第113話 俺と貴様
113 俺と貴様
オアフ島のあちこちで火災が発生し、米国の航空機が撃墜されていた。
圧倒的な戦力比で太刀打ちできるわけがなかった。
フォード島からでは見えないが、各所の基地でも同じような光景が出現していた。
島を覆わんばかりの敵機が来襲していた。
司令部を壊滅させられた海軍航空隊は、なすすべがなく、全てが破壊されていく。
一方オアフ島に駐屯している陸軍は招集をかけていたが、兵員の住居にロケットが数発落下し、数十の建物を吹き飛ばされていた。
そして、車で移動する兵隊たちは、戦闘機の恰好の獲物となっていた。
派手に動いている者は全てが兵士だったからだ。
ロシアで訓練された戦闘機乗りは、住民であろうと銃撃することを辞さないが、帝国海軍の戦闘機乗りは、敵兵士を銃撃することには問題なかったが、一般住民を攻撃するつもりはなかったのである。
12.7mm機銃は、車など簡単に貫通した。
機銃座には、第7艦隊の戦闘機がロケット弾を撃ち込んでいた。
海軍航空隊のパイロットは、それが何であるか知らされていなかったし、知らなかったが、機銃座を排除してくれと通信を投げると、ロシアの部隊の誰かが、すぐに反応して機銃座を吹き飛ばした。
ゆっくりと動き出した戦艦たちは魚雷攻撃の良い的になっていた。
止まっていれば、爆撃機の的になるが、接岸している状態では、魚雷を当てることは難しいのだ。広い場所にでてきたおかげで魚雷で狙いやすくなったということである。
次々と水柱が吹き上がる。
その水柱は艦橋をも飲み込むほどの高さだ。
一隻が動きを止めると、後続艦が避けようとし始めるが、真珠湾の回廊はそんなに広くない。
瞬く間に、大渋滞が発生してしまう。
まさに、魚群に群がる海鳥のように、航空機が渋滞した艦船部隊に殺到していく。
周囲360度からの雷撃であった。
酸素魚雷は航跡を残さないが、真珠湾の浅い海では黒い物体が見えるのだ。
次々とそれが味方の船に吸い込まれていく。
爆発、爆発、爆発!
練度の高い敵の雷撃が味方を飲み込む。
足の止まった艦艇に急降下爆撃が浴びせられる。
爆弾の火が弾薬庫に飛び火した戦艦が大爆発し、周囲の船をも巻き込んで行く。
ネバダ、テネシーだけが外洋にでようとフォード島を周回していた、その後ろの艦船は、大渋滞中に狙い撃たれていった。
「クソ!何てことだ」キッド少将は吠えるが、どうしようもない。
「陸軍の航空隊は何をしているんだ!」
「連絡が取れません」
どの基地も、戦闘機を根絶やしにされていた。
練度の高い部隊のみが空母部隊にいるのである。そして、米国の旧式戦闘機では、新型零戦に格闘性能で大きく劣っていたのである。第7艦隊の艦戦は紫電改だったが。
小回りの利く駆逐艦が、外洋へと出ていく。
何隻かが、ネバダ、テネシーの後ろに入って守りを固めようとしていた。
「早く、空母部隊に連絡を取れ、合流するのだ」
「はい、今やっています」
真珠湾の出口の細い部分をもうすぐ抜けることができる。
この数で敵艦隊と戦えば袋叩きに会ってしまう。
流石に、逃げるにしかず。
多くの艦船が湾内で燃えている、「必ず仇は取る」キッドはそう呟いた。
既に敵の航空機は逃げる自分達に興味を失ったかのように、港湾施設などを爆撃し始めていた。
ほぼ無傷の戦艦ネバダと甲板にロケット弾の掃射を浴びたテネシーが湾外にでようとしていた。
・・・・・・・・・・
少し時間は遡る。
「湾外に逃げてくる戦艦に魚雷の飽和攻撃を仕掛けてほしいのだ」
そこには、例の男と潜水艦隊を率いることになった小松中将がいた。
「え?」
「真珠湾の出口から出てくる戦艦を湾口から出る前に撃沈してほしい」
「そんなことが」
「勿論可能だ、というかやり給え」この男は人に命令することに慣れている。
同期でも確かに先任ではあるのだが・・・・。
確かに私は臣籍降下して、一軍人になったとはいえ、元は皇族だったような。
男にとって、それはありがたがるような価値を見出していなかったようだ。
「そのために、潜水艦を魚雷付きで格安価格で販売しているのだよ」公私混同が激しく、軍人でありながら、武器を自軍に売りつけるという、『我田引水』を地でいっている。
「しかし、そんなに簡単に行くのか」
「行く。彼らは必死に逃げてくるはずだ、警戒している余裕などないのだよ」
余裕をぶっこいて、言い切る男。
「だが、潜水艦の数が・・・」
「我々の計画では各所に100隻を配備するが、100隻は残っている。その半数を
連れて行き、息をひそめて、只管をまつのだ」
この野郎!潜水艦乗りがどれだけストレスフルかを全く理解していないだろう。
それも当然である。
男はそれに乗ったこともない。ついでに言うと艦隊勤務もほぼないのだ。ほぼ地上勤務である。所謂、岡サーファーと同じで姿かたちだけ海軍軍人の似非海軍軍人であった。
現場のことなど知ることもなかったのだ。そういう意味では稀有な海軍軍人である。
「な~に、簡単なことだ。真珠湾で火の手が上がる。そうすると戦艦が慌てて出てくる。それを一斉射撃するだけだ。簡単だろう」
「お前!」
「まあ怒るな、文句もでるとおもったので、
近ごろは、ウラジオストクの酒を独占販売して物凄い勢いで儲けているらしい。
トラックでウォッカが大量に基地に運びこまれていた。
「それって、アメリカで密売するために大量に生産して密輸出してたものの残りだろう」
小松は風の噂で聞いていたのだ。アメリカでは禁酒法が存在し、酒が高く売られていたのだ。
「そんなことは無い、生産能力が高すぎるから少し余っているだけなのだ、心配は無用だ」
「心配などしておらん!風紀が乱れるといっているのだ」
「小松、今日は機嫌が悪いな、久しぶりに相撲でもするか」
小松の顔から血の気が失せる。
この男は相撲という競技名でプロレス技を簡単に使う。
相撲でもするかというのは、喧嘩のことである。
『喧嘩』では、教師たちが飛んでくるので『相撲』と呼んでいたのである。
そして、それはこの男の場合は処刑という意味を持つ。
下手投げというバックドロップやジャーマンスープレックスで大けがを負った生徒(上級生)が何人もいたのである。
「何もそんなに怒ることないじゃないか」小松は下手にでた。
「怒ってなんかいるものか、俺と貴様の仲だからな」
「そうだ、貴様と俺の仲だしな」
小松は戦う以前に降伏したのである。
戦争を前に死ぬわけにはいかない。
小松中将は海軍の良識なのだ。
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