第11話 筍(たけのこ)
011 筍(たけのこ)
夏が来た。
私は毎日忙しい。
各地の畑や山を巡り、神の力を振るわなくてはならない。
神の使徒の宿命である。
父の背負子には、もう慣れた。
父も、肉体改造が終えたようで、完全な肉体美を誇るようになった。
何の肉体改造?勿論、人殺しのためである。
いや、兵士である。
父は、18年式村田銃を装備している。
いよいよ、狩人として就職してくれるのだろう。
会社の方は、母が取り仕切ってくれているのでなんら問題はない。
母の会社では、小麦から小麦粉を製粉し、パンケーキを販売、大ヒットしている。
そして、第2弾として、フレンチフライを発売、仙台市を熱狂させる。
さらに、チップスフライを発売、食文化革命を起こす。
ジャガイモは、畑で大量に栽培されている。
種芋はただのため、取り放題だ。(種は無限に供給される。種芋すら食べることができる)
それに、いつでも、それを素早く栽培できる。
季節感も破壊している。
食品事業を大規模に展開するための工場の設置を計画している。
その母だが、会社経営の傍ら干し椎茸の販売も手ずから行っている。
別の店舗で売っているので、個人商店のように見える。
季節感を無視して、生椎茸と干し椎茸が並ぶ。
干し松茸は聞かないが、干し椎茸は重要な出汁のもと(調味料)である。
金持ちの家の食事には欠かせないものである。
「この季節になぜ椎茸があるのだろうね」いかにも金持ちという感じの男が現れた。
この店舗は、我が家の前面にある。小屋のようなものである。
「はい、それは採れるからですね」母は気のいい人である。
しかし、椎茸は夏には採れない。
勿論人工栽培の場合は、違うだろうが、これはほぼ自然栽培である。
「しかし、お宅の竹藪は見事なものですな」
「ありがとうございます。いつのまにかできていたんですよ」これも本当の話だ。
実は、この家の周りには、竹藪はなかったのだ。
しかし、ある日を境に急にできていたのである。
「椎茸もいいが、筍はないのですか?」さすがに夏にはないだろう。
しかし、金持ちという人種は、訳の分からないことでも押し通そうとする。
「困りましたね、筍は売っておりません」
「あればこの椎茸の十倍出しますよ」と嫌味な笑みを浮かべる。
このように、人をおちょくっているのである。
椎茸は一山10円、100円出すといっているのである。
しかしないものはないのだ。
そもそも、旬ではないのだから当たり前だ。
「なるほど、筍が欲しいのですね」そこには、背負子に背負われた子供がいた。
背中なので見えないが。
金持ちはぎくりとした。
唐突に彼らは現れたからだ。
「ところで、全部買い取ってもらえるのですか?」
それは、椎茸の山のことであろうと金持ちは考えた。
「いいでしょう、筍があれば全部買いましょう、あればね」
「いえいえ、秘蔵の筍ですよ。よく隠していることに気づきましたね、ひょっとして、あなたは、エージェントですか」
そんなはずは無かろう。
父も母もはてな顔である。
筍を隠す必要がどこにあるだろうか。いや、ない。
「さあ、買い取ってもらいましょう、父上、鋤を用意してください。あ、今から掘りますので少しお待ちください」
ムキムキの筋肉で竹林を掘り始める父。
場所は、私が指定している。
神の使徒の力を舐めてはいけない。
ありったけの金をむしり取ってやる。
ここ掘れ、わんわん。
ここ掘れ、わんわん。
適当に次から次へと掘りだしていく。
まるで冗談のような風景であるが、全くの冗談である。
20本も掘り出せば、筍自体が大きいから20山になる。
「ざっと2000円いただきますね、椎茸は別料金になります。」
2000円といえば、現代の価値200万円である。
筍に200万円!
『明示』の金持ちは変わっている。
「嫌、一皿で」と金持ちが青くなりいったのだ。
その時、父が、スチャと鯉口を切る。
その手には、いつの間にか、『何も切ってない安綱』が握られている。
「払います、全部買います」冷や汗を流しながら、金を払っていく。
本当に、財布に金が入っていたようだ。
「ありがとうございます。筍がご入用の時は是非ともお声をおかけください」
こうして、冷やかしの金持ちは、放心した状態でフラフラと道を歩いて逃げ去っていった。
瓢箪から駒、鉄砲からは弾が飛び出るということだ。
何が起こるかわからないということである。
特に、この男に関われば、いつの間にか命の危険をさらされるという証である。
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