第112話 開戦・真珠湾強襲

112 開戦・真珠湾強襲


瞑想する男の恐るべき力で、猛烈に上昇していくロケットの舳先を少し押されるだけで、着弾地点は大きく変わる。

彼我の距離は400kmである。その上昇途中で少し押されるだけで大きく落下地点が変化する。瞑想している男には、その力によって、落下予想地点までもが脳内地図で参照できた。次々と落下地点を微修正する男、もはや彼は人間ではないのもしれない。(本人へジェダ〇の騎士のようだと考えているが、本当は、暗黒面の人に近い精神構造である)


音速をはるかに超えるロケットが恐ろしい音を立てながら落下してくる。

その時、基地飛行場では、警戒態勢が一段上がり、防空戦闘機の離陸準備が行なわれている真っ最中である。


ドッカ~ン!爆風が容赦なく、吹き付ける。

死の鉄片が戦闘機の機体を容赦なく貫いていく。

満タンのガソリンに火がついてさらに爆発する。

さらに、次々と何かが落下してくる。


ハンガーに直撃したロケットがさく裂した。

パイロットも整備員も格差はなかった。

平等になぎ倒される。


死の嵐が吹き荒れる。

運よく生き延びたのは、対空陣地の中にいた連中しかいなかった。


オアフ島には、いくつかの航空基地が存在するが、そのいずれにもロケットが降り注ぐ。

夜闇に炎が激しく立ち昇り辺りを照らす。


フォード島基地の滑走路にも炎と黒煙が立ち昇っている。


キンメルは愕然としていた。

この攻撃の正体が何かがわからなかったし、いきなり爆発したのだ。

「これは一体なんだ!」

まだ敵機の襲来は告げられていない。

オアフ島にはすでにレーダーが配備されている。

レーダーサイトからは何も通報は来ていないのだ。


艦砲ならばすでに海岸から水平線に敵艦隊を見て居なければならない。

一体どういうことだ!

混乱するばかりの司令部だったが、その建物にもロケットが降り注いだのだ。

一トンの爆薬は建物の中で爆発した。

地下への退去を進めようとしていた参謀ごと司令部員は吹き飛んだ。


戦艦アリゾナの艦橋にいたキッド少将は、司令部の近くが大爆発したとの報告を受ける。

「なんだと、司令部が!直ちに出港する、敵艦隊の砲撃に違いない!各艦に通達せよ」

「は!」

こうして、真珠湾の艦船は出港準備のために急速にボイラーを焚き始めたのである。


防空レーダーが敵の大部隊を発見した。

しかし、報告すべき司令部はそのほとんどが吹き飛んでおり、報告のしようがない状態であった。


既に、帝国海軍の空母艦載機の第一波が接近していたのである。

そして、迎撃準備をしていた航空基地には、複数の爆発が発生しており、多くの戦闘機が破壊されていた。


闇を切り裂きながら低空で飛行する第7艦隊所属の戦闘航空団。

「こちらJG71リーダ―の山口だ、敵は新型噴進弾により攪乱されている筈だ、戦闘機隊は、迎撃機を確実に始末しろ、艦爆、艦攻隊は慌てる必要はない。こちらが始末してから仕事に掛かれ、機銃座は噴進弾を使って始末しろ、以上」

「「「「「了解」」」」」」

「JG72了解」

「JG73了解」

「JG75了解」

各空母の飛行隊のリーダーもJG71(第71戦闘航空団)に従うことになっている。

第7艦隊の空母には、カタパルトが装着されているため全機(592機)の全力攻撃である。


一方、帝国海軍航空隊は400機あまりの第一波である。

戦闘機紫電改の翼下には6発の5インチロケットが装着されている。

(帝国海軍の空母艦載機は零戦であり、ロケットも積んでいない)


V2ロケットは液体燃料式の構造のため製造は難しいが、こちらのロケットは固体燃料式であるため製造はたやすく安くできあがった。

某ロシア皇国では、ロケット弾を大量に生産していた。

これも、全てドイツ人技師達のお蔭である。


極めてロケット研究が進んでいるのである。


真っ暗闇の中であるが、ロケット弾の爆発でオアフ島の影が映し出されている。

もはや迷うことすらない。

勿論、天測航法も十分に訓練されていたが。


真珠湾の艦船は皆無事であった。

何とか罐の圧力が上がり動き始めることが可能となった。

これから湾外に脱出しなければならないのだ。


夜が開け始める。

フォード島基地の戦闘機が数機、舞い上がっている。


山影から敵機の大編隊が出現する。

「対空砲火急げ!」

湾内では速度を上げることはできないし、回避行動も不可能である。


バンバンバン、緩慢にも思える対空砲火だが、低空侵入している航空隊には効果を発揮できない。

機銃で銃撃するが、このでは圧倒的力をもっていたブローニング重機関銃が米国では装備されていなかった。米国への銃機関銃輸出は、法令で厳しき規制されていた。(外国為替及び外国貿易法により、第三国特に米国や西欧列強への輸出規制が厳しくなされていた)


そして、それは、機関砲の定番ともいえるボフォース40mmも同様であった。

ブローニング兎はすでに、本社自体が日系企業(本社所在地は満州国)であった。

そしてボフォース兎は、全てを日本(某ロシア太平洋艦隊)で購入してくれるため、極めて他国への輸出が進んでいない。そのため、名声も立っておらず、各国はその本当の実力を知らなかったのである。


「急いで外海に出るぞ、これでは狙い撃ちだ!」キッド少将は、冷静に命令している。

この時代の一般的考えでは、航空機により戦艦を沈めることは不可能であるとなっている。


真赤な戦闘機の編隊が此方に迫ってくる。

「ええい!撃ち落とせ!」

5インチ砲がそちらを向き始める。

しかし、その時、編隊の翼下から何かが離れる。

「何かを投下しました」

5インチロケットが一斉に発射された。


矢のように直進を開始するロケット群。

「なんだ!あれは!」


無情にも、後続の艦にそれらは命中し爆発する。

艦橋の周囲が爆炎に包まれる。

戦艦の装甲までも破壊できるはずもない。

しかし、甲板上の装甲の弱い機銃や、人員は全てが吹き飛ばされる。

可燃物が引火して爆発する。バイタルパートは守られているが甲板上は酷い有様になり果てた。


「クソ!なんだ、一体!」

赤い戦闘機隊は、機銃を掃射して飛び越えていった。


空一面に、敵機が乱舞していた。

キッドの精神状態では、空が隠れるくらい敵機が乱舞しているように思えた。

既に、フォード島の戦闘機は、全機が撃墜されていた。


戦艦は大丈夫という楽観はすでに消えていた。

戦闘機のあの武器ですら、脅威なのだ。

爆弾を連発されればどうなるかわからない。

そして、低空で侵入する敵艦攻には巨大な魚雷が光っていた。


後続艦には、連続して艦爆の爆弾が命中して砲塔が破壊されていた。

鉄壁の自信も揺らぐというものである。


後続の戦艦が濛々と煙を立ち昇らせていた。


キッド少将の自信はゆらゆらと揺らいでいた。

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