第83話 世界大恐慌
083 世界大恐慌
1929年(照和4年)
それは起こる。
1920年代から米国は、大戦景気や国内需要の増大により、好況を博していた。
しかし、1927年には国内の住宅需要がピークに達していた。
あらゆるものが、バブルに陥っていたのである。
我らが、親愛なるロシア皇帝家からの分割支払いは順調に行われ、港湾整備や軍備拡張に金が泡のように消えていった。
当然、彼らも支払いをしたくなかったろう。自国の防衛のために金は湯水のように消えていく。今も消え続けている。
だが、自身の生殺与奪を握られているニコライ2世に選択肢などない。
それに、アレクセイ王の健康問題もこちらの手に握られている。
さらに、娘まで嫁に出している。
払わなければ、ありとあらゆる不幸がつめかけてきそうな予感をもっているのだろう。
全くその通りである。不幸とはそのようなものなのである。
幸いにして、戦艦大和艦隊建造計画のための資金も勿論残されていた。
ロシアから支払われた金は、日本円で1000億円にも上り、その資金の大半が消えていった。
それでも500億円は秘匿され、ニューヨーク株式市場に投じられていた。各種の擬態資本(偽の投資会社やペーパーカンパニーなど)に成りすまして投資されているので、発見は難しい。というか発見されないように擬態しているのである。
米国は他人の財産を勝手に凍結するのが好きなのだ。
日系移住者の財産を強制的に収奪して、返すことをしなかったことは犯罪である。
男はそれを知っていた。
一方、資金元の王家は、国土防衛のためにかなりの金を消費していたが、新鉱山(金、ダイヤ、石油など)から新しい資金を獲得していた。
それらの資金は、ある男の忠告により、やはりニューヨーク株式市場に投じられていた。
その頃の株価はバブルに踊り、1920年の頃よりもダウ平均で5倍にもなっていた。
簡単にいうと当初500億円は、現在2500億円もの価値をもっていたのである。
投資はその時点から始まっていたのである。
そして、1929年10月24日(ニューヨーク時間)一斉に売りが開始される。
何故この日が指定されたのかは不明だが、一説には、神の声であるとされている。
その忠告は、ロシア王家にも同様にされており、この日以降にもっていてはならないとされていた。(株式の大半は、やはり擬態された資本から投資されていた)
巨大な時限爆弾が爆発した爆発したようなものであった。
そして、その爆弾はダムの堰堤に仕掛けられていたのとおなじであった。
たちまち堰堤を吹き飛ばし、あふれ出した満水の水が洪水となり辺りを襲うようなものである。
連鎖して発生する売りが巨大な売りを呼ぶ展開になった。
あまりの売りの量に、売り気配に陥り、値がつかない。
現在の株式相場ではストップ安で取引停止処分が存在するが、このころにそのようなものはなかった。無限に落下する株価の中で、信用取引で株をやっていた投資家が数十名もビルから飛び降りた。ウォール街はまさに、阿鼻叫喚の地獄のような有様だった。
それは、史実で発生した株式下落よりもはるかに深刻な状態だった。
米国ユダヤ系金融も、国を守るために買いに回ったが、その激流を止めることはできず、飲み込まれてしまった。
こうして、ニューヨーク株式相場から発した金融恐慌が世界大恐慌を誘発したのである。
既に、英国、仏国などの戦勝国も不況に陥っていたが、米国までも不況に飲みこまれた。
ことここに至り、各国(戦勝国)は自国経済を防衛するため、ブロック経済を開始する。
各国には、まだ植民地もあり、自国経済圏を形成できたのである。
だが、ドイツはどうだったか。
そこには、すでに植民地はなく、猛烈な不況とインフレが国内で暴れ回っていった。
この事態が、ナチスの支持を急速に上昇させる引き金になっていった。
そして、日本もまた、小経済圏しか持ち合わせがなく、苦しい状態に置かれることになる。
だが、史実よりはましである。
新ロシアという国家が存在し、まだ多少の経済圏を保っていた。
しかし、当然それは小さく脆い、そして、列強各国のやり方のひどさを目の当たりにする。
それが、結局自国経済圏拡大の方策を探させるのだが、それは結局新植民地の獲得、つまり満州を植民地化して自国経済圏を拡張させるしかないという結論に至るのは、極自然な成り行きであった。
ブロックに入れてもらえなかった者は、結局自分で作るしかなかったということである。
世界は大戦後において、平和を希求したが、すでに、この時には自国の安寧のみ求めるようになっていたのである。
関東軍参謀部は勝手にシナリオを描き始めるのである。
ウラジオストクと新港湾都市だけは、未だに不況を知らなかった。
新港湾都市は、現在の朝鮮の釜山、羅津、清津、仙台、小樽などである。
ここに、十六夜造船がドックなどを建造していた。
港湾、干ドック、ガントリークレーン、倉庫群、石油備蓄タンクなど資本投資額は相当な額に登っているはずだった。財閥系の商社からは、そんなドックを作ってどうするつもりなのかと冷笑されていた。
不況で、造船需要などあるわけがないのである。
しかし、十六夜造船には、金があった。あり過ぎた。
景気などに関心をよせるつもりもなかったのである。
彼等は、指導者に従うのみである。
「頭がおかしいんだよ」
そう、おかしいのだ。
採算など初めから考えてはいない。
考える必要すらないのだ。儲けはそこにすでに存在しているのだから。
世界不況のために、物資の価格も暴落したが、貨物船が大量に派遣され鉱物資源を満載して帰港してくるのだ。
これから大量に必要になる資源を今買いつけておかねば、いずれは禁輸措置で買うこともできなくなるではないかと。
倉庫群は、大量の資源であふれんばかりに満ちていくことになる。
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