第73話 ワシントン軍縮会議
073 ワシントン軍縮会議
1922年(太正11年)
大戦中に急拡大した軍事費だったが、各国は、大戦景気の終わりで大不況に陥った。
戦火に包まれた国は、そもそも不況だった。
こうして、増えすぎた軍事費を削減するためにワシントン会議が開かれた。
主力艦保有率を米英5、日本3、フランス、イタリア1.67とすることが決定される。
日本は、反対したかったのだが、自国の経済も不況に陥り、減額せざるを得なかった。
そして、旧ロシア帝国とドイツ帝国の崩壊により、日英同盟が解消された。
これは、明らかに、これからの想定敵国は日本であることを暗示していた。
ニューギニア島の委任統治権は、まだ揉めており、これにより英国の心証が悪くなったのだという者もいるが、そうではない。米国が日本を英国から切り離したという方が正確である。
(この時点でも、日本の実質統治は続いていた。)
英国、オーストラリアは危機感をもっていたが、国力が疲弊しており、余裕がなかった。
それどころではなかったのである。
教祖は、この軍縮の比率まで新聞で予言していた。
そして、気にすることもなかった。
そもそも、今の日本に、米国と張り合う工業力などない。
一緒の数をつくろうとするのが端から間違っているのだ。
米国は両洋艦隊が必要になるため、半分も作れば問題ないはずである。
それくらい高を括っていたのである。
だからといって、何もしていないのではない。
造船の拠点を今必死に作っているのである。
問題は、X時点で彼らをうわまわればそれでよい。
そのためにも、新ロシアをうまく隠れ蓑にしなければならない。
新ロシアもソビエトもこの会議には呼ばれていない。つまり条約外ということだ。
逆に言うと今は、休戦しているだけでいつまた戦争を始めるかもしれないロシアは、軍備に力を入れねばならないのである。そこにつけ込む機会があるのだ。
1923年(太正12年)
軍縮条約の影響で、戦艦加賀、戦艦土佐が、新ロシアへと売却される。
新ロシアには、海軍がないのだ。
ロシア伯爵(例の男のこと)が話をもってきて、帝国海軍と話をつけた。
軍費が不足する海軍は、廃艦が決まっている戦艦を高価格で引き取ってくれると言うので、戦艦天城、戦艦赤城を空母改造する費用ができたことを大変喜んだ。
新ロシア、首都ウラジオストクは好景気だった。
大規模公共工事であるウラジオストク港拡張工事が、好景気を回していた。
そして、コルイマの鉱山やミール地方で始まったダイヤモンド鉱山の採掘がうまくいき、富が流れ込んできていたのだった。
そもそも、新ロシアに艦船が必要なのかは、疑問が残るところではあった。
誰が、船で攻めてくるのだろう。赤軍はほぼ、シベリア鉄道沿いにやってくるのではないだろうか?
黒海艦隊?これはほぼ全滅したか、多少鹵獲されたが、ウラジオストクまで攻めてくることはほぼ不可能に思われた。
大西洋艦隊?
これも実質全滅した。あっても、大遠征の末にウラジオストクを攻撃できるはずもない。
しかし、このドナドナ戦艦には、空母改装が行なわれる。
一体誰と戦うのだろうか?
そんなことは、誰も気にしていない。
空母改装すれば、又金が落ちるではないか!
ウラ~、ザ ズダローヴィエ!(乾杯~~!)
彼等は細かいことを気にする民族ではない。
そして、機嫌よくウォッカを飲めれば今日を暮らしていけるのである。
十六夜造船の技師たちは、ウラジオストクに集めたられた。
彼等は、もともと日本の造船企業で働いていた人々である。
不況は、造船業界にも激しく及んでいる。
「あなたは、神を信じますか?」彼らはそう声を掛けられた。
あまりにも怪しい声かけである。
「あなたの為に祈らせてください」
彼等はそういった。
「いえ、結構です」
「しかし、職がないと大変でしょう」
自分が職を失ったことを知られていた。
「我々は、『神の子』たる教祖様の為に動いている者です、決して怪しいものではありません」あまりにも怪しい男達だが、恰好は、背広で革靴と大変裕福そうに見える。
「我等が月の女神を信仰し、神の子を崇めれば、あなたはすぐに職を得られます」
そうして、高額の月給(彼らにとって)を提示される。
何故、このような個人的な情報まで入ってくるのか、それは、特高警察が関係する。
どこの造船会社にも、左翼がおり、労働争議を狙っているので、彼らは、マークしているのだ。
そうして、潰れた、あるいは潰れそうな造船会社の労働者を知ることができるという次第である。
情報漏洩、守秘義務違反?そのようなものはまだないのだ。
個人情報保護法?現代でもあなたの情報は本当に守られているのか、よく確かめてほしい。きっと、売られていると思う。
情報提供の代わりに、教団側は、特高の始末してほしい赤や敵を抹消したりして、ウィンウィンの関係を築いている。
今や八咫烏師団や教団の影響力は、特高警察の内部にも浸透している。
巨額の賄賂が横行しているからだった。
それは、さておき、いつの間にか『十六夜造船』が設立され、新ロシア政府から仕事を受けて、戦艦の空母改装が始まる。
新ロシアには、是非とも空母が必要であったのであろう。
恐らく未成戦艦を戦艦として完成させた方が遥かに使いどころが有るはずだが、そのような事は一顧だにされることは無い。
空母が必要だからだ。その男にとっては。
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