第82話 エリア51

082 エリア51


驚きと感動で、眼から汗を流した山本少将だったが、まだ、それは終わりではなかった。

まずは、新ロシア太平洋艦隊は、帝国海軍ではない。


咲夜大佐は、借りられると断言していたが、本当にそうなのだろうか?

しかし、彼はこうも言った。「乗組員が必要です。加賀型改造空母でも2隻。乗組員は4000人は必要です。さらに航空隊員、あれには、140機載せる計画なので、最低でも560人、予備も考えれば600人の搭乗員が必要になるのです」(戦闘機120機1名:艦攻40機3名:艦爆40機2名で計算)


「さらに言うと戦争を行うわけですから、兵士は死にます。それをも考慮すれば、膨大な数の搭乗員が必要になります。少将がそれらの増員を推し進めていただきたいのです」


「ムムム」さすがの山本もそこまでは考えていなかった。

そして、なぜこの男は私にこのようなことを言うのだろうと少し訝しくもあった。


しかし、ここまで見てしまえば、軍縮条約の比率など何の問題にもならないことははっきりとわかった。


今彼らは、別の鉄道で、奉天を目指している。

「咲夜大佐は、ウラジオストク駐在ではないのか?できれば、ウラジオストクから、新潟に帰りたかったが」

「そうでしたね、閣下は長岡の出身でしたね」

「よく知っているね」

「ええ、ですがもう少し見ていただきたいものがあるのです」

満州地方に行くとかえって遠回りになるのだ。


奉天駅からまたしても自動車で重厚に守られながら進む。

この男は、この地でも一部の民族から恨みを買っているらしい。

この地でも、ほとんどいなくなったが。


それに、この地には、中国の軍閥の武装勢力も存在する。

やはりそこにも、軍事基地ならではのゲートが存在した。

遠くから、航空機エンジンの甲高い音が聞こえてくる。


「ようこそエリア51へ」兵士がそういって迎えてくれる。

どう見ても、航空基地に見えるが、民間の航空学校である。

またしても、侵入防止を見張っている兵士たち。

物々しさは、ウラジオストクの軍港と何ら変わらない。


だが、中に入れば緊張感は全くない。

生徒たちが、あちこちで談笑していたりする。

航空基地ではなく、航空学校である。


「ここは、ドイツ空軍のエースパイロットが、飛行技術を教える学校になります」

「何と、民間でここまでのことをしているのかね」

設備は、海軍航空隊よりも進んでいそうだった。

滑走路には、アスファルト舗装がなされていた。

しかし、実戦での形式も必要であることから、土や草原での離発着訓練も行ってはいる。


「もし、よろしければ、ここの卒業生を教官にして日本各地の適正を持つ若者を教育させればどうでしょうか」開設から相当の期間が過ぎ去り、若鷲もベテラン鷲になっていた。

しかし、ここはあくまでも戦闘機パイロットの学校であった。


山本は、リヒトホーフェンやその仲間とあいさつを交わし、親交を交わす。

その後、ベテランの後ろに乗せてもらい体験飛行をこなす。

山口は模擬空中戦に、載せられて吐いていた。


「ここまで周到に用意しているとは、君は一体何者かね」

「人は私を『神の使徒』と呼びます、しかし、ここでは、秘密結社『兎の穴』の同志です」


「そうか、わかった。これから十分に備える必要があるというのだな」


その通りだった。戦争が起こらないなどありえなかった。

彼等は、それを待ち望んでいる。

そう彼らは、新しい見世物を望んでいるのだ。

たとえ、開戦を回避しようとどのような努力をしても必ず起こると断言できる。

いうなれば、それが運命なのだ!

演者がサボる芝居などは許されない。

悲喜劇を演じてこその芝居。彼らは人間が行なう芝居が大好きなのだ。


山本と山口、後の航空主兵思想の二人は、このエリア51を非常に楽しんだ。

しかし、戦死していくパイロットの補充問題にも大きく釘を刺された。

戦争が始まれば、兵士は次々と死んでいく。

その交代要員でも、パイロットのような特殊兵種では、それが大きな問題となる。

その問題は、いまから準備しても全く問題ないのだ。というか、今から取り掛かる必要がある。層の厚いパイロットが航空主兵思想では、絶対的に必要なのである。


何とかの七面鳥撃ちにならないように、戦争継続中は、訓練の行き届いたパイロットの準備が頭の痛い問題であった。


その後、釜山でも港湾を視察して旅は終了した。

「我が十六夜造船でお仕事お受けします」笑顔でお金マークを作る男を山本少将は苦々しく見た。

まさか、釜山にもこのような巨大なドックを作っているとは!


朝鮮半島における最大の資本投下場所である。

何れ、戦争で負けるとただで引き渡さなければならない?

そんなことは起こらない。


この男は、そんなことなら、全てを吹き飛ばす。

それに、返せと言ってくる人間が周囲には全くいないのである。


「閣下くれぐれも、大和級戦艦は、空母随伴能力が優先されるということを肝に銘じてください。」

「空母を作るべきだろう」

「空母だけで、戦闘できないでしょう、それに、戦艦はいつまでも男の浪漫なのです」

何れ建造される新型戦艦を『大和級』と言い張る男は、空を見上げる。

そして、極秘の設計図を回せと言っているのである。


国が造らなくても、私が造る!

人に頼るから、イライラしてしまう。

自分で勝手に造ればやきもきしなくてもよい。

男はそう考えていた。


山本は、この場の先任として、設計課の暴走を止める役目も追っていた。

軍縮条約の結果、条約級の巡洋艦などが作られることになるが、作れる排水量は決まっているため、一隻に無理やり、なんでも載せる設計が横行する。

しかし、それは、無理に無理を重ねるようなものであった。

後に大きな問題が発生するため、標準的な艦船の建造をすべきであると、いままで話あわれてきた。というか、この男に追い詰められていた。


第4艦隊事件を起こさぬように、山本少将の戦いが始まる。

私?忙しいので無理です~。男は、ひらひらと手を振って山本達の船を見送っていた。





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