第168話 三国鼎立

168 三国鼎立


PC作戦は成功に終わった。

終わってみれば完勝である。

鹵獲したエセックス級空母は、「エセックス」「イントレピッド」と命名された。

本当は違うのだが、男が知っている名前がそれであった。


そして、同盟の知りえない情報でありはしたが、スプルーアンス、ゴームレー両名の司令官が戦死していた。

さらには、敵機動部隊に大打撃を与えることに成功した。

また、パナマ運河を完全に破壊し、その復興までの時間を稼ぐことに成功したのである。


米国のハワイ奪回のために行われる予定だった『ハリケーン作戦』は完全に粉砕された。

そもそも、司令官のスプルーアンスが戦死してしまい、新たな司令官が必要になってしまうのだった。


ローズベルト大統領には、太平洋艦隊の半滅、パナマ運河破壊、新編成艦隊の空母2隻鹵獲、スプルーアンス、ゴームレー両名の戦死と次々に悲報が伝えられる。

それらの悲報がただでさえ悪かった病状(病を隠して大統領の業務を行っていた)を一気に悪化させてしまう。


ローズベルトはその晩、心臓発作を起こし、様態が急激に悪化し死亡してしまう。

そして、トルーマン副大統領が大統領に昇格する。


米国は喪に服す。




神聖月読皇国(旧オーストラリア)首都サンクトゲントブルグ(旧シドニー)

・・・法王庁・・・


同盟各国の首席などが、跪いている。

法王は一段も二段も上に座している。

法王は、月読皇国の法王であり元首である。

同盟は、各国が同格で同盟を結んでいる筈なのだが、露骨にそうでないことが現れていた。


「我が同盟艦隊は見事、暴虐で傲慢極まる米国海軍を叩き潰すことに成功した」

法王の側近が宣う。

「それは、偉大にして寛容なる神の子、玄兎法王のお蔭であります」

長々と戦線について語られる。

その中で主力として戦っている者たちは、法王(教祖その他の称号を有する件の男のこと)の親衛軍である。


檀上より下の元首たちは、自国軍こそもつものの、海戦に参加することなどは不可能であり、さらに言うと米海軍と戦うことなど無理である。


故に、どうしてもこの法王に頼らねばならないのである。

それに、自国の軍隊も、法王の親衛軍の指導の下にできたものであり、彼が命令すれば、クーデターすら簡単に起こりうる恐怖感をももっている。


「ここにおいて、私は、神勅を得た。同盟各国の平和を守るために、我は、神聖連邦の誕生をここに宣言する。同盟各国は、神聖連邦の構成国家として励むがよい。それにより、各国はより発展するのである。そして、西暦を廃し、ただいまより聖歴とする。」

時に西暦1944年(照和19年)のことであった。


「神の御言葉が下された。これよりは、聖歴元年とする」

「ははあ!」


全ての国家元首は、従わざるを得なかった。

そして、ハワイ王国の王女と法王の息子(ロシア大公の姉との子)の結婚が発表される。


勿論、ハワイは地政学上の戦略拠点である。ここを決して手放すことはないという宣言でもある。だが、ハワイ王国側も米国から自身を守る盾を欲してもいたのである。


聖歴2年の年が明ける。

米国太平洋艦隊は、必死で回復しようとしていたが、パナマ運河が破壊され、南米周りを強いられることになる。


米国の太平洋岸の戦力を復元することは非常に難しいことになった。


南米大陸の太平洋岸には複数の潜水艦が待ち構え、魚雷戦を仕掛けてくるのであった。それゆえに、物資の輸送や艦船の配置などに支障をきたしていたのである。


ダッチハーバーを占領、基地化を開始した連邦軍は、春からツポレフB1爆撃機による米国本土爆撃を開始する準備を整えていた。

ハワイ島基地にも、B1爆撃機が新たに進駐してくる。

その数は日に日に増えていく。


この頃、世界情勢は熾烈を極めていた。

中国は、満州軍、モンゴル軍などにより分割統治されていた。

アジア各国は独立していた。

そして、その影響は、インドに飛び火し、チャンドラ・ボースが独立戦争を行っている。

インドラ・ガンジーも徹底抗戦を主張し、独立戦線を形成し戦っており、英国軍は追い詰められている。ボース陣営、ガンジー陣営に武器を売っているのは、兎印の武器商人だった。

インド独立派は、スリランカ島を担保に、武器を買い漁っていた。

(スリランカはインドとは別の国だが、インドが担保にしていた。連邦軍は、インドから買ったと豪語して進駐してきた、スリランカは連邦に降伏、連邦構成国家として独立を認められる)


連邦軍の艦隊がスリランカに進駐し要塞化工事を行っていた。


満州国は完全に武装国家を形成した。

新ロシアは、ウラル山脈までを奪回した。多くの兵士がこれで手に入れることができた。

兵士のキャベツ畑を手に入れることに成功したのである。


新編成されたロシア機甲師団は、侵攻方向を変更、中東各国を支配するべく侵攻する。

中東には様々な国があったが、それらを悉く撃破し、ペルシャ湾を目指す。

そして、少数部族の反政府組織を支援し、支配地域を拡大していく。


エジプトが連邦と同盟し、スエズ運河を封鎖する。

エジプトには、皇国親衛軍一個軍団が進駐する。

スエズ利権を担保に、大量の武器弾薬が販売されていた。


スエズ運河が完全にエジプト軍(皇国親衛軍)により管理されると、スリランカの艦隊は、マダガスカル島に侵攻を開始した。

すでに、かつて英国東洋艦隊の面影はなく、全面的に撤退するしかない状況であった。


ドイツ軍はついに英国本島をほぼ制圧していた。

現在は、アイルランド、アイスランドの英国軍と熾烈な戦闘を行っていた。


ペルシャ湾に到達したロシア軍は、なぜか独立を宣言し、神聖ペルシャ皇国を建国する。

皇国は、ミカエル・トハチェフスキー元帥が国家元首となる。

世界のオイルを押さえたのが、ペルシャ皇国である。

そして、なぜかペルシャ皇国も連邦加盟国となる。


このような激烈な戦いの一年であった。


明らかに、資源のある場所を徹底的に占領していることがわかる者にはわかった。

そして、マダガスカルを要塞化すれば、次の侵攻先は南アフリカであることは火を見るよりも明らかであった。

露骨に資源を狙っていた。


ドイツとロシアは、ウラル山脈を緩衝地として共同開発条約を結ぶ。

既に、スターリンらのソビエトはほぼ存在しない。

ウラル山脈地下深くにいるかもしれないが、表にでてくることはできないだろう。

ドイツ軍は今、地中海を渡り、北アフリカに侵攻を開始している。

満州、ロシア、モンゴルなどの国は、連邦に加盟していないが、同盟国ではあった。

事ここに至り、国際連盟は瓦解したも同然であった。


世界の政治は連邦を中心に回り始めているのである。


ドイツ第三帝国(ヨーロッパ)、米英(北米大陸)、連邦(太平洋・東アジア・オーストラリア)の三国時代が到来したのである。


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