第77話 月読塔(ツクヨミタワー)
077 月読塔(ツクヨミタワー)
テスラ電気通信社でテレビジョンが開発されてはじめたころ、世間では、東京六大学野球が隆盛して人気を博していた。
このころ、東京帝国大学が参加し六大学になったそうである。
そして、その影響でラジオの販売が好調になっていったという。
ラジオはさておき、テレビは東京六大学野球をテレビ放送するためにも開発が急がれた。
しかし、テレビを放送するためには、電波塔が必要になる。
そしてそれは東京市芝区に建てられることになる。
『東京月読塔』高さ333mという途方もない大きさのものであった。
このような施設を誰が建設するのか。
そう、それは『飛兎竜文』社という聞いたこともない名前の会社であった。
東北の会社らしい。しかし一体何のために?人々はそう考えた。そもそも人々はそれがそのように聳え立つような塔になるとは知らなかった。そして、知らされなかった。今ならば、必ず日照権やその他の環境問題で大反対必至である。
勿論、その塔の本当の目的は、首都防衛のためのレーダーサイトである。
しかし、偽装するためにテレビ塔であると喧伝されたのである。
そして、後に、テレビ放送もちゃんと流される。
東京六大学野球も流されるようになる。
しかし、メインの放送番組は、胡散臭い宗教の番組がおおかった。
日曜の朝などに某宗教の番組などが存在するが、それに近い内容だった。
全く人気がでなかったことは言うまでもない。
・・・・・・・
満州では、リヒトホーフェンとその一団が、神教の少年や青年に航空技術を教えていた。
彼等は、生き返ったマンフレートとその家族、関係者たちであった。
ドイツは大変な不況になることを予言され、この地に逃れてきた。
そして、実際にドイツはハイパーインフレで苦しい状況に追い込まれていた。
彼等は、ドイツ軍のエースパイロットであったため、飛行技術を教えることで豊かな生活を約束されていた。
マンフレート・リヒトホーフェン
ロタール・リヒトホーフェン
テオドール・オステルカンプ
エルンスト・ウーデッド
第一次大戦で著名なドイツ空軍のエースパイロットである。
ドイツ空軍の優れたところは、整備士に対する尊敬の念をもっていたことである。
苦しい戦いの中でも、飛行機を飛ばせるのは、整備士が一生懸命に整備しているからである。
彼等は、撤退の時には、整備士を自分の飛行機の空間に押し込めて撤退したくらい深い付き合いであった。
整備士たちも、神教の少年・青年に整備技術を伝授していた。
誰もが、飛行士になれる訳ではないが、整備士にならばなれる。
そして、飛行士自身も、機の調子などを確認するのは、当たり前に出来ねばならないのだ。
飛行機自体は進化するが、その事については、同じである。
故に、神教の飛行士たちは、整備士に敬意をもって対する。
後に、エースには、専属の整備士がつくようになる。
彼等は一心同体の関係性を持つようになっていくのである。
満州の空には、今日も複葉機が飛んでいる。
それらの機は、米英伊からの輸入品である。
そこに、久しぶりに姿をみせた男がいた。
「グーテンターク」流暢にドイツ語で語る男。この男は何故か各国の言葉を自国語のように話すことができる。
この男が、ロシア王家を救いだして、その娘と結婚したのは知られている。
というか、その結婚式には、ここにいるもの全てが呼ばれていた。
その時は、ロシア語を話していた。
「やあ、伯爵閣下」つきあいが長いのでフランクである。
「やあ、マンフレート、久しぶりですね、相変わらず年を取った感じなしっと」
男はメモを書き込んだ。
「伯爵なんて柄ではないので、普通にお願いします」
まあ、相手は本物のドイツの男爵様であった。
「珍しいね、ここまで来るなんて」ここは満州地方奉天市の郊外である。
数本の滑走路と格納庫などが林立する、軍の施設のようでもあった。
「ああ、実はお願いがあってきました」そう、今日も願いを心の中に満載しているのだ。
「なるほど、じゃあ、校長室で聞こうか」
「承知した」
校長室には、マンフレート、弟ロター、テオが集まった。
「ウーデッドさんはいないのですか」
「ああ、奴はどうにかならんかね、仕事をきっちりするということを知らん。というか女に入れあげている。雇い主の君から、厳しくたしなめてやってくれないか」
他の2人も頷いている。
ここにいる三人は、日本人と結婚している。
しかし、ウーデッドだけはそうしていない。自由といえば自由なのだ。
「祖国に戻りたいのかもしれないですね」
「そうなのかな」
「ただ、飲んだくれてるだけじゃないか」
「丁度いいかもしれません。実はドイツに関連するお願いだったのです」
「そうなのかい、軍関係?」
「そうです」
「じゃあ、明日酒を抜いて出頭するように命令しておくよ」
「わかりました。じゃあ、私も今日は空の勉強をさせていただいてもいいですか」
「私の後ろに乗せてあげるよ」
こうして、訓練機の後ろ側に乗せてもらい、空の散歩を楽しむのだった。
翌日、疲れた顔のウーデッドが応接間に現れた。
生活が荒れているのが見えるようだった。
彼もまた、ドイツ軍のエースだった。それに航空技術にも精通している。
戦後、飛行機乗りは不用になるため、なんらかの仕事を探していたが、リヒトホーフェンに声をかけてもらったので、満州に移り住んだのだった。
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