からない。
親衛隊は、基本的に多国籍である。世界中から集められた孤児たちである。
国籍は、今や神聖皇国ではあったが、日本人かどうかは不明なのだ。
しいて言うと『神聖皇国人』と言えるのか。(日本は某企業などが活躍していたため孤児が少なかった。今は不明)
ただ言えることは、親衛隊は、基本的に狂信者である。
熱狂的に法王を信奉している。
彼等をして『ルナシスト』と呼ばれる人々である。
・・・・・・・・
時間は遡る、世闇が海に落ちる頃、同盟水上打撃戦隊(戦艦部隊)に突撃命令が下る。
最大船速で、サンフランシスコを目指す。
彼我の距離は1000Kmほどである。その途中にアイオワ級の戦艦部隊がサンフランシスコの街を守るために
「デストロイモード発動せよ!」
「デストロイモード発動!」
テスラ級戦艦の艦首には、ユニコーンのような角が生えている。
大航海時代の艦首突撃、『衝角』(体当たりして敵艦に穴をあけるための武器)の名残りのように思われていた。
少なくとも、何のためにそのような角が生えているのか知る者は少なかった。
角が角度を上げる。
45度立ち上がったところで、それは2つに分かれた。
艦首でブイサインのように広がったのである。
何とも奇妙な光景である。
二本になった角が青白く光り始める。
そして、稲光が2本柱の間に走り始める。
そうなのだ、それはテスラコイルである。
ニコラ・テスラがボーデンクリフタワーにおいて作ったと呼ばれる装置がそれと同じような稲光を発生させていたのだが、今、この2本の角の間に発生しているものがそれにそっくりだった。
青白く光る角を生やした戦艦が波を切り裂いて進む。
その後方を、角のない戦艦がついていく。
このデストロイモードこそがレーダー波を全て吸収あるいは捻じ曲げ、姿を隠す(ステルス)ことが可能になる仕掛けであった。勿論、艦の塗装にはレーダー吸収塗料を使うなどした対策は行われているのだが、この真テスラコイルは異次元の性能をもっていたのである。
巨大電力を消費するために、艦には、専用のディーゼル発電機が載せられているのだった。
・・・・・・・・・
もうすぐ夜が明ける。
ウィリアム・リー中将は、一睡もできずにいた。
その時、突然、レーダー監視員が叫ぶ。
「敵影多数!」
夜明け前の水平線上に敵艦船の影が浮かび上がる。
それは少なくとも50Km以内の距離となる。
レーダーでは、150Km程度をカバーすることが出来るはずなのである。
「馬鹿な!」
敵艦が突然発生するはずがないではないか。
しかし、現実は冷酷である。
既に、テスラ級戦艦は、主砲発射準備態勢を整えていた。
しかも、照準を担当していたのは、件の司令官本人であった。
一撃だけは、必ずあてるという特技を持っていたのである。
その灰色の脳細胞内で主砲射線と敵艦船の姿が交差する。
発射ボタンを押すと、46㎝主砲3連が連続的に火を噴く。
一番、二番砲塔の連続発射で艦橋は真っ白に塗りこめられる。
爆風が、海上の波を吹き飛ばす。
艦船における最初の砲撃など当たるはずがない。
何発も撃って初めて夾叉するのである。(調整しながら命中するようにちかづけていく作業のこと)
ウィリアム・リー中将は、敵戦艦の発砲炎を見たが、落ち着いて「迎撃準備」を命じたのだ。
勿論、監視作業を怠ったレーダー監視員を、軍事裁判で極刑にしてやろうと考えていたが、今それを怒鳴っても仕方がない。
音速を超える砲弾は、音が後にやってくる。
ウィリアム・リー座上艦が爆発した。
僚艦では、何が起こったか理解できていなかった。
爆発音、砲撃音、アイオワ級の爆発音、絶叫、悲鳴全てが恐慌状態になって錯綜して
いた。
「砲雷撃戦はじめ!」
テスラ級戦艦の艦橋で、艦長が吠える。
件の司令官はぐったりとして、副長に支えられている。
既に、夾叉しているため、全力攻撃で砲撃を行える。
単横陣をとっていた、テスラ級戦艦の僚艦も次々と発砲を開始している。
その後続に、それ以外の航空戦艦が続く。
圧倒的な砲門の数で、連邦軍が明らかに優勢であった。
アイオワ級戦艦にまたしても直撃弾が発生し、火柱を噴き上げた。
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