第13話 神薬

013 神薬


無数の戦場を生き抜いてきた驚異的な力、それはある種、神がかり的な要素をもっている。

彼は、幕末の大動乱から西南戦争まで、猛烈に戦ってきた、超ベテランの戦士なのである。


しかし、あと数年で警視庁を辞めることからすると、現場での戦いも限界なのであろう。

だが、ここに一つの薬品が存在する。

まさにピークを過ぎた人間に接取させた場合にどのような変化が起こるのか、試してみたいのである。


結果が良ければ、別の使い方を試しても見たい。

夢は膨らむばかりである。


「高給をはずみますよ」

「護衛か、とは何だな」

「敵です。今は詳しく話せませんが、私を早期に滅ぼすことが彼らにとって利益となるのです」

「諦めてくれんかね」


「給料に不満が?」

「嫌、まだ聞いていない」

「そうですね、ひと月50円出しましょう」

これはかなり高い給与になる。

新任の地方巡査で8円程度である。

まあ、警視庁の給与は基本高いが、50円はかなりの高額であるはずだった。

彼が警察を辞めれば、かなり安い給与になることは間違いないことであった。


「ほんとに出せるのかい」それはかなりの高給である。

「武士に二言はあり申さぬ」と私が啖呵を切る。

「武士って」

「我が家は、仙台藩士の出でございます」ようやっと父親が説明を始める。

設定を述べる時だけ登場するような、チュートリアル機能だけしかないようだ。

きっと、この山口一の殺気で口が利けなかったのであろう。


「本当に、仙台藩士なの?」

「これを見よ」そして、ついに安綱の宝刀が現れる。

「え?」突然何もないところから出現する手妻は、正に手品である。


今現在、帯刀は禁止されている。

「これは太刀か」半身を抜く。異様に美しい光。

大業物、名物と呼ばれるだけの品である。

但し、完全コピー品。現在3点だけが現存する。完コピ品である。

熊切安綱である。


「我が家に伝わる伝説の宝刀、安綱です」

「う~む、しかし儂ももう年なのでな、本来ならもうひと働きしたいところではあるがな」


言葉の中に、かなり前向きになっている表現がでてきた。

「そこですよね、流石の名人も年には勝てません。しかし、ここにすごいお宝があるのです。あなたは本当に運がいい。これが最後のチャンスという物ですよ」

一つの薬包が現れたのである。


出所不明の医薬品である。

医薬品といっても、許認可を得たものではない。

所謂、民間医療薬の類になるのであろうか。


『不死の名薬』と仮称される。

その数10。

名称は不死ながら、不死は不可能とのことである。

死んだ人間を生き返らせる程度は可能との説明があったやに思う。

長命の効果はかなり期待できるという物である。

但し、実験されていない薬品ではある。


この薬の副作用については説明されてない。


激動の人生をまっしぐらに走り抜けてきた侍。

流石に、疲れているであろう。


そして、今それが試される。

だが、まずは、意思確認。

どのような変化が起こるのか、それとも起こらないのか、ドキドキしてくる。


「今一度家族と相談してから決めよう。何となれば、仙台に移らねばなるまいて」


「それがよろしいでしょう。」


「その刀は儂が使ってもよいのか」

「勿論、私の護衛ということであれば結構です」

「実に良い刀だな」


無言で頷いておく。


・・・・・・・・・

後日。


「その話受けようと思う。子も育てぬといかんしな」

都内の喫茶店(カフェーというらしい)で話をする。

「それはありがとうございます。撃剣先生ならば安心です」

「まあ、刀であればな」


居住まいの美しさ、眼光の鋭さは、尋常ではない。

山口一は本当の侍である。


「では、これを飲んでください」

「ここでか」

「そうですね、どんな反応が起こるかわかりませんから、ご自宅に伺っても?」

「お前本当に、赤子なのか」

「ええ、満1歳ですね」


こうして、父に背負われて、山口邸にお邪魔する。

「今度の雇用主だ」

「まあ、主人がお世話になります、よろしくお願い申し上げます」

彼の妻らしき人は、我が父に頭を下げる。

私は、父の背中におぶられている。


「奥さん初めまして」

降ろされた私が挨拶をする。

「まあ、おませさんね」


どうも、子供が雇い主であるとは理解できないようだ。

仕方がない、これもを出し抜くための仮の姿なのだ。


「これから起こることは他言無用です」

空気が張り詰める。何が起こるというのだろう。

いや、私も知らないが、何といっても初めての経験なのだ。


何も起こらないかもしれない。

「気をしっかりともってくださいね、この方は、あなたの夫であることに代わりありません」


「夫はどうなるのでしょう」

さあ、どうなるのでしょうね。


「では、行ってみましょう」

一氏も覚悟を決めたようだ。

流石は侍、死中に活を求めるその激しい魂、私もあこがれる。

だが、そんな効果も不明な薬は怖くて飲めない!

私には無理だ。


薬を口に含み、湯飲みの水で飲み干す。

「どうですか、霊験あらたかな薬は、大丈夫ですか」

思ってもいないことを言える自分が怖い。


「グワッツ!胃の腑が燃える!」

山口がうずくまる。

「あなた!」妻が駆け寄る。


実験は失敗なのか!あああああ!

彼の妻よりもうろたえる私がそこにいた。

どうしたら~~~!

おお~~~~~!



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