第15話 護謨

015 護謨ゴム


ゴムの樹液の生産が順調にいき始めた。

父親は、ついに秘められた無職ニートの力を発揮させる。


カーボンブラック、その他ケイ素などを混ぜたゴムタイヤの特許を次々と申請し始めるのであった。それらの特許は国際特許も同時に申請され認められることになる。

タイヤ特許は、タイヤの普及しない日本での貴重な収入源となっていく。


同時に、その特許を生かすために、自転車生産による、自家消費を行うことを決定する。

自転車製造のために工作機械が米国、独国より輸入されることになる。


当時の自転車は高級品である。

それを所有すると、課税されたのである。(自転車税)

今の人間からすると、自転車に税金がかかってたまるかと思われるかもしれないが、キチンと課税されている。

今も昔もとれるとこからとるという姿勢は終始一貫して清々しくさえ感じる今日この頃である。


その自転車、ゴムタイヤは使われていたが、ゴムそのもののタイヤだったのでとても乗り心地が悪いものであった。

それが改変されて、ゴムチューブを入れるようになり改善されたのである。

色も白系から黒になった。カーボンブラックの所為である。


兎のマークの入った『ラビットフット』タイヤが発売される。

しかし、自動車化されていない日本では、精々が自転車用タイヤしか需要がなかったのである。それゆえに、高級品の自転車の製造販売によりタイヤ需要を伸ばそうと画策したものである。と会社の経営計画には書かれている。


だが、自転車がはやるまえから、欧米では、自動車レースが行われており、『ラビットフット』は一部にタイヤを供給していた。そのチームが優勝したことは当然であった。

特許も含めて、その供給されたタイヤにはさらに進んだ技術が織り込まれていたからである。


それはもはや、ラジアルタイヤそのものであった。


自動車産業のない日本でタイヤ会社が隆盛するという奇妙な事態が発生していたが、国にはそのような事情を知る由もない。(外国でのタイヤ販売と特許収入で繁栄している)

収益を急激に増やす会社が東北に存在する程度の情報のみであった。


「護謨というのはさほど儲かるのか!」驚いた財閥系企業の幹部がそう述べた。

「では、我等もその護謨を栽培、販売しようではないか」

そのような模倣企業がでるのは仕方がなかったのかもしれない。

もともと、日本企業は真似るのがうまいのだ。


「ですが、護謨の木は南方でしか育たたないはずなのですが」

幹部の一人がそう続ける。


「品種改良したのではないか、うまくいけば栽培面積を増やして、国中の利益をすいあげるのだ」

「うまくいけばいいのですが」

「お前、種を売ってもらって来い」

「わかりました」

「お前は、仙台周辺の山林を買い占めて、植林の用意をせよ」

某商社の社長室ではそのような会話が行われ指示が飛んでいた。


そして、某商社の役員の一人が、咲夜家を訪れる。

「護謨の木の種を売っていただけるかな」かなり上から目線であった。

日本を代表する財閥系商社である。

さすがに、田舎の中小企業とは格が違う。


「はあ、どうでしょうか」それは応接室にいた、特許申請者たる父であり、役職社長である。

煮え切らない返事に、これではいかんとさらに目力を籠める役員。

その隣には、とんでもなく鋭い視線の若い男が立っている。


この時代、案外治安が悪く、暴力沙汰もよく起こったりする。

護衛は案外必要なのだ。

そして、もう一人子供が座っている。

「売らないというつもりですか」

売らないならば、英国がブラジルで行ったようなことをするつもりであり、そう命令されていた。(種を盗んで持ち帰るという素晴らしい作戦計画)


「売るのは良いでしょう、しかし、心根が汚いものが植えても、木は育ちませんよ」

子供が事も無げに言い放った。

「なんだと!この小僧は一体何を言っているのだ」商社役員は激怒する。

「失礼しました、家の息子です、口が過ぎたようです」

「どんな教育をしているのですか」


「はて、妙なことをおっしゃる。私は、心根が汚いものが植えても、木は育ちませんともうしあげただけですが、何をそんなに怒るのですか、私は、あなたの心根が汚いなどといった覚えはありませんよ、ひょっとして、汚いのですか」と手厳しく打ち返す。


「うっ!違う、綺麗に決まっているではないか」

「そうですか、ならば心おきなく売ることができます。もし生えなければ、あなたの心根が汚いということで何の問題もないわけですし」と好き放題に言い負かす。


クソ!好き勝手言いやがってと思いながらも売ってくれるというのでここは我慢をする役員であった。


「ところで、近くの山を買いあさっているようですね、そこに植える気ですか」

「何のことだかさっぱりわかりませんな」

「そうですか、まあ、良いでしょう。」


同じ種なので近くで栽培すれば問題ないと踏んでいるのである。


「どれほどいりますかな。これはそんじょそこらの種ではありません。女神の加護を受けた種なのです。英国がブラジルで行ったようなことはしておりません。神聖なる種なのです」


あるだけ買い取れと言われているが、これは仕方がない。おそらく、マレー辺りの木では育たないのだから、ここの木の種でなければ育つはずがないのだ。


「あるだけ買いましょう」

「本当にですか、神聖なる種ですからいくらでも出せますが」


こいつ頭がいかれてやがるのか!

既に、相当頭に来ていたが、怒鳴りたい衝動がさらに彼の中を駆け巡る。


だが、それは本当で使えばその分、次の日に補充されていたりするのである。






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