第76話 日本の風習

076 日本の風習


テスラ電気通信株式会社。

宮城県仙台市に本社を置く非上場会社である。


この会社は、ニコラ・テスラが創業したものである(とされていた)。

このころは、ラジオ、真空管、着火プラグ(自動車部品)の製造販売を行っている。

彼は、若いころから精神失調に苦しんでいたが、近年は極めて良好で、普通の人間には見えないものが見えたり、聞こえないものが聞こえるようなことはなくなった。


何故なら、その原因となった兄が、現世に復活したからである。

その代わり、兄だが、自分よりもかなり年下である。

しかし、面差しはそっくりで、兄弟のように見える。(そう思っているのはニコラだけだった)

確かに顔がそっくりだったので、世間では、隠し子ではないかと口さがない連中は言っているのだった。


その噂で不倫相手となっているのは、兄(ダン)の兄(玄兎)である『神の使徒』の母である。

勿論そんな畏れ多いことをするわけがない。


兄は、墓場から掘り出されてしたのだ。

聖書では、するときするという。

まあ、兄だけが復活したので、神の復活ではないだろうが、それに近しい存在が、あのお方である。兄の兄だけに自分の兄でもある。(と論理的に詰められた)

血縁関係にはないが。


そんな時、(神の使徒)が遣ってきた。

本社といってもただの建物である。彼らの家のすぐそばに借りている借り家である。

「やあ、ニコラ元気はどうだい」

「ええ、問題ありません」

「ところで、僕は近ごろ結婚したのだが、君はいいのかい?」

日本に来た頃は、やたらと日本人嫁を紹介されたが、断り続けたので近ごろはそのような話はなかった。


彼は、海軍の将校で、最近結婚した。

「ええまあ、日本人は可愛いとは思いますが・・・」

「なるほど、ではロシア人はどうだい、これは内緒だが、2,3人娘がいるんだ。僕のに当たるから、義兄弟になるけど」


「ええと、あなたが結婚したのは、日本人だったと思いましたが」

ニコラも結婚式には呼ばれていたので、立ち会ったのだ。

あまり日本人らしくも見えなかったが、ロシア人ではなかったはずだ。

「ああ、君が言っているのは、日本人の嫁の事だろう。日本人は、では、と結婚し、ではと結婚するというが昔からあるんだよ」


「え!そうなんですか!」

聞いたことが無い習慣である。

しかし、自分も日本に詳しいわけではないので、否定することはできなかった。


「でも、これは日本人のひそかな習慣だから、ロシア人に教えてはいけないよ」

「今日は仲人の話なんですか」


「ああ、そうではなかった。妻子持ちになって苦労しているからどうしても君にも味わってほしいなと思って、ではなく、幸せのをしないといけないと思っただけだよ」


「別の話なんですよね」危険を感じ取って話を変えることにする。

「ああ、そうだった。実はニコラにお願いあります」この男は常に願いに満ちているのだ。


「なんですか」

「ああ、そろそろテレビジョンを作ったらどうかなと思ってね」

思いついたらできるようなものではないはずなのだ。


「ニコラは、東北大学の教授だろう?」そう彼は優秀さを買われ、大学の客員教授になっている。

「そうですが、だからといってテレビジョンとは何の関係もありませんよ」

「アンテナは八木教授に、ブラウン管の電子ビームは、岡部教授に、テレビそのものは、高柳先生(静岡在住)という方が研究している筈だから、やってみたら。でしょ」


興味がないと言えばうそになるが、別段開発したいと思っているわけでもない。

彼の専門は電気通信技術なのだ。そして、勿論、暇な訳でもないのだ。


「電波で、飛ばしてアンテナで受けて受像機に映す、君なら簡単でしょう」

人すらも生き返らせる男の簡単レベルは、レベルが違うようだった。


「ロシアにいる時も、玉兎をみたいんだよ」

ニコラの兄(の魂を宿した存在)でこの男(玄兎)の弟である。

流石に、宮城からウラジオストクにまで電波が届くわけがない。


なるほど、強力な電波の発信装置が必要になりそうだ。

受信アンテナも勿論、出力アンテナも強力なものが必要になる。

受像機は、今世界中で、研究されている。


早速、今出た人間、東北大学の連中に当たってみることにするか。

ニコラは頭に書き込んだ。彼は天才なので、すでにプランを練り始めていた。


「できれば、ツボルキン博士っていうのが、アメリカで研究しているから、金を積むから来いって誘ってほしい」因みにツヴォルキン博士はロシア人である。


ニコラは数か国語をマスターしているので、英語またはロシア語でツヴォルキン博士に手紙を書くことができた。

是非とも日本に来て、協力してくれと書いておく。

報酬は10万円(現在の一億に相当する)と書いておけと命じられたので、そう書いた。


撮像管を研究していたこの亡命ロシア人には是非とも来て欲しかった(男がである)からである。

こうしてテスラのテレビジョン研究がスタートする。


この一連のキャンペーンは、日本の電子技術の進歩を各段に促進するはずと黒い笑顔をする男がいた。

改造空母には、電探は必須の装備だった。

最低でも、3年で結果を出してほしいものだ。


報酬が10万円の高額と聞いて、返事がすぐに船便でやってきた。

「それだけの報酬ということだから、家族を連れてそちらに行ってもよいか?」という内容だった。

「勿論OKだ」と書こうとしたが、その時、天才ニコラは思い出した。


そういえば、日本の習慣では、日本でも嫁を貰わねばならないのではなかったかと。

そこで「もし、君が日本のになじんで仕事をするつもりなら、家族は取り敢えず合衆国においておいた方が良いだろう」と書くことにした。

なぜなら、日本人の嫁を貰う場合、流石に気まずいだろうからだ。

しかし、変わった習慣である。


自分には、とても馴染むことはできないなと考えるニコラだった。




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