第12話 撃剣

012 撃剣


秋が来た、私は満1歳(数え2歳)である。

私はようやく自由に体が動くようになった。

私は忙しいが、秋になれば、もっと忙しい。

蜂蜜を回収しなければならない。


5神5民である。

何と、働いた蜂たちは、半分の蜜を神の使徒たる私に奪われるのである。


きっと蜂たちも神の使徒たる私に貢献できて涙を流して喜んでいるに違いない。


だが、そうは問屋が卸さない。

ついに、『機関』のエージェントが現れた。

前回は、相討ちであったが、今回は私が勝つ。


「その汚い手をどけろ、神への貢物に無礼であろう!」

黒いエージェントに叫ぶ私。


「ヴウォ~~~オ!」わけのわからない雄たけびを上げるエージェント。

その姿は、黒い毛皮に包まれている。正体を隠すための偽装であろう。

そして、ギロリと私を睨むのだった。


食事を邪魔されて怒っている風を装っているが、明らかに私を待っていたのである。

そして、私を抹殺しようとしているのである。

『機関』はなかなかにやる。獣に殺されたことにして、事故を装って抹殺をもくろんでいるのは明らかだ。


「だが、そうはいかん」抜き身の状態でアイテムボックスに入れている、安綱を抜き放つ。

既に、抜き身だったのだが。


黒い熊のようなエージェントは斜面を転がるように疾走してきて、飛び掛かってくる。

勢いをつけた豪快な熊パンチ。その爪にやられれば大けがは間違いない。

その右手を軽く切り飛ばし、心臓を一突き。

ズブズブと抵抗なく突き刺さるが、「ウゲ!」

熊のデッドリープレスが私を押しつぶしたのである。

常備しているホイッスルを吹いて、父を呼ぶ。


あばら骨が数本、罅が入ったようだが、大丈夫だ。

父が駆けつけて、熊をどかしてくれる。

ゲホゲホと血を吐き出す。


「大丈夫か玄兎!」こんな時は本当の父のようだ。

「ええ、エージェントは始末しました」


「捌くか」

「私は、使用人を呼んできましょう」

「大丈夫なのか」

「少し、胸が痛いですが、すぐに治るでしょう」

「それならいいのですが」


それからエージェントは捌かれ、殺害の証拠を抹消するため、夜のごはんになった。

毛皮は、家の玄関に飾られることになった。我々も機関のエージェントの証拠を抹消しなければならないのだ。


流石に、油断ならない。次々とエージェントが送り込まれ来る。

もっと、体を鍛えなければならない。


しかし、護衛は必須だな。

どうすればいいのか。


その時に、私は初めて神の声を聴いたと直感した。

天啓が訪れたのである。




しかし、その時をその様子を天上で見ている男神はまた大笑いしていた。

神の声は前から何度か聞いているはずなのだ。

しかも自分の思い込みの激しさ、なかなか面白い奴なのだ。

「天啓って!天啓」ガハハハッと男神は、腹を抱えて笑っている。

熊を突き殺して、押しつぶされる一連の行動から笑いが止まらない。

「面白すぎ~!ハハハ!」

天啓など女神が与えていないのは明らかであるからだった。

女神は、苦虫をかみつぶしたような表情をしている。

<こいつ本当に大丈夫なの?>声には出さないが、残念な奴を見る遠い目をしていた。


確かに、女神は、自称『神の使徒』からかなり遠くの世界にはいたのである。

一旦、手放したら手をつけることはできない。

そういう、神の見えざるルールが存在する。

男がどのようなことをしようが、口くらいはだせても、実力行使はできないのである。

口とは、夢枕に立つのである。


神の使徒は、天啓を受けた。

そう、まずは護衛問題である。

戦時には、南方資源輸送の船団の護衛について考えなければならないが、まずは自らの護衛が必要である。

つねに敵のエージェントが私を亡き者にしようと現れる。

如何に対処すべきかという問題である。


こうして、その問題を解決すべく私は旅行に出ることになる。

何故旅行にでるのか。

それは、護衛を雇う旅である。


場所は東京市であった。

勿論満一歳では、一人で旅をすることもできず。父と共に列車に揺られていく。

何故、東京市なのか、そしてなぜその人間なのかはわからないが、その人だった。


警視庁撃剣師範、山口一。彼の詳しい経歴は不明であるが、剣の腕は確かである。

そして、彼はもうすぐ警視庁を退職する。

その彼をスカウトするためはるばるやってきたのである。


鋭い眼光が私を貫くようだった。

「どうも初めまして、咲夜です。」

目の前の鋭い眼光に驚きの表情が浮かぶ。

「何か御用かな」

まだ、赤子も同然の身でありながらきちんとした口調で話すのに驚いたのであろう。

当然である。こちらは、体は赤子、頭脳はオタクなのだ。


「これからの日本の為にもう一度戦ってもらいたい」

「ふふふ、面白いことを言う、私がどれほどの戦いを潜り抜けてきたことか」その声には疲れがあり、眼は遠くを見ている。それはそうだろう。

彼は、常に死と共に生き抜いてきた本当の侍である。


「此れから日本が戦争に巻き込まれるのです」

「小僧、私は西南戦争でも刀を振るったのだぞ」

「そうでしょう、流石にお疲れですね、もう年ですもんね」

「いうてくれるの」

年の差は40歳以上ある。


「それほど戦う必要はないのですが、私は、さる機関から狙われておりまして、是非とも護衛になっていただきたいのです」

「何故に、私なのか」

「人を殺した経験があるからです」


向かいテーブルから殺気が吹き付けてくる。






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