第78話 ルフトバッフェのエース
078 ルフトバッフェのエース
ウーデッドは、かなりやさぐれていた。
「閣下、昨日は失礼しました」
「いえ、問題ありませんよ。ところで、かなりお疲れのように見えますが」
「はい、実は色々とありまして」
話を聞くと、女に入れあげていたが、どうやら騙されて金を持ち逃げされた。
しかも、女名義の借金まで背負わされているとのことだった。
そして、街のヤクザ者におわれているらしい。
「なるほど、簡単に言うと、このままではまずい、高飛びしたいというところですか」
「まさにおっしゃる通りでして」
「丁度よかったです、実は、誰かにドイツ本国に帰っていただいて商談をまとめてほしいと思っていたのですが、ドイツも厳しい状態なので、お願いしづらかったのです」
「私が行きましょう、軍の関係者に知り合いもいますので、」ウーデッドは、夜逃げを考えていたが、今まで世話になっていたので言い出しにくかったのである。
地獄に仏とはまさにこのことである。
「大変結構です、勿論報酬も用意しましょう、ウーデッドさんは、この商談後はどうされますか」
「はい、申し上げにくいですが、もう、この地はこりごりです」
「なるほど、わかりました。では、本国に帰還後は、我が航空学校の宣伝をして、若い有望な人材のスカウトをお願いします。スカウトに成功すれば、成功報酬を支払いましょう。それと、これから、我が国とドイツの架け橋になっていただきたい」
「わかりました、優秀な子供をスカウトしましょう、ドイツ軍には、ルーデンドルフがいるので、話を纏めて見せます」
後に、空軍元帥になるルーデンドルフは、リヒトホーフェン大隊のリヒトホーフェン没後の隊長である。まあ、その死んで伝説の部隊名になった後に、生き返った人間もいるわけだが。
因みにルーデンドルフもエースパイロットである。
だが、優秀な子供をこちらに送れば、ドイツ空軍が弱くなりそうなものだが、それでよいのだろうか。
彼は自分の欲望に忠実だったのである。
「話というのは、ドイツのクルップ社が、スウェーデンで開発している、ボフォース社の88mm対空砲のことになります」
「何ですか?」まさに、奇妙な話がさく裂していた。
現在、ドイツで武器の開発などはできない状態(ジュネーブ条約の制約下に置かれており厳しい監視体制にある)である。
そこで、ドイツの武器資本のクルップが資本関係のあるスウェーデンのボフォース社で隠れて新兵器を開発しているということなのである。
「何とかして、これを輸入したいのです。わが社には、銃器部門は存在するのですが、重砲部門は存在しません。何とかしてテコ入れしたいと考えているのです」
銃器は、ブローニング社が手を貸してくれている。というかほぼ、飲み込んだような形になっている。
現在のブローニングの銃砲には、全て兎のマークが刻印されている。
「輸入ということですか」
「そうです、輸入は勿論、ライセンス生産も行いたい、金は充分にだすので、技術移転をお願いしたいのです」
金については、その金満ぶりは皆の知るところとなっている。
男が、ロシア帝国の財産の一部を手に入れたことは、噂で漏れ聞いている。
それ以外にも、大戦景気で莫大な富を得ていることは知る人ぞ知る真実である。
「ということは、この話を纏めれば、私にも報酬が?」
「勿論です、何とかまとめてほしい、それに活動資金も十分用意しましよう」
「ありがとうございます。」ウーデッドは縋りつかんばかりに喜色満面である。
ドイツ国内では、ヒトラーが率いるドイツ国民社会主義労働者党(ナチス)がいよいよ台頭しようとしていた。
そして、その幹部には、ルーデンドルフがいた。
今のウーデッドならば、話を纏められるだろう。
こちら側としては、ボフォースの技術移転はどうしても欲しいもの一つであった。
史実では、ボフォース 60口径40mm機関砲は対空砲の定番である。改修される空母には是非とも必要なのである。
その前段として88mm砲である、こちらも優秀砲である。
さすがに、休戦中のソビエトを渡って日本にくることはできないが、こちらには、いくらでも貨物船が存在する。それで輸入すればよい。
大戦景気にかけて建造し、利益を上げて造船価格の償却はすでに終わっている貨物船である。
景気から不況に変わったことでかなりの海運会社が潰れ、財閥系以外はかなりの海運会社が倒産の憂き目にあったが、引き際がわかっているためそのような結果にはならなかった。
それに、海運や造船業は、いずれにしても、戦争に必要になるものなのだ。
巨万の富を確保したわが社が気に病むことはない。
そして、今それらの船は、いろいろな物を輸入している。
例えばT型フォードなどである。
T型フォードは大量生産の行きつくところまで達していた。
あまりにも大量生産され過ぎて価格破壊が発生し、とんでもなく安い値段で売られていた。290ドル(現代の価値で60万円)である。
日本では、まだそれほど普及していない自動車が、新車でこの価格、中古であればさらに安い。分解してドンドン船倉に詰めて送ってくる。そして、日本で組み立てれば、自動車になる。
日本の自動車産業は未だ発展していない。(モータリゼーションの未熟)
トラック部門は、わが社(ディーゼルエンジン社)が強力に推進している。
話は戻るが、活動資金で早速借金を完済したウーデッドは、喜び勇んで、故国ドイツへと舞い戻っていった。
「あいつ、活動資金で自分の借金を返していきましたよ」とマンフレートがすまなさそうな表情をする。
「全然、問題ありません。しかし、少し心配です」
「どういうことでしょうか」
「彼は、ナチスの深みに嵌ると不幸な死が待っていると私の占いにでているのです」
「え?」
「どうやら、牛乳の飲みすぎで危険になるというような暗示でした」
「食あたりですか、それなら大丈夫です、奴は面の皮も厚いが胃もすこぶる丈夫ですよ」
マンフレートはその話を軽く笑い飛ばした。
因みにドイツ語では、牛乳をミルヒというのだ。
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