第74話 暗躍する男
074 暗躍する男
ウラジオストク軍港、新造船ドック。
このドックは大型船用ドックである。
近ごろ巨費を投じて完成された。
全長350mの船渠であった。
未だ、300m越えの戦艦はこの世に存在しない。
戦艦加賀の全長は、230mほどである。
隣にも同様の巨大ドックが並んでいる。
戦艦土佐は加賀型戦艦として建造されていたため、同様に全長230mほどである。
新ロシアから注文を受けた十六夜造船が改修工事に取り掛かる。
「上部構造は取り敢えず全部取っ払って」
空母改修のため、上部構造を全部取っ払うようだ。
「今度は、切るぞ」上部構造物を完全に撤去された艦は、今度は半分に切断された。
日本の技師だけではとてもできそうにない工事だが、ここではロシア人技師も多くおり、この難工事で活躍している。
船体延長工事をおこなうのだ。
50mの長さを延長する。さすがに、接続部分は鋲接である。
この改修工事では、できるだけ溶接を使うことが奨励されていた。
工数削減と工期短縮、重量軽減、技術向上のためである。
天の声は絶対であり、逆らうことなどありえない。
ここの若い技師たちは、帝国大学を卒業した優秀な人材である。
そして、神教に奉じていた。神教の孤児たちのなかでも、成績優秀者は、大学に送り込まれる。どこかで、きいたような話だが、東京、大阪、東北帝大で学んできた卒業生が多い。
その他にも神教の若者たちは、テスラやディーゼル、シコルスキー社でも働いている。
何れは、その社をしょって立つような人材になるに違いなかった。
空母は船体を延長、その他にも、全体的に幅を2mほど広げるためのバルジを増設する。
全幅は32mであったが、このバルジ増設により、全幅が34mになる。
飛行甲板は、当然全通甲板にである。
艦橋は、まだ完成していないが、アイランド型であり、同時に煙突も並んで配置されることになる。煙突は外側に傾斜することになるだろう。
さらにアングルドデッキも作られる予定である。
世の中が、三段空母をつくろうと奮闘しているところ、全く意に介することなく、自分たちの理想を追っている。
それどころか、発艦用の油圧カタパルトが仙台で研究されている。
天才テスラの兄で、我が弟、玉兎(テスラの兄の魂もっている)が弟ニコラと研究している。
これが完成すれば、風上に向かわずとも発艦できるようなる。
そして、アングルドデッキでは、着艦を同時に行うことができるのだ。
まあ、飛行甲板が長いので戦闘機ならば難無く発艦できるだろうが。
エレベータは、3基全てが舷側に備えられる。
船員?そうなのだ、船員は、今、練習しているに違いない。
神教1000万信者の1%を動員しても10万人が動くのだ。
多くの健康な若者たちは、いずれ空母に乗るために、日本中の商船に乗り込んで鍛えられている。中には、海軍兵学校に入っているものもいる。
だが、まだ空母の完成には時間がかかるだろう、まさに大手術だ。
それに、タイムXまではまだかなり時間がある。
恐らく、この船は、練習艦になるのではないだろうか。
空母への改修は、これからもまだまだ続くのだ。
改修後の空母は、勿論、『ロシア太平洋艦隊』所属艦である。
軍縮条約はまだまだ始まったばかりだ。
不況が原因だが、結局不況を打破するために、誰かが爆発するあるいは爆発するように誘導される。(不況を打破するためには、戦争が必要になるということだ。)
今回の場合、ドイツが巨額負債に押しつぶされるところで爆発する。
既に、トリガーは用意されているのだ。
後は、いつそれを引く、引かすのかという問題だけだった。
条約外の国は、基本自由に建艦にいそしんでも問題ないはずだ。
何度もいうが、この新ロシアは、ソビエトと休戦しているに過ぎない危険な立場の国である。
それゆえ、生き残るために軍備拡張を行っているのだ。
そう、たとえ海に敵がいなくても備えねばならないのだ。
1923年(太正12年)
本来、加賀は土佐とともに廃艦となる運命だったが、急遽空母に転換されることになる。
何故なのか?それは、本来改修空母となる運命にあった巡洋戦艦天城が、悲運に晒されるためである。関東大震災が発生し、ドックの盤木が砕けて、天城は落下、竜骨を痛めてしまったのである。これにより、改修不能と判断され、廃艦となる。
本来は、空母天城、空母赤城となるはずだったのだ。
どちらも山の名前で、統一されている。
加賀は、国の名前である。
加賀型の土佐も国の名前である。
だが、今の現状ではどうなってしまうのだろうか。
すでに、加賀は売却されていなかった。それどころか土佐すらもいなかったのだ。
どうなる日本、どうする日本。
まあ、赤城がいるからいいか。
しかし、男もただ見物してわけではなかった。
流石に知っていては、大惨事になるのを少しでも防ごうと思い、手は打った。
まず初めに、9月1日は、臣民防災の日に認定される。
これは、昨年法制化された。
9月1日には、台風などの自然災害に対して訓練を行うことが義務付けられた。
突如発生した防災の日である。元老伊藤博文が諮問し、天皇が認め、原内閣総理大臣が議決した。
そして、9月1日、東京大訓練が行われる。
訓練中は、火の使用を一切禁止し、訓練場所で作る、災害訓練の炊き出しなどを食べることになっていた。
そのためにあちこちの空き地が利用され、皆が集められていた。
訓練は昼まで続き、その後炊き出しが行なわれることになっていた。
そして、ようやく訓練も終わるころ、猛烈な縦揺れが帝都を襲った。
立っていることも不可能な揺れが広場の人々を恐怖のどん底にたたき落とした。
遠く、家々が潰れて、土煙を巻き起こしているのが見えた。
しかし、訓練に多くの人々が参加していたため、被害は家屋の完全破壊などにとどまり、火災はほとんど発生しなかった。
けが人死者もいたが、史実よりもはるかに少ないものだった。
僥倖というべきものである。
某新聞では、この人々を救った政策を推し進めたのは、教祖であると、大々的に写真載せていた。
だから、この写真は誰のものなのだ。
件の男は首をかしげるのであった。
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