第72話 影の教祖
072 影の教祖
私は、結婚(通算2度)もし子供も生まれたが、おそらく人々は知らない。
私の生活の実態を。
ロシア皇国(通称新ロシア)内では、アレクセイ皇帝の姉の婿で伯爵であり、日本国の外交官付き武官で1児の父であった。
そして日本では、仙台に実家があり、日本人の嫁(何処かから遣わされた)と両親(おそらく血はつながっていな)と弟(魂が、ニコラ・テスラの兄ダンのもの)がいる普通の軍人で1児の父である。
決して望んでもいない二重生活というのであろうか。
ロシア人嫁は、娘を産んだので、皇帝位簒奪は遠のいてしまっただろう。
日本人?嫁は息子を産んだので、安全な国に疎開させたい。息子には危険な軍人などにはなってほしくない。
私?、私に危険があろうはずがない。神の子であるぞ!ロシア人嫁の無双武器さえなければな!
しかし、ロシア伯爵になってしまったことが、私の出世コースを大きくゆがめてしまった。
皇帝の娘の婿という微妙な立場であるため、艦船に乗務して長く航海することが難しくなった。どうしてもデスクワーク中心の部門で働くことにならざるを得なかった。
太陽と潮風に焼かれた海の男からは、程遠い官僚のような職場である。
嗚呼、立派な海の男になりたかったのだが・・・。(勿論、嘘である。この男は艦隊勤務など望んでいない)
それでも海軍大学には進んだ。当然だ、私は、ハンモックナンバー1番なのだから。
私が前に進まないと、皆が進めない。
まあ、頭が良いと自慢するのは流石に気が引ける。
一番頭がよかったのは、井上君だ。私には、彼の答案がわかったのだ。
だから、井上君に負けることは無かったのだ。
ただし勉強以外では、圧倒していた。
そして、この年には、二つの暗殺事件を見事に阻止して見せた。
安田善次郎暗殺事件(財閥当主。未遂に終わる)、原敬暗殺事件(内閣総理大臣。未遂に終わる)。
安田氏の暗殺事件は世間に大きな反響を与えることになる。(成功してたならば)
貧富の格差こそが社会を閉塞させており、それらを一人占めにしている男を誅殺したのであると、某新聞社などが囃し立てたという。
暗殺犯は当時英雄視されたという。新聞のお蔭である。
しかし、実際には、安田は東大の安田講堂などでもわかるように、富の一部を寄付していたのである。
だが、世間は、閉塞感を打破するためには、暗殺も辞さないという姿勢にも寛容な態度をとることになる。それが、原敬暗殺、226事件へと波及していったといわれている。
我々、日月神教はそのような事は、決して認めない正義の集団である。
断固として、テロリズムと戦うのであった。
安田を見事に救出し、犯人を射殺。
原を救出し、犯人を射殺。
その後、安田氏からは、お礼として多額の寄付をいただいた。
原首相からは、何かと優遇してもらえることになったが、利益のために行動したのでは決してなかったのである。
正義の教団として、テロリズムと戦い、テロリズムを排斥したのである。
恩人として、利益を得るための行動では決してない。
お蔭で、安田銀行から簡単に融資を受けることが可能になったり、特高警察の機密情報を漏らしてもらえたりするようになったのは、偶然である。
特に、特高警察の恩恵は格別で、国税局が我が神教を狙い撃とうとしていたところをその圧力に阻止することが可能になったのであった。
まあ、国税局が本気で来た場合は、担当官の数名が行方不明になったりしたとは思うが。
何もなくて本当によかった。この世界で、一キロ先からの狙撃で死んだ場合、犯人逮捕はほぼ不可能であろう。
そういう危険な局面は去ったのである。
我が神教はすでに不滅の存在になっていたが、世間は大戦景気後の戦後不況に突入していた。故に、先述の暗殺事件などが発生する温床となったのである。
不況に突入したわけだが、我が関係会社は、見事に株を売り抜けている。
神の子の力は、戦争の終結を見通していたのである。
これらの事実は、『日月新聞』に掲載されている。
月刊新聞である。世界の公称1,000万信者のための新聞である。
神の教えと教祖の実績が過剰に盛られて書かれているが、多くの信者は不信を抱いたりしない。
この宗教の特性は、現世利益追求にあるからだ。
至極簡単である。寄進すれば豊作、辞めれば不作。
今や、その信者は、満州地域にも多い。
信者が増えれば神の力は増幅し、威力が増す。
信者が満州に増えれば、その地でも奇跡が起こるという具合である。
神は信心を糧に成長するのだ。
満州も気候的に厳しいところであるので、豊作は非常にありがたい土地となる。
利益が得られれば、その効果の噂の伝播は非常に早いのである。
だが、ロシアでは難しい。
そもそも、強力な宗教がすでに存在しているため、浸透しないからである。
その新聞には、1918年には、大戦が終結することは、予言されていた。
そして、その関連でロシア内戦に関しても予言されていた。
ソビエト側から休戦が申し出られると。
信者はそのような事はそれほど気にしていないが、作った側は予言が当たれば大きく宣伝するものである。
ロシア内戦は、予言通りソビエト側が休戦を申し入れてきた。
1920年の状態では、赤軍が圧倒的に優位だった。
数十万の将兵をつぎ込んで、攻勢をかけていたのだ。
新ロシアは防戦一方であった。もうあと少しで滅びるのではとさえ言われていた。
それを支えたのは、縦深陣地で徹底的に遅延戦闘をしていたおかげである。
ソビエト軍将校は、次々と狙撃で倒され赤軍は右往左往することが何度もあった。
それでも突撃を何度も敢行して死体の山を塹壕に築いた。
新ロシアは少ない兵で、しかも日本側の援軍もあり何とか持ちこたえたのである。
だが、それから風向きは大きく変わった。
大量の兵士を増員したソビエトは、農業を崩壊させた。
兵士とは、農民の事である。
そのために大飢饉が発生したのである。
已む無く、休戦を申し入れることになってしまった。
オムスクに赤軍新ロシア討伐軍の司令部を残し、各地農業に戻るため軍の大部分が解散された。
『神の子の予言はまたしても、正鵠を射た』新聞では、教祖の顔写真入りで大きく何度も取り上げられていた。しかし、その写真は私が知っている顔ですらなかった。
「これは一体誰の写真なのだ!」
謎は深まるばかりだった。
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