第81話 ラビットホール
081 ラビットホール
軍縮会議全権若槻礼次郎は追い詰められていた。
内閣では、対米6割でも問題ないとふくめられていた。
しかし、海軍の随員は強硬に、自分たちの主張を会議で繰り広げる。
何故か、皆英語が達者でまくしたてる。
「何故、一等国たる我が帝国が、君らの国の比率より低いのだ。5大国として認めてくれたのではないのか!」
「そもそも、国力に大きな違いがあるであろう」
「確かに、英国よりも産業革命は後に起こったが、今や我が国は陽が昇る勢いで伸びているのだ」
「それに、作れんだろう」
「作れなければ、その時は、結果として8割でも、9割でも問題ない」
「軍縮条約にならないではないか」
「嫌、そうではない、米国が3万トン作るならば日本でも3万トン作る権利をくれといっているのだ。貴国がいうように、作れない場合は、こちらも自分の実力が足りなかったのだと納得するのだ」
三か月にも及ぶ激論が行なわれた。
すっきりしているのは海軍随員だけで他の人間は消耗しきっていた。
「君が日本の全権だろう、何とかしたまえ」
米英から圧迫される若槻たちだった。
会議では、対米8割まで下げられていた。
だが決して、それ以降は、認めなかった。
海軍随員がだ。
若槻は、随員に本国に8割でまとめて良いか問い合わさせる。
そもそも、この軍縮会議は、補助艦(巡洋艦、潜水艦)に対してものであった。
この電信は見事に諜報部門にキャッチされ、不承不承ながら、米国から7割5分で手を打とうと打診があり、決着することになる。
そして、帰りの汽車では、海軍随員たちは、これからの行く末を何夜もかけて話し合っていた。
ラビットホール作戦と名付けられた策略が動き出す。
ラビットホール作戦の概要は以下の通りである。
1.戦艦は、空母随伴用でなければならないこと。
2.所定の艦船は、ひそかに外国の造船所において、外国籍で建造すること。
3.所定の艦船が、ひそかに竣工するため、海軍乗組員を大幅に、増やさねばならないこと。
4.これからの艦隊決戦は航空戦であるため、搭乗員を大幅に増員する必要があること。
5.搭乗員を大幅に増加させるために、各地に搭乗員養成所を新設すること。
6.航空機の研究を大幅に進めること。
7.対空兵器の研究を大幅に進めること。
8.各員は、同志を常に募り増勢に努めること。
などである。
こうして、シベリア鉄道で話し合われた決起大会がおわった。
ここに、秘密結社『兎の穴』が結成されたのである。
長は、山本五十六少将である。
列車は、ウラジオストクに到着する。
ここで、山本達武官は軍縮会議出席者たちと別れる。
ウラジオストクは今や、新ロシアの首都である。
街並みも拡大されている。
日本人や満州人も多く行きかっている。
私は、ロシア軍の軍服に着替える。
そうすると、ロシア軍が優遇してくれるからである。
他の2人はなんともいいようのない顔つきをしている。
「まあ、これから行く場所は、特別機密になりますから、私がいないといけません、そのセットととでも考えてください」
T型フォードが走る。
米国から破格の値段で輸入した自動車である。
運転手は、神教の精鋭であり、周囲にも自動車やトラックが続く。
八咫烏師団の親衛隊である。
ここまで重厚な布陣にするには、意味がある。
ある種の民族が、私に強く恨みを抱いているのだという。
しかし、この街には、もうほとんどいないので安心であるはずなのだが。
軍港特別区。
ウラジオストク港の軍港。
新ロシア太平洋艦隊の拠点であるため、民間人は入ることができない。
ゲートが開かれていく。
各所に、機関銃が備えられ、軍用犬を携えた衛兵たちがパトロールしている。
中に入りしばらく走ると、嫌でも巨大な艦艇が見えてくる。
今や史上最強の空母となっているであろう、巨大な雄姿である。
「あれは!」山本少将も山口中佐も声も出ない。
全長300mの巨大空母。艦体延長工事を施し、284mまでのび、甲板はそれを越えて伸びているため、ほぼ全長300mとなっている。
「いったいこれは!」声もでない山本少将が、車から飛び出して、見上げた。
「凄い代物だ!」
だが、驚くのは、これからだ。
「登ってみましょう、上からなら違う景色が見えるでしょう」
「ああ、頼む」
そして、階段をくねりながら登っていく。
甲板上にでる。
「何だこれは!」
甲板の幅がとてつもなく広かったのである。(飛行甲板最大幅45m、艦幅38mかなり張り出して作られている)
山本は、空母『天城』『赤城』を見たことがあるが、こんなに広くなかった。
しかも、後ろのほうには、なぜか歪みが存在している。
「少将、あれは、アングルドデッキといって、着陸用に使う甲板です。この空母はこの前で発艦し、後ろのあの甲板で着陸することができるのです」
「そんなことが可能なのか」
「我が十六夜造船が精力を傾けて作ったものですので、それに向こうをご覧ください」
「ああ!」またしても声を挙げてしまった。
何と、同型艦の空母がもう一隻、港に接舷していたのである。
「閣下、感動しているところ申し訳ありませんが、これらは、ロシア太平洋艦隊所属艦ですので」
「なんだと~~」
彼等はその後も、全長330mの干ドックなどを見て回った。
山本は、工業力とはこういう物なのだとかつて駐在した米国の工業都市を思い出していた。
これらがあれば、戦えるのではないか!
そう感じ始めていたのである。
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